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2021-09-03 22:03:00

福岡企業が広州に日本食品店 在日中国人からニーズ探る新手法

事業開発やイベント企画のトータルプロデュースを手掛けるシーアンドイー(福岡市博多区)は5日、九州産を中心とした食品を扱う店舗「日嘗君」を広東省広州市で開業する。日本で暮らす中国人から高評価を得た商品だけを販売するユニークな方法を採用。消費者ニーズにより近づく手法だ。新型コロナウイルスの影響で日中間の往来が制限されている中、これまでにない取り組みとして注目を集めている。【広州・川杉宏行】

日本食品店「日嘗君」のイメージ図。店内に陳列する日本産食品は全て試食できる(シーアンドイー提供)

日本食品店「日嘗君」のイメージ図。店内に陳列する日本産食品は全て試食できる(シーアンドイー提供)

日嘗君は、シーアンドイーのグループ会社である広州当先国際貿易(広州市)が運営。市内番禺区の観光・商業施設のコミュニティーエリア「西坊大院」に設けた。主に福岡県を中心とする九州メーカーの食品を取り扱い、店舗では全ての食品を試食できるようにする。まずは48品目からスタートし、年内には300品目まで増やす計画だ。

中国事業の展開に当たり、シーアンドイーは独自のマーケティングシステム「Tousen(トウセン)」を構築した。日本の食品メーカーが無償提供するサンプルを九州に在住する子育て世代の中国人女性が試食。高い評価を得た場合、工場見学を通じて製品開発のストーリーを知ってもらった上で、商品レビューを書いてもらい、中国でのテスト販売時に活用する。現地での販売量が増えれば、シーアンドイーが商品を委託販売したり、買い取り販売をしたりする仕組みだ。

日嘗君ではまず、菓秀苑森長(長崎県諫早市)のカステラ、味の兵四郎(福岡県筑紫野市)のあごだし、フンドーキン醤油(大分県臼杵市)のしょうゆやみそなどを販売する。取引先メーカーは現在9社だが、来春までに50社へと増やす計画だ。

実店舗は広州だけにとどまらず、将来的に北京や上海などで開設することも視野に入れている。

シーアンドイーの魚住昌彦社長は「何をおいしいと思うかは国や地域によって異なるが、自国外の食品を買い求める際に、同胞が薦める商品は信頼が置ける」と強調。「日本の食品メーカーの商品で、まだ良さが知られていないものを探し当て、中国で売り込みを図りたい」と意気込む。そのためにはサンプル試食の際、在日中国人に「中国にいる家族や友人に薦めたい」と思ってもらえるかどうかが重要だと指摘する。

広州の日系コンサルティング会社、せとうちコンサルタントの平岡省吾総経理は「コロナ流行前は日中間の往来が盛んで、中国人が自ら日本に足を運び、現地で日本食を味わうことができた。現在は往来が思うようにできなくなったが、トウセンのようなシステムを活用することで、中国人は母国にいながら、日本にいる同胞によって最新の日本食の情報を収集することができる」と指摘。今回のシーアンドイーの取り組みは「コロナ下での新しい試みとして注目したい」と話す。

■オンライン販売も展開

シーアンドイーは、中国の電子商取引(EC)や会員制交流サイト(SNS)でも日嘗君と同じ商品の販売を行う。魚住氏は「実店舗にはアンテナショップ的な役割を担わせ、ECやSNSでの販売拡大につなげたい」と説明する。

EC最大手の阿里巴巴集団(アリババグループ)傘下の通販サイト「淘宝(タオバオ)」に自社サイトを開設済みで、既にテスト運用を開始。5日の実店舗オープンに合わせて本格運用を始める予定だ。インターネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)が運営するチャットアプリ「微信(ウィーチャット)」のミニプログラム(ウィーチャット内で動くアプリ)でも販売を行う予定で、9月中旬をめどに運用を始める見通し。

日本食品店「日嘗君」で販売する菓秀苑森長(長崎県諫早市)のカステラ。店舗では主に福岡を中心とする九州産食品を取り扱う(シーアンドイー提供)

日本食品店「日嘗君」で販売する菓秀苑森長(長崎県諫早市)のカステラ。店舗では主に福岡を中心とする九州産食品を取り扱う(シーアンドイー提供)

 

動画配信を使ったインターネットでの実演販売「ライブコマース」も積極的に活用する。例えば、日本ではなじみの酎ハイ(焼酎の炭酸割り)も中国ではそれほど知られていないとみて、動画を通じて作り方を紹介する。酎ハイに興味を持った視聴者が動画の画面上から焼酎を購入することもできるようにする。動画配信は9月下旬までに、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の中国版「抖音(ドウイン)」を使って始める予定だ。

■「消費者のリアル」把握を

中国市場に詳しい日本人関係者は、「日本の地方企業による中国での市場開拓は一筋縄ではいかない」と話す。特に日本国内の落ち着いたビジネス環境で安定した経営を続けている地方企業にとって、中国市場の変化のスピードは「あまりにも速い」という。「消費者ニーズの変化が激しく、その変化は主要な経済指標だけを追っていても把握できるものではない」と指摘する。

一般家庭の冷蔵庫の中身は何かといった「消費者のリアル」を理解する必要があり、消費者目線に立った「ミクロのニーズ」を捉えるなど、地に足のついた事業展開が求められるというのだ。それができないと、雑多な情報に振り回され、経費だけがかさんで実績が出せないという事態に陥りかねないと警鐘を鳴らす。同関係者は、そうした観点からもシーアンドイーが手掛ける在日中国人の評価を活用したユニークな手法に「注目している」という。

シーアンドイーをはじめ日本の地方企業が中国で商品販売を行う場合、こうしたミクロのニーズを拾い上げることができるかが、事業展開を占う上で鍵の一つとなりそうだ。

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