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2021-07-24 22:57:00

 

元出前館会長が語る「デリバリー大乱戦」の前途

「日本市場は未成熟、プレーヤーはまだ増える」

出前館元会長の中村利江氏は、日本のフードデリバリー市場は海外プレーヤーにとって「未成熟でおいしい市場」だと語る(撮影:尾形文繁)
コロナ禍で巣ごもりが長期化する中、好況に沸くフードデリバリー業界。市場調査会社のエヌピーディー・ジャパンの調べでは、2020年の外食デリバリーの市場規模は6264億円と、前年比50%増にまで急拡大を遂げた。
成長する日本市場を狙い、2020年以降は多くの海外プレーヤーが参入。「Uber Eats」や「出前館」といった先行プレーヤーとの競争は熾烈化し、各社こぞってクーポンのバラマキを行うなど、終わりなき過当競争を繰り広げているようにも映る。
フードデリバリーの乱戦は今後どんな展開を見せるのか。2020年11月に出前館の会長職を辞し、2021年4月にはM&A仲介大手の「日本M&Aセンター」の専務執行役員に就任した、中村利江氏に聞いた。
【2021年7月21日9時27分追記】初出時の表記に一部誤りがありました。お詫びの上、表記のように修正いたします。

――約20年間携わってきた、出前館の経営の第一線から昨年退きました。

同じ人が長いこと(経営を)やり続けるといろいろなしがらみができてしまうので、5年くらい前から後任を探す必要があると考えていた。

海外の投資家への説明に回っていたときから、(今年6月に上陸した)アメリカのDoorDashなど海外の黒船が必ず日本に進出してくると確信し、資金と組織力を整えてしっかりと戦う準備をする必要があると思っていた。そこで、(2020年3月に)LINEグループに入ることを決めた。こうした準備が整ってきたので、新体制に事業を執行してもらうのがよいと考えた。

フードデリバリー市場はまだ拡大する

フードデリバリーは体力勝負になっている。各社ふんだんに体力があるわけではないので、資金が続く範囲の中でやっていかざるをえない。

Uber Eatsも海外ではうまくいっていないことが多く、インドなどでは撤退するケースも出ている。(KDDIによるmenuへの出資など)国内の通信事業者が宅配事業者へ出資する事例も出ており、日本で今後もM&Aが起こる可能性はある。

――日本のフードデリバリー市場におけるプレーヤーは増え続けています。過当競争に陥っているのではないでしょうか。

「どうしてそこまで過激な奪い合いをしているのか」と思われるだろうが、日本は配達件数自体がまだ少なく、潜在的な市場規模は大きい。市場が広がらないのに戦っていたら愚かだが、アイテムや対応店舗数が増え、デリバリーのハードルが下がれば、市場のパイはさらに拡大するはずだ。

――配達手数料などがかかるデリバリーサービスを活用するのは、利益率の低い飲食店だと難しいという声もあります。

それはやり方次第だ。

例えば吉野家の場合、(出前館導入当初)店舗では380円の牛丼(並)をデリバリーだと570円で売っていた。その差額には「注文者のもとに料理を持って行く付加価値」が含まれている。

導入前は、店舗で働く従業員から「そんな高い値段では売れない」という声もあったようだが、吉野家の店舗に入りづらいという女性客や、外出できない子育て世帯を取り込むことができた。結果としてはよく売れたし、店内飲食よりも利益が出た。

日本は未成熟でおいしい市場

配達件数を増やせば効率も良くなり、コストを抑えられるということは、グローバルですでに実証されている。日本だと1時間あたりの配達件数は2件程度で、まだまだ配達件数が足りない。中国では1時間に5件以上の配達ができており、配達料も(1件当たり)100円程度に抑えられている。

海外で実績を持つ黒船企業からすれば、未成熟な日本はおいしい市場だ。中国の大手プレーヤーもまだ日本には進出していないし、今後さらにプレーヤーが増える可能性だってある。

――とはいえ、プレーヤーが増える中で各社がクーポンのバラマキやCMの乱発にコストを多くかけている現状は、消耗戦となっているようにも見えます。

そんなことはない。確かに足元では1位、2位を取るためのプレーヤー間の競争が激しくなっている。ただ、おそらく数年ほど経てば、デリバリー市場のトップ2が確定し、競争も落ち着くはずだ。

