インフォメーション

2026-06-05 20:57:00

北米

2026.06.05 16:15

「100グラム1万円」━━NY和牛事情。米国産Wagyuや「全米和牛組合」も

  • Xのリンクアイコン
  • facebook
  • LINE

写真=著者提供

以下、ニューヨーク・ブルックリン在住の作家、新元良一氏にご寄稿いただいた。

 


「金色のレリーフ」と「認定書」!

週末は、一週間のための買い出しに充て、大抵の場合、ブルックリンの自宅から徒歩圏内の方面へ出かける。先日も商店やレストランが建ち並ぶ通りを歩いて、一軒の肉屋に入った。

この店が以前から気になっていたのは、「和牛」と表示された肉を取り扱うからだが、中へ入ってみると、日本語で書かれた認定書が目にとまった。「兵庫県但馬牛 神戸肉」と記されたプレートの上には牛の横顔をあしらう金色のレリーフとその認定書が重ねて置かれ、入口近くのカウンターという目立つ場所に立て付けてあった。

写真=著者提供
写真=著者提供

米国での神戸牛の高級肉としての知名度は高く、わたしもニューヨークで、日本の地理に詳しくない初対面の相手に「あのKobe beefで有名なところ」と、自分の出身地を話すことがある。高品質の肉となれば、それを証明するためのものが必要と店側が判断し、こうした証明書を出していると思われた(日本語表記のため、内容は店員が説明しているだろうが)。

 

さて、その神戸牛とはどんなものかと視線を移したところ、認定書の下の位置するショーケースに宮崎牛と並んで陳列されていた。日本の高級肉にふさわしく、いわゆる霜ふりで赤みとの色合いが鮮やかだが、1ポンド(約450グラム)あたり279.99ドル(およそ44500円)━━100グラムあたりおよそ1万円と、自分のような庶民にはおいそれと手が届かない値段が表示されてあった。

米国産「和牛」? 「全米和牛組合」も

その二日後、ニューヨーク・タイムズ紙電子版で、“かつて高級牛肉を保証したWagyu(和牛)、現在その価値は?”の見出しに入る記事が掲載された。

「和牛」の名前がつくからには、日本からの輸入品と思いたくなるが、最近は産地が米国やオーストラリアの肉に付くのも珍しくない。肉屋やスーパーで売られ、和牛肉のハンバーガーやピッザをメニューに載せるレストランもあるなど、米国での和牛人気はピークに達した感がある。

記事によると1970年代、すでに日本からの高級牛肉の輸入は行われていたが、90年代に入って、「市場を守ることが脅かされる」理由から日本産サイドから海外への輸出の規制が厳しくなった。一方で、93.75%以上の純血腫が「和牛」と呼ばれる日本に対し、米国ではさほど規定の数値は高くない。美味しい牛肉という一般認識の和牛の呼称がひとり歩きし、米国産や豪州産の牛肉にもその名が使われるようになった。

“和”という文字が付くと、日本の文化や形式をイメージする人間にとってはいささか違和感を覚える話だが、米国産の和牛を扱う、米国の業者にも言い分がある。全米和牛組合(American Wagyu Association)のトップを務め、自らも500頭ほどの牛を有する牧場の経営者でもあるシーラ・パティンキン氏は、和牛の大きな特長の霜降りについて、米国産が「日本産のものに近づきつつある」と話しながらも、その独自性を次のように語る。

「大事なのは、わたしたちは日本産和牛と同じ品種ではない、ということです。米国産和牛は、自分たちなりに品質向上を遂げてきた」

米国産の和牛が浸透する一方で、日本産サイドも近年“本家”として市場での存在感を示そうと努めている。日本産和牛のプロモーション会社が立ち上がり、レストランのシェフに調理の仕方などを指南するなど、認知度を高めるための活動を展開中と記事は伝える。先の日本語表記による神戸牛の認定証も、おそらくこうした日本産牛肉のステイタスを高める目的なのだろう

「Kaizen(改善)」か「Transform(変形)」か?

さて、ビジネスはさておき、和牛人気の現況を見るにつけ考えさせられるのは、米国においての日本へのまなざしとその変遷についてである。

 

ちょうど1年前、同じニューヨーク・タイムズ日曜版のライフスタイル雑誌「T」が大々的な特集を組んで、現在の日本のカルチャーについて多方面から取り上げていた。詳しい記事の内容は別の機会にするが、そこで注目されたのが、海外から輸入したもののクォリティを高めることに日本が長けている点だった。

長らく奈良に暮らす、国際的に著名な紀行作家ピコ・アイヤーは、同特集に寄稿した文章で、英国の外交官・学者のW・G・アストン氏による次の言葉を引用している。

「日本人は、単なる借用に決して満足しない。他者から取り入れるいかなるものに対しても、広範囲にわたって改良を施し、ナショナル・ブランドとしての刻印を与える傾向の人たちである」

 

お家芸とも呼べる日本の改良技術への米国の評価は、時代とともに変化した。

80年代後期から90年代にかけて、バブル経済さなかの日本が米国のメディアで紹介されるとき、「Kaizen(改善)」という言葉をよく見かけた。どことなく工場での製造工程を連想させ、経済面で勢いがあった当時の状況と日本人の特性を示す言葉である。

それが、昨年出た「T」マガジンでは「Transform(変形)」が現在の日本への印象を言い当てる表現のように思えた。村上春樹氏は昨年12月のニューヨークでの講演で、「失われた30年」とされる日本の経済と異なり、日本の文化は過去30年間で米国の認知度を高めたと語ったが、改良の匠の技術にも支えられ日本の文化は、ある意味上り坂を歩むように映る。

文学、アート、映画、ファッション、アニメと国外で高級、洗練と羨望の的となる日本文化のなかには和牛を含む“食”も組み込まれる。日本から逆輸入されたステーキに代表される肉料理も然りだ。「和牛」の名のもとで、牛の飼育方法から調理まで極上の品質に近づく技術を駆使し、高級牛肉のブランド・イメージを築き上げた。

「何でも日本がベスト」と吹聴するのにはためらいを感じる。だが、和牛に代表されるように、日本産の品質に対する米国での一般的な評価が高いことは間違いない。独特の審美眼と高度な技術によるソフト・パワーを用いて、日本が今後、米国を含め海外においてどれほど存在感を示していくか、わたし自身も大いに期待を寄せている。


文=新元良一 編集=石井節子

 

「100グラム1万円」━━NY和牛事情。米国産Wagyuや「全米和牛組合」も | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)