ランチタイムをとうに過ぎていたが、半分以上の席は埋まっていた。ドライブスルーには10台ほどの車が並び、持ち帰りの商品を求める客足も絶えない。米西海岸で「ソウルフード」とも呼ばれる人気ハンバーガーチェーンの「In-N-Out(イン・アンド・アウト)バーガー」。2月初旬に訪れたオークランド店(カリフォルニア州)は、約400ある同チェーンの他店舗と変わらぬにぎわいを見せていた。

3月に閉店する「In-N-Outバーガー」のオークランド店(カリフォルニア州)
3月に閉店する「In-N-Outバーガー」のオークランド店(カリフォルニア州)

 だが、この店舗はあと1カ月あまりで閉店する。店が繁盛する傍らで、客や従業員を狙ったひったくりや車上荒らしの被害が絶えないためだ。18年前の開業時からの常連客というボブ・グリフィンさんは「ここ数年、何度も犯行現場に出くわした」と話す。標的と定めた車のそばに乗り付けて大胆に窓を割り、中身を盗んであっという間に走り去るのが犯行グループの常とう手段だ。空港に近いため、スーツケースを抱えた観光客も頻繁に狙われた。

 「犯罪の頻度とひどさを考えると、他の選択肢はなかった」。日経ビジネスの取材に対し、イン・アンド・アウトのデニー・ワーニック最高執行責任者(COO)は書面でこう答えた。近隣への移転を伴わない純粋な「閉店」は、約75年に及ぶ同チェーンの歴史で初めてだという。「顧客と従業員の安全が最優先だ。安全でない場所に来てもらったり、働いてもらったりすることはできない」(ワーニック氏)。