出前館やUber Eatsもまだ、先行者メリットを享受する段階にはない。出前館の加盟店数は7.4万店(2021年5月末時点)だが、地方の消費者が利用するには10万店を超えないといけない。

外食業界は、グローバルで競争してきた製造業などとは対照的に、ガラパゴス的な成長をしてきた。海外の飲食店はコロナ前から、イートイン、デリバリー、テイクアウトの3本柱で収益を上げるのが普通だったが、日本は違う。おいしさやおもてなしへのこだわりが強いがゆえに、イートイン一辺倒だった。

コロナで飲食店数は正常な状態になる

かつて出前館を飲食店に提案した時も、「店を離れる間の数十分間で食品が劣化するのではないか」などの抵抗があり、思った以上に導入までのハードルが高かった。それがコロナ禍で変わった。20年かけてじわじわと広げてきたものが、たった数カ月でガッと広がった。

中村利江(なかむら・りえ)/1964年生まれ。1988年に関西大学文学部を卒業。リクルートなどを経て、出前館の代表取締役社長や同会長などを歴任。2021年4月、日本M&Aセンターの専務執行役員就任(撮影:尾形文繁)

店内飲食主体の飲食店が苦戦しているの対し、従来テイクアウトやデリバリーに力を入れていたマクドナルドやケンタッキーはコロナ禍でも増収増益を続けている。イートイン一本足打法ではダメだというのは結果が示している。

――コロナ禍を経て、日本の外食業界はどう変わるとお考えですか。

コロナ前から日本の飲食店の数は多く、飽和状態にあった。日本の飲食店の適正店舗数は40~50万店程度だと思うが、今は約60万店もある。コロナという厳しい状況下で再編は進まざるをえないだろう。

飲食店の数が多いと、価格競争になり低価格化が進む傾向にある。それは消費者にとってよいことかもしれないが、事業者からすれば儲からない商売ともいえる。飽和状態にある飲食店数がコロナを機に正常な状態になることで、適正な利益を上げられるようになるのではないか。

【情報提供のお願い】東洋経済では、フードデリバリー業界が抱える課題を継続的に取り上げています。こちらのフォームでは配達員や飲食店関係者などからの情報提供をお待ちしております。

元出前館会長が語る「デリバリー大乱戦」の前途 | 外食 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)

 

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2021-07-24 22:54:00

 

グーグル、スマホ決済「pring」買収に透ける本気度

合従連衡にデジタル給与、激変続く決済勢力図

日本ではまだ機能が限られているグーグルペイ。米国では矢継ぎ早に新機能を追加している(記者撮影)

日本の金融業界に衝撃が走った。アメリカのIT大手グーグルは7月13日、スマートフォン決済アプリを手がけるベンチャー・pring(プリン)を買収すると明らかにした。早ければ7月下旬にも既存株主から全株式を取得する予定だ。これによりグーグルは、日本で決済・送金事業に本格参入する。

同日にはプリンの株主であるメタップス、ミロク情報サービス、日本瓦斯の各社もグーグルへの売却を発表。45.3%を保有するメタップスが譲渡価額を49.2億円と開示しており、買収総額は少なくとも100億円強。プリンの経営陣らに割り当てられたストックオプションなど潜在株式も含めれば、より膨らんでいる公算だ。

プリンは2017年にメタップス傘下で設立され、みずほ銀行などが出資。2018年3月から提供を始めた同名のアプリでは、銀行口座からチャージ(入金)して店舗での決済に使ったり、ほかのユーザーに送金したりできる。チャージしたお金を口座に出金する際、手数料を無料としているのも特長だ。ユーザー数は数十万人規模とみられる。

今は機能の限られた”お財布”アプリだが

さらにプリンは法人向けに、経費精算や個人事業主への支払いをアプリ上で行えるサービスを展開するほか、みずほ銀行が提供する決済アプリ「J-Coin Pay」の基盤開発も担う。「銀行が求めるレベルの堅牢で安全な開発ができる技術力は彼らの重要な資産だろう」(フィンテック企業関係者)。

