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2015-05-14 17:40:00

地中海的食生活、脳の老化を防止-臨床実験論文

 
2015 年 5 月 12 日 13:36 JST 更新

 

エミリオ・ロス博士はオリーブオイルとナッツ類はフェノール化合物が豊富で、脳内の神経変性につながる酸化プロセスに抵抗している可能性があるとみている Getty Images

 地中海の食事(農作物や魚介類、全粒穀物、豆類を中心とした食生活)は、スプーン数杯のオリーブオイルないし、ひとつまみのナッツ類を付け足すと、脳機能の老化防止に役立つことが新たな臨床研究で明らかになった。

 この研究論文は11日、JAMA(ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション)インターナル・メディシンのオンライン版に掲載されたもので、食生活の健康効果を実験するため厳密な科学的手法を駆使したという点で過去に例を見ない研究だ。地中海的食生活による恩恵を示す従来の大半の論文は、観察的な調査を通じて結論を出したもので、決定的な結論の得られる研究テクニックはあまり使われてこなかった。

 

 この研究を主導したのは、スペイン・バルセロナ大学のホスピタル・クリニックのエミリオ・ロス博士。同博士は「これは健康にいい食生活についての最初の臨床的な無作為に被験者を選んだ研究だ」と述べた。従来の観察的研究から収集したデータは、地中海型の食生活の持続は認識機能の改善と痴呆症のリスク軽減に関連していることを示唆していた。しかし同博士は、こうした観察的研究には限界があると述べ、「今回の臨床実験はバイアスを排除し、第一級の科学的成果を提供する」と語った。同博士はホスピタル・クリニックの内分泌科で脂質クリニックのディレクターを務めている。

 地中海的食生活は、循環器系の健康にも良いことが示されており、野菜や果物、未精製穀物(全粒穀物)や豆類を多く取るのが特徴だ。また、魚やワインを多く取り、肉と脂肪分の多い酪農製品の消費は少ない。

 今回の研究は、認知機能に問題がないとされた被験者447人が対象で、年齢は55歳から80歳まで。これを3つのグループに分けた。このうち2つのグループには地中海的な食生活を送ってもらい、中でも第1グループは1日に30グラムのミックスナッツ(クルミ、ヘーゼルナッツ、アーモンド)を加えた。第2グループは地中海的な食事にスプーン5杯のエクストラバージン・オリーブオイルを加えた。第3グループは、コントロールグループ(対照実験グループ)となるもので、地中海的食事ではなく、低脂肪の食事をしてもらった。被験者たちは中央値(平均)で4年強にわたって追跡された。

 その結果、コントロールグループと比較して、地中海的食生活にナッツ類を加えた第1グループは記憶機能が維持されていたことが分かった。一方、地中海食生活にオリーブオイルを加えた第2グループは、前頭型認知力(注意力と執行機能)と包括的認知力に効果があったという。

 ロス博士によれば、このように、認知機能の低下に歯止めがかかったことは、ナッツ類やオリーブオイルという補助食品に豊富に含まれる抗酸化物質や抗炎症性物質に起因している可能性が大きいという。オリーブオイルとナッツ類はフェノール化合物が豊富で、それは脳内の神経変性につながる酸化プロセスに抵抗している可能性がある、と研究論文は指摘している。ロス博士は「年齢に関連した認知能力の低下を遅らせることができれば、仕事をもっと素早く処理できる」と述べた。

 ミネソタ州ロチェスターにある総合医療機関のメイヨー・クリニックの臨床神経心理学者ジェーン・サーハン博士は、年齢に関連した認知低下と食生活に関する臨床研究は非常に重要だと述べ、「規模と無作為であるという点で今回の研究は極めて優れたものだ」と語った。同博士は、今回の研究に関与していない。だが、同博士は「認知の面で観察された違いは極めて小さい上、実際、こうした食生活が認知機能を改善したことは示さなかった。機能低下を小さくしただけだ」と述べた。そして、この研究に基づいて、人々が大量のオリーブオイルとナッツ類を買いに走ることのないようクギを刺した。しかし、これらのような健康的な食品を含むバランスの取れた食生活を奨励すると語った。

 今回の研究は、ロス博士が計画した大規模な調査研究の一部だ。その大規模な研究では、地中海的食生活にオリーブオイルないしナッツを加えると、心血管リスクの高い被験者の間で大きな心血管疾患の発症が減ったことが分かった。この研究は7500人近くの被験者を対象にしたもので、略称「Predimed」という臨床試験として知られ、論文は13年に発表されている。

 

 ロス博士は今回の論文で、被験者には1週間に1リットルのオリーブオイルが支給されたが、それは家族全体を意図した量だったと述べた。同博士は、加齢に伴う認知力低下を抑えるため、1日の食事にオリーブオイル大さじ5杯と少量のナッツを加えることを推奨した。

 

 同博士は「わたしはクルミが好物だ。クルミはオメガ3脂肪酸を多く含む」と話した。そして、「魚の摂取を増やし、肉を減らして、豆類の摂取を改善する」ことで、多くの人が食事を改善できるよう望んでいると述べた。同博士はまた、1週間の献立のライスやパスタの上に、スペイン料理で使われる「ソフリット」ソースやニンニクをかけることを勧めた。ソフリットはトマト、タマネギとニンニクをオリーブオイルで炒め、ゆっくり煮詰めて作るソース。同博士は「われわれはこれが抗酸化物質のカクテルだと考えている」と話した。

 

 この研究はスペイン政府からの助成を受けた。論文によれば、ロス博士は過去にカリフォルニア州クルミ協会から研究支援を受けたことがあり、現在、同協会科学諮問委員会の無給メンバーでもあるという。