長らくSuicaをはじめとする交通系ICカードが日本の公共交通機関での決済の主流だったが、その状況に変化の兆しが起きている。
公共交通機関向けの決済サービス「stera transit」を運営する三井住友カードは、Visaなどの国際ブランドのタッチ決済の普及を推進している。

シンポジウムの登壇者。
撮影:石井徹
三井住友カードが8月27日に開催した「stera transitシンポジウム2024」には、各地の公共交通機関が参加。タッチ決済の活用事業者として4社が登壇した。
三井住友カードを中心に、公共交通機関各社の事例をもとに、交通とキャッシュレスの現場で起きている変化を解説したい。
2025年度末には全国70%の駅でタッチ決済が使えるように

三井住友カードの大西幸彦社長。
撮影:石井徹
三井住友カードの大西幸彦社長は、加盟店での対面クレジットカード決済について「カード利用=タッチということになるのは間違いない」と断言した。
さらに、世界的なトレンドとして、クレジットカードのタッチ決済比率が20%を超えることで急速に普及が進むと指摘。この流れが日本の交通系決済にも波及すると予測した。
stera transitは日本各地の公共交通機関に拡大している。
三井住友カードによると、stera transitの導入事業者数は2022年度の65社から、2024年度には180社、2025年度には230社へと大幅な増加が見込まれている。
2024年度末時点で、バス3500両、鉄道駅1600駅での導入が予定されており、36都道府県をカバーする見通しだ。さらに2025年度末までには42都道府県に拡大する計画だ。
2024年度には、関西圏の大手私鉄・公営各社で全駅展開が開始予定だ。同時に、東京メトロなど首都圏の地下鉄・私鉄各社でも実証実験が始まる。
関西圏では780駅、首都圏では430駅、合計1210駅でstera transitが利用可能になる見込みだ。
大手民鉄16社と公営地下鉄8社での導入も進んでおり、2024年度末までに、これらの事業者の駅の52%でタッチ決済が利用可能になる予定。2025年度末には70%まで拡大する見込みだ。
stera transitの4つの展望
会見ではstera transitの今後の展開について、4つの方向性を示された。
1. 柔軟な交通乗車サービスの提供
1つは、定額乗り放題などさまざまな割引や企画券への対応だ。
大西氏は「1日上限サービス、月額上限割引、片道割引など、さまざまな状況に沿った柔軟な乗車方法が考えられる」と説明する。
1日や月間で支払い金額の最大値を決めたサービスは既に福岡市や熊本市、鹿児島市で導入されており、定期券よりも幅広い日常利用ニーズに対応できるという。
2. 交通乗車と様々な消費・サービスとの連携
交通機関への乗車だけではなく、その周辺のサービスとの連携も進めていく。
具体的には、「観光施設の入場、宿泊などの旅行関連の消費と連携」「沿線の百貨店と連携」「シェアリングサービス、マイクロモビリティ等との連携」(大西氏)を挙げる。
連携により、交通機関の利用と観光施設の利用を組み合わせた企画券や、特定の商業施設での買い物額に応じて交通費を割り引いたりするなど、サービス展開が可能になるという。
3. 乗客のデータ分析が可能に
三井住友カードは「Custella Transit」という分析サービスのダッシュボードを用意する。
乗降駅情報、国籍情報、時系列データ、時間帯別の移動データなどを可視化できる。例えば、国籍ごとの乗降データや消費金額の分析が可能となる。
さらに、インバウンド需要の詳細な把握や、時間帯や曜日ごとの利用傾向の分析が可能になる。
こうしたデータにより、交通事業者はより的確なマーケティング施策を実行できる。
例えば、週末限定の女性向け割引切符や、夜間の観光客向け周遊パスなど。データ活用は、より効果的なサービス提供と顧客満足度の向上につながると、大西氏は強調した。
4. MaaSプラットフォームの展開
一方、消費者向けには、交通からその周辺サービスに1つのアプリでアクセスできるいわゆる「MaaS(Mobility as a Service)アプリ」を2025年3月までに提供する。
大西氏によると、この時点での主な機能は「企画券などの販売」だという。
将来的には、交通機関や観光施設と連携した多様な乗車券の販売を計画している。
例えば、電車やバスの乗り放題に観光施設の入場券をセットにした「観光周遊パス」のような商品ができる展開も見込まれている。
さらに、三井住友カードの自社アプリとしての展開だけではなく、MaaSプラットフォーム技術を既存の交通系アプリに組み込むことも検討されている。
Suicaなど交通系ICとは「共存して使っていくことになる」
駅やバスなどのタッチ決済市場の獲得を目論むのは、もちろん三井住友カードだけではない。日本の公共交通決済市場に、国際ブランドのタッチ決済が急速に浸透しつつある。
Visaの藤森貴之氏によると、2017年7月に三井住友カードとVisaが公共交通機関向けタッチ決済プログラムを開始して以来、現在では100以上のタッチ決済プロジェクトが稼働している。
これは、FeliCaを用いたシステムが主流だった日本の交通系決済に、新たな選択肢が加わりつつあることを示しているという。
三井住友カードの取り組みは、一見するとSuicaなど既存の交通系ICカードとの競合を想起させる。しかし、大西氏はむしろ共存の可能性を示唆している。
「(交通系ICやタッチ決済)いろいろな決済を共存して使っていくことになると思うので、その中でJRさんがご検討いただく時期が来ればいいと思っている」(大西氏)
福岡市交通局の事例では、タッチ決済のユーザーは1日あたり1万5000人と、全体の乗降客の3.1%を占めている。このうち27.5%が海外発行のカードとなっており、韓国からの訪問者が66.1%を占めている。
この数字は、福岡空港と博多や天神といった福岡市の繁華街を結ぶ地下鉄を展開する同市地下鉄ならではで、インバウンド需要に対するタッチ決済の有効性を示している。
同様に、福岡市交通局の直通先でもあるJR九州もVisaのタッチ決済の導入に前向きだ。
地方の交通事業者では、みちのりホールディングス傘下の茨城交通の例がある。
茨城交通では2024年2月に路線バスへ国際ブランドのタッチ決済に加えて、QRコード決済を導入した。
導入から半年でタッチ決済が3%、QR決済が3.6%の利用率を示し、現金と独自の電子マネー決済が8.1%減少している。
この動きは、Suicaのような大手交通系ICカードと新たな決済手段が肩を並べる時代の到来を予期させる。
交通系ICカードの利用が縮小傾向にある中で、タッチ決済やQR乗車券は新たな選択肢となりうるのか注目だ。
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