一方のグーグルは決済アプリ「グーグルペイ」を、日本を含む40カ国で展開。月間利用者数は1億5000万人を超える。日本では「モバイルSuica」やクレジットカード、電子マネーを一カ所にまとめる"お財布”アプリでしかない。対応するカードや決済手段の数も限定的だ。

一方、本国アメリカでは昨年11月に大きく刷新し機能を追加した。現在は銀行口座やカードからアプリにチャージし、店舗やネットでの決済、他者への送金ができるほか、支払い履歴を集約し支出管理も行える。提携する小売りチェーンや飲食店ではアプリ利用者限定の割引も展開する。グーグルマップ上で調べた駐車場の料金や交通機関の切符の代金も、アプリの残高から支払えるようになった。

さらに今年からは米金融大手シティや現地の地方銀行などと提携し、グーグルペイアプリから直接銀行口座を開設できるサービスも開始。今年中には米国のユーザーが200以上の国に国外送金できるようにする。

「グーグルのアンドロイド(スマホOS)やクローム(ブラウザ)に直接お金をチャージして、EC(ネット通販)などでカード情報の入力なしに買えるようにするくらいのことは簡単にできるはず」。マネーフォワード執行役員の瀧俊雄フィンテック研究所長は、グーグルが目指す世界についてそう予想する。

ここで得られるユーザーの購買情報は、グーグルの主力である広告事業の拡大を考えれば重要だ。グーグルは「個人の決済データを第三者に販売したり、取引履歴を広告ターゲティングのためにグーグルの他部門と共有したりしない」とするが、自社の膨大な購買情報をテコに広告事業を伸ばす米アマゾンへの対抗心は強いはずだ。

100億円以上投じることへの「疑問」

現在グーグルペイで送金機能が利用可能なのは米国とインドの2カ国のみだ。プリンが持つ送金のインフラを活用すれば、日本は送金機能が利用できる3つめの国となる。実現すれば利用場面は大きく広がる。

もっとも、国内の複数のフィンテック企業関係者は「グーグルがプリンを100億円以上もかけて買収する狙いは見えづらい」と指摘する。

確かにプリンは資金移動業者として登録し、3メガバンクなど全国53行と口座振り替え契約を締結済み。グーグルが日本でも米国と同様に口座からのチャージや口座開設サービスを展開したいならプリンのネットワークを活用できる。が、前出の瀧氏は「業者登録や銀行との契約だけであれば数億円程度でできてしまう」と指摘する。

次ページ国内スマホ決済は今後激変

日本のスマホ決済市場はすでに過当競争の末、合従連衡が始まっている。

2020年1月にはスマホ決済「メルペイ」を展開するフリマアプリのメルカリが、経営不振だったベンチャーのオリガミを買収。今年3月に完了したヤフーとLINEの経営統合を受け、両社系の「PayPay(ペイペイ)」と「LINE Pay」も2022年度をメドにサービスを統合する方針だ。

ユーザーを囲い込むためのポイント還元競争も熾烈だ。QRコード決済で最多のユーザーを抱えるペイペイは、2021年3月期に726億円の営業赤字を計上。今秋からは盤石なユーザー基盤を背景に加盟店手数料の徴収を本格化し、収益化を急ぐ。

各社が期待寄せる「デジタル給与」解禁

ペイペイなどスマホ決済を展開する資金移動業者にとって今後大きな転機となりうるのが、政府内で議論が進む「デジタル給与」の解禁だ。

これは、会社からの給与の支払先を従来のように銀行口座だけではなく、スマホ決済アプリに指定できるようにするもの。解禁時期はまだ不透明だが、各アプリ事業者は決済やそのほかのサービスの利用頻度向上に大きな期待を込める。

グーグルが今回のプリン買収を機に、前述のような金融系の各種機能を日本で一気に広げるとなれば、国内各社の強敵となるかもしれない。ただ現在日本国内では、グーグルペイのアプリはスマホOS「アンドロイド」上でしか使えない。日本でシェアの高いiPhoneやiPadではアップル独自の「アップルペイ」アプリが搭載されており、展開のハードルは高い。

