中国の大手スーパーが軒並み減収減益で苦境に立たされています。主な原因は、顧客をテック企業が運営する新小売と生鮮ECに奪われていること。スーパー業界は年内に大きな地殻変動が起きてもおかしくないほどの危険水域に入っており、日本も決して傍観できません。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)

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※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2021年7月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。

中国の大手スーパーが軒並み減収減益、何が起きた?

中国の各スーパーの2021年第1四半期の財務報告書が出揃い、関係者に衝撃を与えています。ほとんどすべてのスーパーが減収減益となり、苦境に立たされていることが明らかとなりました。

この時期、なんらかの外部要因があって、一時的に業績が悪化しているのであればともかく、この苦境は構造的なものです。2016年からの新小売の攻勢で体力が削ぎ落とされていたところに、社区団購が登場して、大量のお客を奪われてしまいました。新小売ではスマホに馴染んでいる若者層、現役層が奪われ、社区団購では中高年まで奪われています。

各スーパーは、独自に新小売スーパーを出店したり、到家サービス(宅配)を始めていますが、テック企業の攻勢に太刀打ちができません。このまま行くと、年内に大きな地殻変動が起きてもおかしくないほどの危険水域に入っています。

そこで、今回はスーパーの歴史を振り返り、テック企業はどのようにして参入をし、スーパーはそれにどのように対抗していったのかをご紹介します。

特に、中国で最大のチェーンスーパーとなり、新しい技術への対応にも積極的な永輝(ヨンホイ)の事例を中心にご紹介します。また、キャッシュレス決済や新小売にうまく対応ができている台湾のスーパー「全聯」の事例もご紹介します。

今回は、スーパーが苦境に立たされている理由についてご紹介します。

生鮮ECに奪われた顧客

今回は、苦境に立たされている中国のスーパーマーケットについてご紹介します。

上場しているスーパーマーケット運営企業の2021年第1四半期の財務報告書が出揃い、その内容に業界関係者はショックを受けています。そろいもそろって減収減益になったのです。

減収幅は多くが10%以内でしたが、減益幅は悲惨です。業界トップの永輝(ヨンホイ)で−98.51%、アリババの支援を受けている大潤発(RT−Mart)で−49.6%と、赤字転落にはなっていないものの、黒字額は小さく、完全な危険水域に入りました。

2021Q1の業績の比較元になっている2020Q1の時期は、コロナ禍による影響があり、スーパーの業績は好調でした。来店者数は一時的に減少をしたものの、ほとんどすべての来店客が買いだめに走り、客単価が跳ね上がったからです。その反動があるとはいうものの、あまりにも深刻な数字です。

スーパーが無為無策だったわけではありません。むしろ、どのスーパーもよく戦っているのに、時代の進み方が早すぎて、対応が追いつかなくなっているのです。

この5年間、中国では、生鮮食料品小売市場が大きな狩場となり、テック企業が続々と参入してきました。アリババの新小売、そして生鮮EC。これだけでも市場を蚕食されているのに、2020年には社区団購が広がり、スーパーの顧客が奪われています。

アリババ創業者の予言通り

このスーパーの受難は、2016年のアリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)の言葉がからすべてが始まっています。「オンライン小売とオフライン小売は深く融合して新小売となる。すべての小売業は新小売になっていく」というものです。

この発言には凄みがありました。オンライン小売(EC)は生き残れない、オフライン小売(店舗小売)も生き残れない。すべての小売業は新小売に業態転換しなければ生き残れないという意味です。

当時のアリババの主力事業はEC「淘宝網」(タオバオ)です。タオバオはオンライン小売の最も成功した例です。それが生き残れないと自己否定をしたのです。

しかし、この時の発言はさほど重要視されませんでした。それは新小売がどのようなものであるのかは具体的には説明されなかったため、「オンラインとオフラインを深く融合する」という美辞麗句を並べた、ありがちな未来論のようにも聞こえたからです。

