見えますね、見えますね、ほら消えた──。魔術師が舞台で人や物を消すかのごとく、商品ラベルに「ナチュラル(自然)」と書かれた食品がこつぜんと姿を消し始めている。
「ナチュラル」ゴールドフィッシュ・クラッカーはただのゴールドフィッシュになるし、「オール・ナチュラル」ネイキッド・ジュースはただのネイキッドになる。パフィンズの「オール・ナチュラル」シリアルはかつてのパフィンズに逆戻りする。
最近、こういった表記をパッケージからひそかに削除する食品・飲料メーカーが増えている。飲料大手のペプシコや食品大手のキャンベル・スープなどもそうだ。背景には、ポテトチップ、アイスクリームからグラノーラバーに至るまで、あらゆる食品の「ナチュラルさ」に異議を唱(とな)える訴訟が起きていることがある。
「ナチュラル」と表記された食品の米小売売上高は過去12カ月間で400億ドル(3兆9400億円)を超えている。調査会社のニールセンによれば、これを超えるのは「低脂肪」をうたった食品の売上高だけだ。別の市場調査会社ミンテルの昨年の調査によると、米国人の51%は食品を購入する際、「オール・ナチュラル」と表記されたものを探していることが判明した。
問題は「ナチュラル」という言葉に明確な定義がないことだ。
米食品医薬品局(FDA)の広報担当者によると、FDAに定義はないが、長年の指針があるという。それは、「ナチュラル」が「人工物ないし合成物(全ての着色添加物を含む)が食品に入っていない、ないし加えられていない」ことを意味するとみなす、という指針だ。FDAのウェブサイトには、「『ナチュラル』な食品の定義は難しい。なぜなら、食品は恐らく加工されてきており、その時点で、もはや地球の産物ではないからだ」と書かれている。
9月に「食品表記近代化」法案が連邦議会に提出されたが、これはFDAに基準となる単一の栄養成分表記システムを確立するよう義務付ける法案で、この中には「ナチュラル」という表記の使用に関する指針も含まれている。しかし、いかなる法律もまとまるまでには長い時間がかかる。
一方で、虚偽広告を訴える訴訟は増えている。弁護士によると、ユニリーバ傘下のアイスクリームブランド「ベン&ジェリーズ」、ケロッグのシリアルブランド「Kashi」、ビームのアルコール飲料「スキニーガール」や、その他数十のブランドの「ナチュラル」という表記に異議を唱えた訴訟が過去2年間に少なくとも100件提起されているという。一部の訴訟は却下されたが、一部は数百万ドルの和解金を支払うことで終結した。係争中のものもある。訴訟の大半は、商品を購入した消費者を代表する原告の弁護人が提起し、集団訴訟としての扱いを求めている。
消費者団体「公共利益科学センター(CSPI)」の訴訟担当責任者スティーブン・ガードナー氏は「多くの訴訟があるが、それは企業が人々をだますのをやめるまで続くだろう」と述べた。CSPIは企業数社にパッケージから「ナチュラル」や「オール・ナチュラル」の表記を削除するよう求めている。
法律事務所Kaye Scholerの弁護士で、米国法曹協会製造物責任委員会の共同委員長を務めるロリ・レスキン氏は「企業は現時点で価値がないとして、ナチュラルの表記を削除する傾向にある」と話した。
市場調査会社データモニターによると、2013年上半期に米国で発売された食品で「ナチュラル」と表記されたものは全体の22.1%、飲料は34%にとどまった。09年時点では、食品が30.4%、飲料が45.5%だった。データモニターは、多くの米国人が依然としてナチュラルな食品を求めているものの、表記を信頼できるとみているのは47%にすぎないと指摘する。
FDAが定義を明確にしていないため、訴訟の当事者の双方が混乱している。メキシコ・グルマ社のトルティーヤチップブランド「ミッション」とゼネラル・ミルズのグラノーラバー「ネーチャー・バレー」に対する訴訟については、判事が今夏、6カ月間保留する判断を下した。その上で、遺伝子組み換え作物(GMO)の入った製品を「ナチュラル」と表記して販売できるか否かについての指針を出すようFDAに求めた。
法的な不透明さはペプシコにとって逆風だ。同社はスナックをよりヘルシーにする取り組みをし、その成果を消費者に知らせるため、「オール・ナチュラル」という表記を使っていた。
同社のスナック部門「フリトレー」はペプシコ全体の戦略シフトの一環として、11年までに60以上の商品の成分の入れ替えを行い、30種程度の人工原材料を排除した。着色料のFD&C Red 40はビート、キャベツとニンジンに入れ替えた。ポテトチップのバーベキュー味については、本来の味に似た味を探すため300種以上の「オール・ナチュラル」版を試したのだという。
その年に同社はフリトレー史上最大のマーケティングキャンペーン、「シード・トゥー・シェルフ(種から棚まで)」に着手し、ポテトチップの「レイズ」やトルティーヤチップの「トスティートス」などのパッケージに「オール・ナチュラル」と表記した。しかし、昨年までにペプシコを相手取った訴訟が数件提起された。商品にGMOやカラメル色素といった添加物が含まれていることに異議を唱える訴訟だ。これを受け、「オール・ナチュラル」の表記はひそかに姿を消したが、訴訟は継続中だ。
フリトレーの広報担当者は同社がパッケージを「常に更新している」と述べ、訴訟に関するコメントを拒否した。ケロッグとビームも同様にコメントを控えた。