プリンという一ローカル企業の買収でもふんだんな資金力を見せつけたグーグル。相対する日本勢はそのポジションを守れるか。

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2021-07-24 22:48:00

2019年の消費増税に伴う還元事業や、コロナの感染防止を背景に広がり続けるキャッシュレス決済。それ自体が注目される時期は終わり、ユーザーや加盟店はメリットを見極めようとしている。決済事業者が陣取り合戦からマネタイズへと移る第2幕が開いた。競争を制する鍵は、どこにあるのか。

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 5月14日、横浜市港南区の商業施設、港南台バーズの地下1階に無印良品の食料品売り場がオープンした。クイーンズ伊勢丹などと協業し、生鮮食品や総菜をそろえた。1階の雑貨・衣料品売り場と合わせた面積は約5100m2と無印良品の店舗としては関東最大となる。

 都市型店舗のイメージが強い無印良品だが、今後は郊外や地方の住宅地の近くでの新規出店を増やし、地方圏の中高年層を開拓する。そこで効果を期待しているのがキャッシュレス決済「MUJI passport Pay(ムジパスポートペイ)」だ。2013年に導入した自社のスマートフォンアプリに20年11月、決済機能を追加した。

 アプリは顧客にお薦め商品の情報を届け、店舗で決済に使ってもらうだけでなく、インターネット通販(EC)の窓口でもある。実店舗とネットの買い物を境目なくつなぎ、「地域に新たに出店すると、その地域のEC売り上げも上がる」(良品計画の角田徹EC事業部長)という相乗効果を生んでいる。

 決済機能は、ITベンダーなどの協力を仰ぎつつ、良品計画が自前で開発した。セブン&アイ・ホールディングスの「7pay(セブンペイ)」やNTTドコモの「ドコモ口座」の不正利用などでスマホ決済への不信が強まっていることから、「セキュリティーは非常に慎重に検討した」(角田氏)と説明している。

 キャッシュレス決済は19年の消費増税をきっかけに普及が加速した。政府は「キャッシュレス決済・ポイント還元制度」を設け、PayPay(ペイペイ)を筆頭にした民間のキャッシュレス決済事業者も追い風に乗って、大規模な還元キャンペーンを打った。

 ニッセイ基礎研究所の福本勇樹氏の推計では、20年にクレジットカードや電子マネー、QRコード決済といったキャッシュレス決済の比率は約30%に達し、じわじわと広がっている。

 「大還元祭り」を主導したスマホ決済事業者が、ユーザーと加盟店の数を増やす「面取り合戦」を進めたのに対し、良品計画は「現時点で無印良品以外での利用は検討していない」という。

 21年1月に衣料品大手のユニクロで始まった「UNIQLO Pay(ユニクロペイ)」も自社グループに絞っている点で共通する。無印良品と同様、以前からあった自社アプリに決済機能を追加し、自社でセキュリティーを確保。レジ前の混雑解消を図るという狙いも同じだ。両社とも会員証と決済機能を1つのアプリに統合している。

 大規模な還元策が使う人と使える場所を広げる「水平」の競争だったとすると、無印良品やユニクロの場合は顧客を深掘りする「垂直」的な試みといえる。

 こうした動きが相次ぐのは大規模還元で飛躍的に高まったスマホ決済の知名度が下地にある。買い物に必須の決済機能を自社アプリに加えることで利用頻度を向上。ユーザーの購買履歴を集め、アプリから来店動機や購買意欲を高める効果的な情報発信を行うという流れだ。両社とも固定ファンを抱えており、自社限定でスマホ決済を導入しても費用対効果が見合うと判断した。

続きを読む 2/4ローソンでも使えるファミペイ

ローソンでも使えるファミペイ

 キャッシュレス決済が広がったこの2年間、小売業やサービス業が独自のスマホ決済システムを開発する例が増えてきた。垂直と水平の両にらみ戦略を採るのが、ファミリーマートが19年7月にスタートした「ファミペイ」だ。来店頻度を高めるため、購買履歴に併せて人気商品のクーポンを毎月配信し、一部のクーポンは知人にプレゼントできるほか、ペットボトルのお茶やコーヒーなど習慣性が高い商品の回数券も用意した。