しかし、この時、すでにアリババは、新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)のプロジェクトを内部で進めていて、翌2017年には上海市で1号店を開店しました。新小売の具体的なビジネスモデルが明らかになると、既存スーパーは驚愕をし、ここからスーパーの激動の時代が始まります。

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「テック企業に負けた」スーパーマーケット

最もよく戦ったのは、業界のリーダーでもある永輝でした。永輝は自らも新小売スーパーを出店します。そして、生鮮ECが登場すると、自らも生鮮ECを始めます。社区団購が登場すると、永輝は自ら社区団購サービスの準備を始めました。他のスーパーもこの永輝の動きをお手本に、次から次へと登場するライバルに対応をしてきました。

しかし、結果から言えば、「テック企業に負けた」と言わざるを得ません。なぜ、スーパーはテック企業に勝てないのでしょうか。

その答えを先に言ってしまうと、スーパーは商品に注目してビジネスを行います。商品をどうやって生産するか、どうやって流通をさせるのか、どうやって商品を消費者に渡してお金に転換をするのか。常に商品に注目します。

一方、テック企業は人に注目します。人はどのような時に白菜を欲しいと思うのか、どのような場と環境を用意すれば白菜にお金を支払うのかと考えます。この違いが決定的なのです。

と言っても、これだけの説明だと、なかなかピンときていただけないと思います。そこで、今回は、スーパーが戦ってきた道のりを振り返りながら、スーパーとテック企業の発想の違いについて考えていきます。

スーパーとテック企業の差

新小売スーパーは「宅配もするスーパー」と説明されることが多く、それは間違いではありませんが、説明が不足しています。注文方法は「スマホ注文/店頭で購入」の2通り、受け取り方法は「宅配/自分で持ち帰り」の2通りがあり、これを都合に合わせて自由に組み合わせることができます。

「宅配もできるスーパー」では「スマホ注文→宅配」「店頭→持ち帰り」の2つしかできません(最近はスマホ注文→店頭受け取りにも対応して始めている)が、新小売スーパーでは2×2の4通りの買い方ができるということです。

どのような買い方であっても、必ず不便さはつきまといます。「店頭→持ち帰り」では、行く時間がない、歩きなので重たい商品は買わないということがよくあります。「スマホ注文→宅配」も必ずしも便利さだけではありません。すぐ欲しいのに待っていなければならない。出かける用事ができたのに、配送を待たなければならないなどがあります。

つまり、宅配もできるスーパーといっても、自宅にいる時間が長く、時間を自由に使える人しかなかなか利用できないのです。簡単に言えば、専業主婦ということになりますが、中国は夫婦ともに働くのが当たり前で、専業主婦というのは引退をした高齢者ぐらいです。普通の人がスーパーを利用できるのは、仕事が終わって帰宅する前のわずかな時間ですが、その時間は早く帰りたいのに、スーパーは混雑をしています。

このような消費者の課題をすべて解決することは難しいことですが、新小売スーパーではかなりの部分解決ができます。例えば、仕事が終わって、地下鉄の中で食材をスマホ注文して、帰宅時間に合わせて配達してもらう。あるいはスマホ注文をしておき、店頭受け取りにし、ついでにデザートやお酒は、店頭で現物を見てから追加購入して一緒に持ち帰る。店頭で食用油が切れかかっていることを思い出したけど、自分で持って帰るのは重たいので、宅配をしてもらう。レトルト食品はスマホ注文でいいけど、カニは現物を見て、活きのよさそうなカニを自分で選びたい。

こういうことを自在に組み合わせることができます。

消費行動の組み合わせ数を増やすことで、消費行動の課題が解決され、新小売スーパーを利用する機会を増やしているのです。これが「オンライン小売とオフライン小売を深く融合させる」ということです。

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競争激化が止まらぬスーパー業界

このアリババの新小売に呼応して、新小売スーパーに参入したのが永輝です。アリババのフーマフレッシュとほぼ同じ業態の「超級物種」(チャオジーウージョン)を展開しました。

