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夕食は何を印刷する?3Dプリンターで料理も
3Dフードプリンターは二つ星レストランから病院まで幅広い食に変化をもたらす可能性がある
ピーター・キャラハン氏は、ニューヨーク・マンハッタンにある自身のケータリングキッチンのオフィスで、筆者が骨付きチキンを食べるのをじっと見守っていた。その「骨」は3次元(3D)プリンターで印刷したものだ。
キャラハン氏はこう尋ねた。「その骨が食べられたら、もっとチキンが好きになると思うか」
キャラハン氏と言えば、一口サイズのミニバーガーを考案し、カリスマ主婦のマーサ・スチュワート氏から称賛を受けたこともあるケータリング界のスターだ。同氏は2年前、パーティーでゲストを喜ばせようと3Dプラスチックプリンターを購入した。そして今見据えているのが、食品そのものの出力だ。
そこで思いついたのが骨が食べられるチキン。骨の材料にはセロリやブルーチーズ、チリソースなどを検討中だ。キャラハン氏は既にキャビアを添える食べられるクラッカースプーンを作っているが、今思い描いているのは、プリンターで製作でき、パーティーで食べられる食器やメニューだ。例えば、チョコレート製のミニ牛乳パックや、ワンタンで作った中華料理店でよく見るお持ち帰り用容器だ。
「人々は新しいものが好きだ」とキャラハン氏は話す。
レシピをダウンロードして料理を出力
しかし、食品となると、われわれの多くはいまだに火を使うという原始人並みの調理方法を用いている。キッチンは「家の中で最も原始的なものだ」と米コロンビア大学でエンジニアリングを教えるイスラエル人のホッド・リプソン氏は指摘する。しかし、3Dプリンター、特にフードプリンターの先駆者の1人であるリプソン氏は、すぐに夕食のレシピをダウンロードし、料理を出力できるようになると主張する。
フードプリンターは粉末(大半は砂糖)またはペースト(調理済みまたは未調理の裏ごしした肉や野菜、穀物)を使用する。最先端のモデルはプリンターカートリッジのように複数のシリンジがあり、それぞれに異なる食材を入れることができる。シリンジから押し出された食材を何層にも重ねることで、人手や流し型では難しい精巧な形状に作り上げることができる。現在は出力する前か後に食品を調理する必要がある。しかし、リプソン氏をはじめとする研究者は、出力しながら調理できるプリンターの開発に取り組んでいる。
リプソン氏はロボットをプリンターで製作したことで、その名が広く知られるようになった(初期のモデルは2000年に米紙ニューヨーク・タイムズの一面を飾った)。数年後、同氏が教えるコーネル大学の生徒が、構内で手に入るあらゆる材料を使って印刷実験を行った。それにはチョコレートのスプレッドやスプレー缶入りチーズなどもあった。リプソン氏のプリンターで作ったロボットはすぐに学生が作った食べられる創作物の影に隠れてしまった。研究室を訪れる人は「チーズのことしか聞いてこなかった」とリプソン氏は当時を振り返る。
リプソン氏の初期の食品を用いた実験で出力されていたのは、ブロッコリーのような味で牛乳のような歯ごたえの紫色のキューブだった。実験は「料理界に対する犯罪」とも言うべきものだったと同氏の元教え子の1人は話す。やがてリプソン氏は、現在の「インターナショナル・カリナリー・センター」(ニューヨークにある料理学校)のシェフと共にレシピの開発を始める。一方、同氏の教え子はハードウエアに取り組んだ。最近のデモでは、リプソン氏が開発した最新のプリンターから未調理のヤギ乳チーズのポレンタ(トウモロコシの粉を使用し、火にかけて湯やだし汁で練り上げる料理)と、ハチミツとビートのピューレがカットしたロールケーキのような形に押し出されるのを目にした。ポレンタはその後、ガスバーナーを使って調理された。ビーツの甘さが効いていておいしかったが、3Dプリンターを使わなくても同程度の味は実現できただろう。
病院食に革命をもたらす可能性
しかし、プリンターが作り出す優雅な見た目の料理は、思わぬ分野に革命をもたらす可能性を秘めている。介護施設と病院だ。患者はかんだり、のみ込んだりするのに問題があっても、自分たちが唯一食べられる「病院食」を嫌がることが多い。3Dプリンターなら、個々の患者に栄養価を合わせて洗練された料理を作れる可能性がある。オランダの研究機関「TNO」の研究者は昨年、欧州連合(EU)が資金支援する300万ユーロ(約3億6000万円)の研究の一環として、ドイツの介護施設の入居者20人向けにカスタマイズした100種類の食事を提供できる3Dプリンターを開発した。
料理界のもう一方では、キャラハン氏をはじめとする高級料理を手掛けるシェフが実験を始めている。
スペイン・バルセロナの高級ホテル「ホテル・アーツ・バルセロナ」にある、ミシュランガイドで二つ星を獲得したレストラン「エノテカ」では、シェフのパコ・ペレス氏が3Dプリンターを使って「サンゴ」という名の料理を作っていた。ウニのピューレをサンゴの葉状体の形にし、その上にウニ丸ごととキャビア、オランデーズソース、卵、泡状にしたニンジンをトッピングしたものだ。プリンターは、ナチュラル・マシンズ社から借りた試作機だ。
同社の共同創設者リネット・クシュマ氏は、「印刷」という言葉が加工食品をイメージさせることを認め、「人々がなぜ否定的な反応をするかは理解している」と述べた。その上で、人々がレストランでプリントされた料理を食べるようになれば、「そのコンセプトを証明できるだろう」との見方を示した。


