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2019-09-07 18:05:00

「植物肉」市場が本格離陸 米外食、相次ぎメニューに

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北米
2019/9/6 11:50
日本経済新聞 電子版
 
 
 
 
 

 

ビヨンド・ミートなどから植物肉を調達し、メニューに取り入れる外食チェーンが米国で急増している(写真はイメージ)

ビヨンド・ミートなどから植物肉を調達し、メニューに取り入れる外食チェーンが米国で急増している(写真はイメージ)

植物由来の材料で作る「プラントベースドミート(植物肉)」の市場が急速に広がっている。8月に米バーガーキングが販売地域を全米に拡大、「ケンタッキーフライドチキン(KFC)」の運営企業も試験販売に乗りだした。健康や環境保護をうたって注目を集める植物肉はいまや、外食各社にとって若い顧客の開拓に欠かせない存在。米ビヨンド・ミートなど先行する新興企業に追随するため、大手の食肉・食品企業もこぞって参入し始めた。

米サンフランシスコで5日に開かれた植物肉のシンポジウム。日本経済新聞の取材に応じたビヨンドのチャック・ムス最高成長責任者(CGO)は「新規株式公開(IPO)をしたことで植物肉に興味を示す人が一気に増えた。供給量を急ピッチで拡大する」と意気込んだ。

5月にナスダック市場に上場したビヨンドは植物肉市場をけん引する企業の筆頭格だ。5日時点の時価総額は97億ドル(約1兆円)。2019年の売上高予想は2億4千万ドルと、2年前(17年)と比べて7.4倍に急増する見込みだ。実際、ビヨンドのもとには、植物肉を供給してもらおうと多くの外食チェーンが日参している。

 

例えば7月には、ドーナツや軽食を扱う「ダンキン」の運営会社と提携した。ダンキンはニューヨーク市内の160店舗で植物肉パティを挟んだサンドイッチの販売を開始。米国内にある9400の店舗に段階的に広げる考えという。8月末にジョージア州アトランタの店舗で植物肉ナゲットの試験販売をしたKFCでは、およそ1週間分の在庫が5時間で売り切れる珍事も起きた。

一方、ハンバーガーチェーンで2位のバーガーキングはビヨンドの競合であるインポッシブル・フーズ(カリフォルニア州)と手を組んだ。一部の州での試験を経て、8月から全米にある7300の店舗で植物肉で作った「ワッパー」を扱い始めている。

植物肉ワッパーを食べていた20代の男性は「見た目も味も、動物の肉と見分けが付かない」と話す。冷めるとぱさつきや豆の味を感じるものの、おおむね好評だ。5日のサンフランシスコのシンポジウムでも参加者から「この1~2年でおいしく食べられる水準まで改良が進んだ」との声が相次いだ。

ダンキンは7月から米国の一部の店舗で、植物肉を挟んだ朝食用サンドイッチの販売を始めた(写真はニューヨークの店舗)

ダンキンは7月から米国の一部の店舗で、植物肉を挟んだ朝食用サンドイッチの販売を始めた(写真はニューヨークの店舗)

 

米国の肉食文化を象徴するファストフード店が競うように植物肉をメニューに取り入れるのはなぜか。「離れていった顧客との関係を再構築することができるからだ」。19年初めからビヨンドの植物肉バーガーを販売している「カールスジュニア」の運営企業、CKEレストランツのパティ・トレビノ上級副社長はこう説明する。

米国では6%がベジタリアン(菜食主義者)とされるほか、30代以下の若年層では健康や環境に配慮して肉を食べない日を時々設ける「フレキシタリアン」が増加中だ。仲間で食事をする際に一人でも菜食志向の人がいると店の候補から外れてしまうため、機会損失を防ぐうえでも植物肉の重要性は増しつつある。

外食各社の「植物肉詣で」を目の当たりにして、牛や鶏、豚を扱う食肉・食品大手も動き出した。米タイソン・フーズは今夏、スーパーで植物肉ナゲットを発売した。牛肉と植物肉を混ぜた製品も開発しており、タイソンのノエル・ホワイト最高経営責任者(CEO)は「我々は(植物肉など)代替たんぱく質でも戦う」と話す。米パーデュー・ファームズや米スミスフィールド・フーズといった他の食肉企業も植物肉への参入を表明済みだ。

もちろん、急速な市場の拡大はあつれきも伴う。米国では食肉生産者の働きかけにより、植物肉を「ミート(肉)」と呼んで販売するのを禁止すべきとの法案が30州で提出された。植物肉より20年ほど早く市場に登場した植物性ミルクが米乳業大手を苦境に追いやる規模に育っており、二の舞いを避けたいとの意識も垣間見える。

ただ、調査会社ジオンマーケットリサーチによれば18年に119億ドルだった植物肉の世界市場の規模は25年には212億ドルになる見込みだ。菜食志向を強める消費者と、それに応える外食企業、植物肉の供給者といった役者がそろい、拡大の勢いはしばらく止まりそうにない。

ビヨンドが創業したのは10年前の09年。植物肉がニッチな製品から食の主役に躍り出つつある現状について尋ねると、初期段階で同社に投資した米オブビオス・ベンチャーズのジェームズ・ジャクィン氏はこう答えた。「ビヨンド・エクスペクテーション(想像以上だ)」

(シリコンバレー=佐藤浩実、ニューヨーク=河内真帆)

 

▼プラントベースドミート(植物肉)
 エンドウ豆や大豆など植物由来のたんぱく質を使い、ハンバーグやソーセージなどの肉製品に似せたものを指す。牛のげっぷなど肉の生産過程で排出される二酸化炭素が気候変動の一因になっているとの指摘から、注目されるようになった。植物肉を食べる理由は環境保護や動物愛護からコレステロール摂取量の抑制、「格好良く見える」などさまざまだ。