永輝は2001年創業の比較的新しいチェーンスーパーです。しかも、過去、中国市場の中で、カルフールやウォルマートというグローバルブランドスーパーとの競争を勝ち抜いてきた実力派です。

中国のスーパーの歴史は、仏カルフール、米ウォルマートが上陸をした90年代後半に始まります。両社の戦略は郊外型大型店でした。ショッピングモールと同じように大きな駐車場を備え、大量の商品を扱う。週末に家族で郊外スーパーに出かけ、1週間分の食材を買うというのが中国人の憧れになりました。その時、永輝は逆をいったのです。郊外でカルフールに正面から対抗しても勝ち目は薄い。そこで、都市の駅近の都市型スーパーを目指しました。

2000年代後半になると、ECが普及をし、急激な経済成長で、多くの現役世代の労働時間が長くなると、郊外のスーパーに行く人が減り始めました。自宅の最寄り駅で降りて買い物をして帰るというスタイルが定着をし始めました。さらにコンビニの出店が進むと、まとめ買いをするのではなく、都市型スーパーやコンビニ、ECを組み合わせ、必要なものは必要な時に買うという買い物の断片化が始まります。ここに永輝の都市型中型店戦略がうまくはまりました。

また、カルフール、ウォルマートは業績を拡大するために、生鮮食料品以外の服飾、家電なども広く扱うようになり、百貨店化をしていきます。すると、永輝は生鮮食料品に特化をしていきます。直営農園、直営牧場を増やしていくなど、生産から流通、小売までを一貫して行い、品質の高い生鮮品を提供するスーパーというブランドイメージが確立していきます。これも受けました。

こうして、全国584都市に1037店舗を展開するチェーンスーパーになっていきます。売上額ではウォルマート中国を抜き、中国で最大のチェーンスーパーに成長します。

つまり、永輝はテック企業に苦戦をしているといっても、ダメな企業ではなく、それどころか、生鮮小売業界では圧倒的に強く、戦略にも長けている企業なのです。

なぜ実店舗スーパーの強者が惨敗?

その永輝が始めた新小売スーパー「超級物種」は、正直、惨敗と言っていい状況です。最大で54店舗を展開していましたが、現在、多くの店舗が休業をして、営業をしているのは20店舗ほどに縮小しています。

中国メディアの南方都市報が、永輝内部の人間に匿名で取材をすると、「大量閉店は、上層部の決定。新小売というビジネスモデルと永輝の組織が噛み合わなかった。決して前向きな決断ではない」という答えが返ってきました。今後は、超級物種で構築した配送網やスタッフを、喫緊のライバルとなっている社区団購に転換をしていく予定だと言います。

なぜ、超級物種はうまくいかなかったのでしょうか。これは、他の宅配スーパーにも共通することですが、近隣配送というのはものすごくコストのかかるサービスなのです。

全国をネットする宅配便企業では、全国の端から端まで荷物を運ぶと言っても、幹線部分は大量の荷物をまとめて運べるので、1個の荷物あたりのコストは限りなくゼロに近づけることができます。しかし、最後のラストワンマイル部分、各家庭に配達する部分は1つ1つ人が回るしかなく、コストが高くつきます。宅配便企業のモデルによっても異なりますが、配送コストの半分程度はラストワンマイル部分というのが一般的です。

新小売スーパーでは、このラストワンマイル部分の配送チームを自前で用意しなければなりません。一般には電動バイクで配達をしますが、一度に運べるのは10件程度です。これを仮に1時間で配達し切れるとすると、1日に1人が運べるのは80件。アリババのフーマフレッシュでは、1日のオンライン注文件数の目標値を5,000件に置いています。ということは、60人以上の配送スタッフが必要になります。

1人の月の人件コストが25万円だとします。月給だけではなく、人材採用コスト、管理コスト、福利厚生なども必要なので、これぐらいはかかります。すると、月25日稼働で、1日のコストは1万円。これで80件を運ぶのですから、1件あたりの配送コストは125円になります。外売(フードデリバリー)の配送料は3元から10元ぐらいを注文者から取るので、125円(約7元)という推計は現実にも合っているように思います。