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ファミペイは20年10月にファミマ以外の実店舗に決済機能を開放した

 ファミペイ以前はアプリ活用に熱心でなく、「セールは店頭で十分伝わると、あぐらをかいていた」(ファミマの佐藤邦央イノベーション&アライアンス推進部長)。そこをコロナ禍が襲った。都心の店舗への来客が減り、店外で顧客とつながる一手が急務となった。

 Tポイントや楽天ポイントなど共通ポイントのみでファミペイを使っていない客に比べて、ファミペイユーザーは月の来店回数が2倍ほどになっている。来店頻度が高い人がファミペイを導入する傾向はあるものの一定の成果を上げているようだ。

 商品を供給するメーカー側のファミペイへの期待も高まっている。例えば、ビールのようなファンが固定化しやすい商品でも、メーカーは自社に消費者を引き寄せようとファミペイ向けにクーポンを発行する。試作品や特定商品のマーケティングにファミペイを活用する動きも増えている。

 ファミペイは20年10月にファミマ以外の実店舗で使えるように機能を開放した点が無印良品やユニクロと異なる。外食や家電量販、ドラッグストアだけでなく、実はローソンでも使える。フランチャイズ加盟店から「色々なお店で使えるほうが来店客に導入を勧めやすい」という要望があったためだ。

 ファミペイの決済システムを運営する子会社、ファミマデジタルワンの中野和浩社長は「ファミペイは(各種サービスのミニアプリを多数内包する)スーパーアプリでも、単なるスマホ決済アプリでもなく、ファミマ経済圏を大きくする橋頭堡(きょうとうほ)としてのアプリだ」と語る。

 無印良品とユニクロ、ファミマは、自店舗で商品の購買意欲を高める起点として、店舗と顧客の接点となる決済を活用してきた。こうした事例とやや毛色が異なるのが、フリマアプリのメルカリ傘下メルペイ。フリマでの売買体験を活発化させるための仕掛けとして、保有するお金を支払うという単純な決済にとどまらない仕組みを築いている。

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 メルペイは消費増税の際、PayPayやLINE Payに対抗するように積極的な還元策を打ち出した。ただ、メルペイは「(PayPayやLINE Payなどと)競合ではないと言い続けてきた」(山本真人COO=最高執行責任者)。その意図が19年4月に導入した後払いサービス「メルペイスマート払い」に表れている。

 銀行口座などからアプリに事前入金せずともフリマや小売店で買い物ができ、利用額は翌月に一括払いか分割払いを選択する。フリマでの売り上げを返済に充てられるのも特徴だ。利用上限額はメルカリの利用実績を人工知能(AI)が分析して決まり、銀行などと違って勤務先など属性情報に依存しない。

 メルカリのヘビーユーザーほど利用しやすい仕組みとなっており、後払いサービスの利用者の51%が返済原資にメルカリでの売上金を使っている。

続きを読む 3/4「ペイペイ」と鳴る意味がある

「ペイペイ」と鳴る意味がある

 小売りやサービスの事業を伸ばす仕掛けとして取り入れたスマホ決済と異なり、ソフトバンクグループのPayPayは決済事業を本業としている。小売りや外食など316万カ所で使え、約3900万人の利用者を獲得して大規模プラットフォーマーに育ちつつある。

 サービスを始めた18年の12月に仕掛けた「100億円還元キャンペーン」や19年の消費増税に合わせた還元策などでスマホ決済のシェアは5割を超える。今秋の有料化を予定する加盟店からの決済手数料に加えフードデリバリーやタクシー配車といったミニアプリの事業者から手数料を得るモデルで、決済を中心に稼ぐ「スーパーアプリ」戦略を順調に進めているようにみえる。

 そんなPayPayは今年2月、今までの戦略と一見矛盾するかのような手を打った。「セブン-イレブンアプリ」にPayPayが埋め込まれたのだ。

21年2月からセブン-イレブンアプリにPayPayが埋め込まれた
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 セブンアプリにある「P」のロゴを押すとPayPayの決済画面に移る。画面のコードをレジで読み取れば、支払いと同時にアプリの会員コードも読み取り、ポイントがたまる。スーパーアプリ内にセブン-イレブンがミニアプリとして登場するのではなく、PayPayが決済機能を提供し、セブンアプリに入り込んだ。

