インフォメーション

2015-02-22 11:17:00
 
 
2015 年 2 月 13 日 19:21 JST

 

 

世界100以上の国・地域に店舗を構えるマクドナルドの苦悩とは? Jon Reinfurt

 世界100以上の国や地域に店舗を構える巨大企業となった米ファストフード大手マクドナルド。2014年通期業績は「過去数十年で最悪」との評価が出る中、同社の苦悩や語りたがらない事実を探った。

(1)成功のレシピをなくしたか

 1948年に設立されたマクドナルドは世界3万6000カ所で、1日に約7000万人の顧客にサービスを提供している。外食産業の年間売上高で圧倒的な強さを誇る。2014年の売上高は274億4000万ドル(約3兆2500億円)に上り、国内総生産(GDP)がこの額を下回る国は世界に90カ国以上ある。業界誌QSRによると、年間売上高は最も近い競合である米サブウェイの3倍近い。

 だが、1月23日に発表した2014年10-12月期(第4四半期)決算では、純利益が前年同期比21%減少した。別の大手業界誌は、同社の14年通期の業績が「過去数十年で最悪」とさえ言えるだろうと主張した。

 マクドナルドの苦境があらためて話題になったのは1月28日だ。同社はこの日、ドン・トンプソン最高経営責任者(CEO)が退任し、最高グローバルブランド責任者のスティーブ・イースターブルック氏が後任となる人事を発表した。詳細には触れていないが、業界ウオッチャーは最近の業績不振がトップ交代の理由となった可能性を指摘している。

 マクドナルドの苦悩の裏には何があるのだろうか。業界専門家の一部は、メキシコ料理チェーンのチポトレ・メキシカン・グリルなどファストカジュアル店の方が健康的かつ新鮮な品ぞろえを持っており、マクドナルドに代わる現代風のレストランだと見なされている点を指摘する。

 マクドナルドのメニューの多さが問題だとみる専門家もいる。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は最近、メニュー数が過去7年間で85品から120品以上に増加したと報じた。メニューの数が多くなれば、それだけサービスのスピードが遅くなる可能性があり、まさに「ファスト」フード業界ではプラス材料にならないのだ。

ロサンゼルスのマクドナルド店内で賃上げを要求するファストフード店員たち AFP/Getty Images

 

(2)当社はそれをチャンスと呼び、世間は「低賃金労働」と呼ぶ

 マクドナルドで働くスタッフは全世界で190万人に上り、その多くはフランチャイズ加盟店を通じて雇用されている。同社はウェブサイト上で「私たちの創造する仕事を誇りに思う」と述べ、柔軟なスケジュールを提供して多様性を促進する方針をうたっている。

 それでも、大半のファストフード店と同様に、最近はマクドナルドも賃金が低いとみなす米国の労働活動家や従業員からの攻撃を受けている。全米のファストフード店で働くスタッフなどが組織する団体「ファストフード・フォワード」は、最低でも時給を15ドルに引き上げるよう要求したことで注目を浴びた。

 米カリフォルニア大学バークレー校による2013年の調査では、ファストフード店のカウンターエリア業務スタッフに支払われる時給の中央値は8.69ドルだった。米報酬データ調査会社ペイスケールによると、マクドナルドの調理およびサービス業務スタッフに支払われる時給は中央値で7.74ドルとなり、競合であるバーガーキングの7.96ドル、ウェンディーズの7.87ドルをやや下回った。米国の連邦最低賃金は現在、時給で7.25ドルだ。

 

オーストラリアにあるマクドナルド慈善施設でゲストと話をする豪俳優のライアン・クワンテンさん(左) Getty Images

(3)それほど慈悲深くないかも

 

 マクドナルドの慈善事業はドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ(RMHC)に集約されている。RMHCは全世界に300カ所以上のハウスを持ち、遠くの病院でけがや病気の治療を受ける子どもの家族に滞在施設を提供している。RMHCのウェブサイトには「私たちの施設は援助以上のものであふれ、希望に満ちあふれている」との文言が踊っている。

 

 しかし、一部の批評家はマクドナルドの寛大さを疑問視してきた。公共福祉を専門とする弁護士のミシェル・サイモン氏は2013年のリポートで、同社の慈善事業に多くの欠陥があると指摘。RMHCがマクドナルドと密接な関係を持っているにもかかわらず、マクドナルドは12年に必要な資金の5分の1しか渡していなかったという(残りはコカコーラやサウスウエスト航空など企業を通じた献金、および個人からの献金でまかなわれたと、リポートは指摘)。しかも、マクドナルドは税引き前利益の0.32%(過去6年間の平均)しか慈善事業に割り当てていない。同社と同じ規模を持つ大手企業では平均1.01%が振り向けられているという。

 

 つまり、このリポートはマクドナルドが「美辞麗句に見合う施しを与えていない」と指摘したのだ。

 

 マクドナルドの広報担当者はリポートについてのコメントを控えた。

 