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配送コストに耐えられない

しかし、これはあくまでも理想状態での話です。想定した5,000件の注文があればいいですが、半分の2,500件の注文しかなければ、配送コストは250円に跳ね上がります。配送スタッフは暇な時間が多くなり楽ができるかもしれませんが、経営的には厳しくなります。客単価が70元(約1,200円)程度のスーパーで、しかも生鮮食料品は利幅が圧倒的に小さい中で、250円の余分なコストをかけるというのは致命的です。

永輝の店頭売りのデータによると、生鮮食料品の粗利率は13%台後半から14%前半を推移しています。仮に客単価1,200円、粗利率14%だとすると、粗利は168円。配送料125円を顧客から取ればなんとかなりますが、フーマフレッシュのような配送料無料はとてもできません。ましてや、配送スタッフを遊ばせてしまうと、配送コストは跳ね上がり、容易に赤字になってしまいます。

宅配注文は受ければ受けるほど赤字になる。そうなると、スタッフも宅配注文を拡大しようというモチベーションが削がれます。実際にそういうことがあったかどうかまではわかりませんが、新小売チームが宅配注文を拡大するために大型の予算を使うキャンペーン企画を提案すると、店舗チームから嫌な顔をされるということは往往にして起こりがちです。赤字だから増やせない。増えないから赤字になる。悪いスパイラルに陥ってしまいます。

なぜアリババは利益を出せるのか?

アリババのフーマフレッシュは、この問題をどのように解決しているのでしょうか。

フーマフレッシュがスタートした時に、アリババの張勇(ジャン・ヨン、ダニエル・チャン)CEOは、「各店舗で1日5,000件のオンライン注文獲得を死守しろ」と強い口調で檄を飛ばしたと言います。この5,000件という数字はとんでもない数字でした。

フーマフレッシュの標準店舗は4,000平米です。しかも、1/3はイートインコーナーになっているので、普通に考えて平均来店客数は3,000名がいいところです。2020年のスーパー全体の平均来店者数は、中国チェーンストア経営協会によると、1日1201人です。これは小規模スーパーも含めた数字ですが、大型店でも3,000人から4,000人程度です。

ダニエル・チャンCEOは、それ以上のオンライン注文を取れというのです。2017年にフーマフレッシュが始まった頃は、なりふりかまわずオンラインに誘導するという感じでした。オンライン注文の割引クーポンを乱発するのは当然として、店頭で買い物をしてセルフレジで決済をしようとすると、スタッフが近づいてきて、「その商品、自分でお持ち帰りにならなくても、宅配にできますよ」と案内されます。まずは一度宅配の便利さを体感してもらって、以後、使ってもらえるように地道な努力の積み重ねをしていました。

つまり、フーマフレッシュは、自前の配送チームを持っているため、1日5,000件は運ばないと、スタッフが遊んでしまい、宅配コストが上がってしまうのです。宅配料は無料ですから、粗利の中になんとしても吸収しなければならない。そのためには配送スタッフを最大限活用する。それには5,000件以上を運ぶ必要があるという計算があったのです。

さらに、フーマフレッシュは200店舗以上を展開していますが、有望な地域に集中出店をするという戦略を取っています。アリババはECタオバオの購入履歴データを持っているので、どの地区に購買力の高い層が住んでいるかがわかっています。その地域に、1つの店舗が半径3kmをカバーするエリアを隣接するように並べていくことで、有望地域全体をカバーしていきます。多くの都市では、中心部や住宅区はフーマフレッシュの複数の配送エリアによりカバーされていますが、郊外はほとんど出店されていません。

この有望な地域に、エリアを隣接させカバーするということで、配送コストを下げています。つまり、店舗Aの配送が立て込んだ時は、注文を隣の店舗Bに転送し、店舗Bの配送スタッフが配送をします。こうすることで、配送スタッフを遊ばせることなく活用することができ、配送コストを抑えることができています。