 クレジットカードの仕組みを生んだキャッシュレス先進国の米国では、「イネーブラー」と呼ばれるフィンテック企業や、銀行など金融業の免許を持つ「ライセンスホルダー」が、消費者と接点を持つ「ブランド」に、金融システムを提供する分業が進んでいる。これらは黒子になるケースが多い。

 一方、PayPayはセブンアプリ内でブランドを明示している。決済の際は「ペイペイ」という特徴的な音も鳴る。ブランドの認知度を高める利益を享受しながら、セブンアプリの決済機能を担う。PayPayの馬場一副社長は、「スーパーアプリ戦略を方向転換したわけではない。完全に黒子となって『7pay』になるなら、やらなかった」と話す。

 PayPayはスマホ決済の中で存在感を高めたが、日本全体のキャッシュレス比率は30%程度。現金の力はなお強い。また日本は「楽天は銀行を傘下に持てるが、銀行は楽天を持てない」と俗にいわれるように、大手ITが銀行を営む障壁が米国に比べ低い。EC、携帯電話、金融など様々なサービスをワンストップで提供する経済圏を構築しやすく、大手プレーヤーが競い合っている。

 中国で「アリペイ」と「ウィーチャットペイ」がスマホ決済で寡占となっている状況とは程遠い。このためPayPayは「PaaS(Payment as a Service)」として協業先との連携を増やすほうが利用実績が伸び得ると判断した。

 ただ、PayPayは従来のスーパーアプリ戦略も着実に進めている。20年9月から花王と、21年3月には百貨店と還元キャンペーンを実施。地方自治体との連携にも積極的に取り組んでおり、初期の全方位的なものから企業や業態、地域を絞った還元策に移行している。その原資は連携先が負担するケースが増え、「以前のように我々が血を流して頑張るだけではなくなった」(馬場副社長)という。

続きを読む 4/4「有料になる?……やめます」

2021-07-24 22:43:00

「有料になる?……やめます」加盟店離れ、スマホ決済普及の正念場

85件のコメント

鷲尾 龍一

日経ビジネス記者

 2019年の消費増税に伴う還元事業や、新型コロナウイルスの感染防止を背景に広がり続けるキャッシュレス決済。20年にはキャッシュレス決済比率は3割に達したとみられ、政府が掲げる「2025年に4割程度」の達成にじわじわと近づいている。

2019年の消費増税に伴い、各社の還元事業でスマホ決済が徐々に浸透していった(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 ただ、QRコードを使ったスマートフォン決済は今年、普及の正念場を迎える。スマホ決済の大手が加盟店の開拓を優先して無料にしてきた決済手数料を有料化するからだ。

 決済事業者はユーザー獲得などに費やした先行投資を回収する必要があるが、「有料になるならやめる」(中小小売店の関係者)との声が漏れる。加盟店を引き留められるのだろうか。

 決済手数料とは、電子マネーやクレジットカード、スマホ決済サービスを提供する事業者が、導入した加盟店から得る手数料だ。

 例えば、Suicaなど交通系電子マネーは3.25%(米Squareの場合)、楽天ペイは3.24%。今年有料化を予定するLINE Payは10月から2.45%、メルペイは7月から2.6%となる。PayPayは10月に有料化を検討し、料率は未定としている。

 クレジットカードは導入店舗ごとに与信を判断するため、1~6%程度と幅がある。経済産業省が18年4月にまとめた「キャッシュレス・ビジョン」によれば、中央値は3.00%となっている。

 19年の消費増税に伴う「キャッシュレス決済・ポイント還元事業」では、キャッシュレス事業者は決済手数料を3.25%まで抑えることが参加要件だった。還元事業は20年6月に終了したが、3.25%が一つの目安になり、今に至る。