写真のように生き残る商品もあるが、「フラバーガー」は消えた Bloomberg

 

(4)世界的ヒット商品もあれば駄作もある

 

 マクドナルドは確かに「ビッグマック」や「クオーターパウンダー」「マックリブ」など、世界に愛されるメニューを数多く送り出してきた。

 

 半面、同社は限定期間さえもたなかった失敗メニューも数多く投入してきた。例えば、肉の代わりに焼いたパイナップルが挟まれた「フラバーガー」、カップに入ったサラダ「マックシェイカーサラダ」、各種のピザメニュー(もちろんマックピザを含む)などが挙げられる。最近の例では骨付きフライドチキン「マイティーウイング」を投入したが、売れ行きは伸びなかった。

 

 専門家に言わせれば、これはビジネスの世界によくあることで、競争で優位に立とうとするファストフード各社は常に何か新しい商品を試す必要がある。ただ、米国の金融関係者らは最近のマクドナルドに「ヒット商品」が欠けていることを懸念している。

 

中国では古い肉がマクドナルドの新たな頭痛の種となった AFP/Getty Images

 

(5)国外で数多くの困難に直面

 

 マクドナルドは最近、米国以外で一連の困難に直面して注目を集めてきた。中国では賞味期限の切れた肉類を納品した業者との取引を停止するという事件が起きた(この問題の影響を受けたのはマクドナルドだけではない)。

 

 ロシアでは政治問題に巻き込まれたようだ。マクドナルドはウクライナからロシアに編入されたクリミア半島から撤退したが、その後はロシア政府から度重なる抜き打ち検査を受け、モスクワやソチなどでは衛生問題を理由に複数の店舗が閉鎖させられた。

 

 トンプソンCEOは退任発表前の1月、アナリスト向け説明会で、ロシアと中国での事業が「回復モード」に入っており、両国では「食品の質を強調して顧客を取り戻す」ことに注力すると述べた。

 

マクドナルドの商品を食べ過ぎて太ったことのあるモーガン・スパーロック氏(中央) Getty Images

 

(6)米国に肥満をまん延させた張本人?

 

 ドキュメンタリー映画監督のモーガン・スパーロック氏が2004年に「スーパーサイズ・ミー」を公開して以降、マクドナルドは米国に肥満をまん延させた張本人のように扱われてきた(この映画でスパーロック氏は30日間マクドナルドのファストフードだけを食べ続け、体重が10キロ以上増えた)。これを受けてマクドナルドはメニューを変更し、栄養士が認定した健康食を付け加えたほか、「スーパーサイズ」というオプションを削除した。

 

 それでも、マクドナルドは専門家の多くが高カロリーで飽和脂肪が多いと考える食品を提供していると非難され続けている。ハッピーセットにおもちゃを入れることに反対する米消費者団体の公益科学センター(CSPI)は、おもちゃが結果的に子どもたちに「ジャンクフード」を食べるよう促すことになると主張している。

 

 これに対し同社は、ハッピーセットのオプションにオレンジや低脂肪ヨーグルトを付け加えたことを強調している。

 

マクドナルドも競合他社と同様、ビーフに入っている素材で批判を浴びてきた Getty Images

 

 

(7)怪しい食材は「ピンクスライム」だけではない

 

 マクドナルドは最近、各商品に使われている素材についての情報を公開するようになってきた。2011年には競合他社に先駆け、ハンバーガーに「ピンクスライム」と呼ばれる加工肉を使用するのをやめた(小売りやフードサービス、食品加工に携わる400社ほどが、現在もピンクスライムを使っている)。

 

 それでも専門家はマクドナルドが使う多くの食材に懸念を示す。ホルモン剤の投与されたビーフを使用しているという事実を指摘する向きもある(健康志向の強い一部の人はこうしたビーフが有害だと信じているが、米食品医薬品局[FDA]は「人間が食べても安全だ」と主張している)。

 

 また、パンをふわふわさせるため、「ヨガマット」などに使われている添加物アゾジカーボンアミドを利用しているとの指摘もある(こちらも健康を害するとの懸念があるが、FDAは「安全な食品添加物」と考えている)。ホルモン剤の投与されたビーフもアゾジカーボンアミドも、マクドナルドだけが使っているわけではない。

 

フライチャイズ加盟店はマクドナルドに不満を持っている Bloomberg

 

(8)それほどハッピーでないフランチャイズ加盟店

 

 マクドナルドがどんなに大きくても、フランチャイズ加盟店が同社の「顔」になることが多い。特に米国ではフランチャイズに加盟する者が大部分の店舗のオーナーだ。最近はそうした顔の「表情」が厳しくなってきた。ジャニー・キャピタル・マーケッツのアナリスト、マーク・カリノフスキ氏が実施した最近の調査から、フランチャイズ加盟者の一部がマクドナルドに不満を表明していることが明らかになった。変化に対する「動きが遅すぎる」とか、マーケティング手法が「ばかげている」といった不満をマクドナルドにぶつけているのだ。