しかし、考え方は簡単ですが、実際にこれを管理するシステムの開発は簡単ではありません。リアルタイムで需要予測をしながら、配送スタッフを効率的に動かすアルゴリズムを考案する必要があります。ですから、フーマフレッシュは、表面的には白菜や大根を売っているスーパーですが、運営をするのには高い技術力を持ったテック企業でないと厳しい面があります。だからこそ、アリババは優位性があると見て、生鮮小売に参入したわけです。

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「テック企業」以外には不可能

永輝には残念ながら、これだけの技術開発力はありません。エンジニアチームを育成すればいいのかもしれませんが、物流と小売が基本である永輝にそれだけの投資をするというのは簡単な決断ではありません。

さらに、超級物種の54店舗は、ほとんど隣接することなく、孤立をして点在をしていました。そのため、隣接する店舗の配送スタッフが連携をするということ自体ができません。そのような比較データがあれば面白いのですが、フーマフレッシュの配送効率と超級物種の配送効率を比較すると、雲泥の差になっているはずです。

つまり、「オンライン小売とオフライン小売を深く融合」させるのではなく、「オフライン小売にオンライン小売を接着した」状態になっていたため、何のシナジー効果も生まれず、むしろ業務フローが複雑になって、全体の業務効率そのものを低下させていた可能性があります。

永輝本体のスーパーも到家(宅配)サービスを行なっています。「永輝生活」というアプリを使って宅配注文をすることができます。もうひとつEC「京東」のデリバリーサービス「京東到家」にも対応しているので、2つの方法で宅配注文をすることができます。しかし、売上は全体の10%でしかありません。

詳細な数字が、永輝の2020の年度報告書に記載されているので、フーマフレッシュと比較してみましょう。到家サービスの売上は59.1億元で、1日に23万件の注文があります。1,000店舗で対応しているので、ここから平均単価や1日1店舗あたりの注文件数がわかります。すると、平均注文単価は70.4元、1日の1店舗あたりの注文件数は230件になります。永輝では京東到家にも対応していますが、こちらは詳細な記載がありませんが、合計しても1日1店舗のオンライン注文件数は300件から400件あたりと推定するのが自然です。フーマフレッシュの5,000件とは桁が違っています。

コロナが追い風

一方、フーマフレッシュはどうなのでしょうか。フーマフレッシュは、株式を公開していないので、経営数字は時折フーマフレッシュが発表する数字を使うしかありません。当然、いい部分の数字だけを発表しているのだと思われますが、虚偽の数字はさすがに発表できないと思います。

コロナ禍の前と後で、どのような変化があったかという数字をフーマフレッシュは発表しています。

それによると、コロナ禍以前の1日1店舗のオンライン注文件数は非公表ですが、5,000件という目標はじゅうぶんにクリアできるというものでした。それがコロナ後にはなんと3.2倍に増加をしていると言います。素直に信じれば1.5万件以上です。

実際、新型コロナによる外出自粛期間は、3倍になったといっても納得がいきます。この時期、30分配送がもはや維持できず、翌日配送になった店舗もあったほど注文が殺到しました(宅配だけでなく、出荷地からの配送も滞る事態だったようです)。今は、落ち着いて多少下がったとしても、1万件前後の注文件数になっているのではないでしょうか。

しかし、面白いことに、注文単価は以前は80元前後だったものが、40元に低下をしているそうです。フーマフレッシュは、30分無料配送なので、まとめ買いをせず、必要な時に必要なものだけを注文する買い物の断片化が進んでいるようです。

その結果、コロナ後はオンライン注文の売上が全体の売上の70%を超えたとのことです。

これがフーマフレッシュの圧倒的な坪効率を生み出しています。売り場面積1平米あたりの月の売り上げを比べると圧倒的で、スーパーの平均の4倍以上になっています。しかも、これはコロナ前の数字に基づいて計算したものです(各スーパーは2020年の数値)。現在は、この差はもっと開いているはずです。

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