続きを読む 2/3「手数料10分の1」を実現したスーパー連合

2019年の消費増税に伴う還元事業や、新型コロナウイルスの感染防止を背景に広がり続けるキャッシュレス決済。20年にはキャッシュレス決済比率は3割に達したとみられ、政府が掲げる「2025年に4割程度」の達成にじわじわと近づいている。

2019年の消費増税に伴い、各社の還元事業でスマホ決済が徐々に浸透していった(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 ただ、QRコードを使ったスマートフォン決済は今年、普及の正念場を迎える。スマホ決済の大手が加盟店の開拓を優先して無料にしてきた決済手数料を有料化するからだ。

 決済事業者はユーザー獲得などに費やした先行投資を回収する必要があるが、「有料になるならやめる」(中小小売店の関係者)との声が漏れる。加盟店を引き留められるのだろうか。

 決済手数料とは、電子マネーやクレジットカード、スマホ決済サービスを提供する事業者が、導入した加盟店から得る手数料だ。

 例えば、Suicaなど交通系電子マネーは3.25%(米Squareの場合)、楽天ペイは3.24%。今年有料化を予定するLINE Payは10月から2.45%、メルペイは7月から2.6%となる。PayPayは10月に有料化を検討し、料率は未定としている。

 クレジットカードは導入店舗ごとに与信を判断するため、1~6%程度と幅がある。経済産業省が18年4月にまとめた「キャッシュレス・ビジョン」によれば、中央値は3.00%となっている。

 19年の消費増税に伴う「キャッシュレス決済・ポイント還元事業」では、キャッシュレス事業者は決済手数料を3.25%まで抑えることが参加要件だった。還元事業は20年6月に終了したが、3.25%が一つの目安になり、今に至る。

 しかし、この水準でも中小企業には苦しい。中小企業実態基本調査(2019年度決算実績、速報)によると、スマホ決済が得意な少額決済が多い小売業の経常利益率は1.5%、宿泊業・飲食サービス業も同じく1.5%にとどまる。クレジットカードに比べて初期コストが低いことを売りに導入を訴えてきたスマホ決済事業者だが、有料化が進めば、決済回数が増えるたびに、利用者の利益が目減りしていってしまう。

 ある小売店の関係者は、「事前にチャージして使う前払い式が多いスマホ決済は、クレジットカードのように与信コストが必要ないから有料になるにしても、それより安くしてほしいと話したが反応は芳しくなかった」と明かす。

「手数料10分の1」を実現したスーパー連合

 相次ぐ有料化でスマホ決済大手からの離脱が増えれば、独立系キャッシュレスが注目を集めるかもしれない。中堅・中小スーパーを運営する約200社が加盟するシジシージャパン(CGC、東京・新宿)が開発したカード型電子マネー「CoGCa(コジカ)」はその一つといえそうだ。

コジカは手数料を抑えて電子マネーを提供している

 コジカは15年3月にスタートした。当時主流だった鉄道会社や大手スーパーの汎用的な電子マネーはタッチするだけで支払いができる便利さから来店客からの導入希望の声が寄せられていたが、決済手数料はクレジットカード以上。「手数料が高い」という加盟スーパーの不満を受け、コジカの手数料は他のキャッシュレスの10分の1程度に抑えた。

 その要因は、ポイント還元制度を設けていない点だ。ほかの電子マネーやスマホ決済と違って還元に必要な原資が手数料に反映されていないため料率が低い。還元は必要なら、加盟スーパーが個々に実施する。

 CGC関連会社のエス・ビー・システムズの堀内秀起カード事業推進リーダーは「コジカの利用率が高まっても加盟スーパーに負担をかけないことを最優先にした」と話す。

 キャッシュレス普及の壁とされる加盟店への入金方法も独特だ。ほかの汎用的なキャッシュレス決済では、ユーザーが支払った額が店舗に入金されるまで15~30日かかり、加盟店の手元資金が心もとなくなる。コジカは店舗でチャージをするのが基本で、店舗がチャージ金を預かる。その預かり金と利用額を精算するため、キャッシュフローに大きな影響はない。

