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2014-09-10 12:55:00
 
2014 年 9 月 8 日 16:15 JST

 

 

仏レンヌの研究施設でカエルをつかむアンドレ・ヌブー氏 Chloe Domat for The Wall Street Journal

 【レンヌ(フランス)】アンドレ・ヌブー氏はカエル脚肉を愛するフランス人のために革命を起こした。通常は生きた虫しか食べないカエルの養殖に成功したのだ。だが、そうしたヌブー氏の努力の成果が無駄になってしまう可能性がある。

 フランスはカエル食の母国だが、国産のカエルはずいぶん前にほとんど消えてしまっている。野生のカエルは絶滅危惧種に指定されており、捕獲が禁止されている。そのため、フランスのレストランで出されるカエル脚肉「キュイッス・ド・グルヌイユ」の大半は外国産だ。政府の報告によれば、カエルの年間輸入量は3000〜4000トンに上る。インドネシア産の冷凍品かトルコやエジプトの生きたカエルが中心だ。

 こうした状況を受け、70歳近いというヌブー氏はフランス人の味覚を満たすため自身のノウハウを共有することにした。「フランス産カエルに対する解決策を見つけ出すことは、愛国的な挑戦だ」という。

 ヌブー氏の理想的な脚肉は、インドネシアからの輸入品の3倍近い値段にもかかわらず、供給が需要に追いつかないと同氏と同僚のパトリス・フランソワ氏は語る。フランソワ氏は「毎週、注文を断らなくてはならない」と話す。

 そのため、カエルの多くはトマ・ブタン氏のフライパンで調理されることになる。

 

 ブタン氏は、高級住宅が並ぶパリ16区に6月開店した「ル・ビュー・クラポー」(老いたヒキガエル)のオーナーシェフだ。「うれしいことに、パトリスの売る肉は背骨と前脚をつけたままのリヨン風だ」とブタン氏。まだ30代の同氏は、祖母のレシピで調理したガーリック風味の脚肉を店で出すという夢をかなえた。

 ヌブー、フランソワ両氏が生産できるカエル肉は年に3、4トンにすぎず、現在の顧客の需要をどうにか満たす程度だ。ブタン氏の店だけで、現在の生産量の3分の1近くをのみ込んでいる。

 だが、ヌブー氏が引退し、他の生産者が見当たらないため、ブタン氏のようなシェフは良きカエル料理の日々が消えゆくのではないかと懸念している。

 ヌブー氏は1970年代終盤、名門のフランス国立農学研究所(INRA)入所直後にカエルの養殖に取り組みだした。ドライペレット(固形飼料)を受け付けるようになったのがワライガエルだけだったうえ、拒食や共食いなどもあり、カエルが完全に適応するまでに15世代、20年を要した。

 カエルの養殖はブラジル、マダガスカル、ベトナムなどで大きな関心を集めたが、フランスで一緒に養殖をしてくれる人はなかなか見つからなかった。ワライガエルは野生、養殖を問わず絶滅危惧種に指定されていたため、特別に(捕獲)許可をもらうまでに5年かかった。南フランスのピエールラットで2010年にようやくオープンした農園は、近くの原子力施設の冷却装置から排出される温水の恩恵を受けている。

 フランソワ氏は生産を拡大するため、自身のプロジェクトを農家に再現してほしいと思っている。問題は、捕獲禁止の例外措置が当局から得られないことだ。

 レンヌの研究所ではヌブー氏の後任が見つかっていない。今も研究所を訪れるヌブー氏はアシスタントが網で卵をすくうのを見て、「パピルスの葉を使うように言っただろう!傷ついてしまう!」と声を上げた。