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2020-01-18 13:44:00

中国、19年にハイテクなど44社国有化 産業保護強める

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2020/1/16 15:00
日本経済新聞 電子版
 
 
 
 
 

【北京=多部田俊輔】中国の民営上場企業44社が2019年に国有企業に転換した。米中貿易戦争で打撃を受ける恐れがあるハイテク分野の企業を政府の資金によっててこ入れするケースが目立ち、国有化された44社の合計の時価総額は4兆円規模に達する。トランプ米政権は中国の先端企業への補助金などの政府支援を取りやめるよう求めてきたが、中国側はむしろ米国との対立長期化に備えて重点産業の保護を強めてきた実態が浮き彫りになった。

 

重要産業の国有化の流れは強まっている(美亜柏科の製品体験センター、同社サイトから)

重要産業の国有化の流れは強まっている(美亜柏科の製品体験センター、同社サイトから)

米中両国は15日、貿易交渉を巡る「第1段階の合意」に署名しており、近く中国の知的財産保護や中国企業への補助金問題などを巡る第2段階の協議に入る。今後の米中交渉でも米側が中国のハイテク企業の国有化を問題視するのは必至だ。

国営新華社系の経済紙、中国証券報によると、19年に中国で上場する企業のうち、165社で経営権を握る株主の変更があった。中国経済の減速を背景に経営難に陥った企業が増えたことから、18年よりも約6割増えたという。

このうち44社で、経営権を握る大株主が民間の創業者などから国有企業や政府が運営する投資会社に代わった。国有企業の傘下に入った企業の事業領域は防犯システムや情報システムなど、習近平(シー・ジンピン)指導部が重視する治安に関係するハイテク分野の企業が目立つ。

44社の合計の時価総額は2500億元(約4兆円)規模に達する。時価総額が約2500億円で最も高いのはアモイ市美亜柏科信息だ。公安なども含む司法部門のデジタルデータやネット空間の検閲にかかわる技術を手掛ける企業で、国有の国家開発投資集団のグループ企業、国投智能科技の傘下に入った。

広東省深圳市政府の投資会社が買収した深圳英飛拓科技は公安向けの防犯システムなどを手掛け、北米や欧州など100カ国以上への輸出実績を持つ。四川省政府の投資会社が傘下に収めた東方網力科技は監視システムなどを手掛けている企業だ。

リチウム電池の製造設備で知られる深圳市贏合科技は国有電機大手、上海電気集団に買収された。電池は習指導部がハイテク産業育成策「中国製造2025」で重視する産業分野だ。人工知能(AI)やビッグデータを活用した電力管理などを手掛ける遠光軟件は国有送電大手の国家電網の傘下に入った。

 

中国政府は18年後半から経営難に陥った民営企業の救済に乗り出した。中国メディアによると、地方政府を中心に金融機関などが参画する形で5千億元規模の資金が準備され、19年6月末までに860億元が利用されたという。

しかし、44社の18年12月期の業績をみると、最終赤字だった企業は11社で全体の25%にとどまる。美亜柏科は同期の売上高は前期比2割、純利益は同1割それぞれ増えた。英飛拓と東方網力の同期の売上高はそれぞれ5割と2割増加した。

トランプ米政権は中国のハイテク産業が米国の技術覇権を脅かしかねないと危機感を強め、追加関税や禁輸などの制裁措置で狙い撃ちしてきた。ハイテク分野の国有化は米中対立の長期化をにらみ、政府が国内産業を保護するための戦略的な買収という側面もある。

中国経済で民営企業の役割は大きい。中華全国工商業聯合会によると、民営企業は雇用の8割以上、国内総生産の6割以上を占める。しかし、国家統計局が一定規模以上の工業企業を対象に実施した19年1~11月の民営企業の利潤総額は1兆5900億元で、国有企業の1兆6000億元を下回った。民営企業が国有企業を下回るのは18年に続いて2年連続となる。

民営企業の国有企業への転換について、地方政府の関係者は「党の方針に沿った民営企業の支援策の一環だ」と説明する。ただ、中国の外資系投資会社の幹部は「民営企業への政府のコントロールが強まり、民間事業が圧迫される『国進民退』が進んでいるようだ」と指摘する。