 そもそもQRコード決済は、スーパーの店舗運営にとって課題が大きい。スマホのアプリを立ち上げ、レジでコードを読み取る一連の流れは、タッチするだけで済むカード型電子マネーに比べて手間だ。また、来店客がレジに設置したQRコードを読み取って代金をアプリに入力する場合、来店客が入力した数字を従業員が確認しづらいという課題もある。

 野村資本市場研究所の淵田康之シニアフェローは「無料期間中にキャッシュレスを導入した実店舗はコロナで非常に苦しい。無料期間終了が迫り、キャッシュレス普及に向けて、これからが正念場だ」と指摘する。

 少額決済が中心のスマホ決済事業者は、スーパーやコンビニを重視しているが、有料化で離反を招けば大きな痛手となる。コジカのような手数料を抑えたシステムが増えれば、そちらに流れる可能性がある。コジカは、スーパーが安価に利用できるスマホアプリも検討している。

続きを読む 3/3手数料に見合う「納得」

手数料に見合う「納得」

 キャッシュレス決済が伸び続けるかどうかの分水嶺を迎える中、米国にヒントがみえる。小売りや外食など幅広い業態に決済システムを提供する大手のSquareだ。

 Squareはガラス工芸家のジム・マッケルビー氏が自分の作品を販売する際、クレジットカードでの支払いを受け付けられず、販売機会を逃したことをきっかけに設立した。「Squareの存在意義は、中小企業や十分なサービスを受けられない人々が経済活動に参加できるようにすること」(Squareゼネラル・マネージャーのデイビッド・タラック氏)として、決済だけでなく従業員の給与支払い、顧客管理など経営支援につながるサービスへと領域を広げてきた。

 その柱の一つが、事業者向け融資だ。日々の売り上げを基に借入可能額を自動ではじき出し、事業者は最短、翌日に融資が入金される。返済額も売り上げが少ない日は少なく、多い日は多くなる仕組みだ。伝統的な金融機関の融資審査が画一的な一方、店舗の実情に鑑みて資金を融通しており、女性など「マイノリティー」が経営する事業者への融資比率が高い。

 このように単に支払い機能だけでなく、加盟店が納得しやすい付加価値の提供にまで踏み込めば、自然とキャッシュレス普及率も高まっていくだろう。

 大規模還元や手数料ゼロをうたって、勢力を広げる第1幕は終わった。物珍しさやコストの低さで利用してきたユーザーや加盟店も、使い続けるメリットが薄まれば根強い現金信仰に押し戻される恐れがある。キャッシュレス決済を軸に、付加価値をいかに高めていくか。次の競争が始まっている。

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2021-07-18 11:00:00

ららぽーと、2022年春に九州初進出 福岡市の青果市場跡地に開業

2021年07月14日 12時31分 公開
[ITmedia]

 三井不動産、九州電力、西日本鉄道は、福岡市博多区の青果市場跡地で再開発を進めている商業施設の名称を「三井ショッピングパーク ららぽーと福岡」に決定したと発表した。ららぽーとは九州初進出で、同施設の出店で国内17施設となる。2022年春の開業を予定している。

ららぽーとららぽーと福岡 鳥瞰イメージ(出所:プレスリリース)

 出店するエリアは、JR鹿児島本線の竹下駅から徒歩9分、幹線道路の筑紫通りに接していて、福岡空港や博多駅と近接する。施設内にバスターミナルを新設するほか、各方面からの新設バス路線も計画中で、さらなるアクセスの充実を図るとしている。

ららぽーと(出所:プレスリリース)

 敷地内には、こどもの職業・社会体験施設「キッザニア」と、木育・多世代交流施設「おもちゃ美術館」も出店する計画で、いずれも九州初進出となる。また、多様な人々が集うパーク(広場)など、コミュニティーの拠点となる空間を施設全体に創出し、魅力的なまちづくりに貢献するとしている。

福岡キッザニア福岡 イメージパース(出所:プレスリリース)

 「三井ショッピングパーク ららぽーと」は、1981年に開業した「三井ショッピングパーク ららぽーとTOKYO-BAY」(千葉県船橋市)をはじめ、現在国内に16施設を展開。国外では2021年4月に「三井ショッピングパーク ららぽーと上海金橋」を開業。現在、クアラルンプールや台湾でも開発を進めている。


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