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2014-07-17 17:54:00
公邸料理人の活動紹介
「400年前の日本大使に見守られ食文化の牙城に切り込む『和』の匠」

(在イタリア日本国大使館・平野文史郎公邸料理人)

平成26年7月15日

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      支倉常長の肖像画の前に並ぶ日本料理
 
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      ガンベロ・ロッソでの調理実演
 
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    鮪のさばき方のデモンストレーション
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    イタリア国有TVによるインタビュー
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    「Japan After Dark」にて提供した小皿料理

 「全ての道はローマに通じる」と言われるイタリアは、多様な異文化を排除しない点で正に世界に開かれた社会です。一方「郷(ローマ)に入っては郷に従え」という言葉どおり、「食」に関しては、最終的には母親(マンマ)の作るイタリア料理とイタリア・ワインに回帰してゆく保守的な傾向が極めて強い土地でもあり、外国料理人にとっては難攻不落な食と酒の牙城と言ってよいでしょう。
 公邸料理人・平野文史郎さんは、若干35歳にして料理人としての経歴は17年を数え、前任地ロシアに続き、イタリアにおいても極めて上質な正統派日本料理を提供することにより、数多くの招待客から高い評価を得てきています。約3年にわたるイタリア勤務の中で、彼が手がけた珠玉の仕事ぶりの一端をご紹介します。

 2012年10月、旧貴族や政財界要人で構成する紳士倶楽部でありイタリアの「文化の権威」であるチルコロ・デッラ・カッチャ、及び、イタリア料理店とイタリア・ワインの格付け企業でありイタリアの「食の権威」であるガンベロ・ロッソ(イタリア人にとってはミシュランの「星」の数より、ガンベロ・ロッソの「フォーク」の数の方がよほど重要であり、これに紹介されることはシェフ達にとってこの上ない栄誉なことなのです。)との共催で、日本料理と酒のイベントを各々開催しました。
 そこで提供される食と酒は、提供するそれだけでイタリアの権威がお墨付きを与えることに通じます。食と酒の牙城の本丸に集う人たちは、これらの分野のオピニオンリーダーたちですから、ここに楔を打ち込むことによって、東日本大震災の風評被害により市場から失われた日本産食品及び酒(國酒)の信頼の回復・拡大、更には日本食文化に対する理解促進に繋がるとの確信の下に企画したイベントでした。
 特に、紳士倶楽部でフランス料理以外の外国料理がサーブされることは、同倶楽部の長い歴史上初めてのことでした。110名の招待客を相手に一品一品手間を掛けた小皿料理とし、旬の季節の素材をふんだんに用いると共に、器やテーブルの装飾などトータルに「四季」を体感できる料理を提供しました。私はこの行事の挨拶で、日本料理がイタリア料理と同様に、如何に新鮮で自然の風味を生かしているか、季節の食材を重視しているかを強調し、また、「日本人がこれほどイタリア料理を好きなのだから、イタリア人が日本料理を好きにならない訳がない」とも主張しました。平野料理人は、それを裏付ける形で、「旬の食べ物は美味しい、旬の食べ物は安心」というメッセージを、食に対する日伊共通の理解として、素晴らしい匠の技をもって具現したのです。
 紳士クラブの夕食会場には、折しもちょうど400年前に石巻を出航した支倉常長・慶長遣欧使節団長が、「日本国初代大使」として描かれた油絵が掲げられており、支倉の眼下で日本食の夕べを開催することは、日本とイタリアの悠久の歴史を象徴する意義がありました。

 支倉常長以来の歴史のつながりの中で、平野料理人の活躍はこれだけにとどまりません。2013年10月には、上質の日本文化を複層的に紹介するイベント(Japan After Dark)を催しました。このイベントは、人間国宝を擁する人形浄瑠璃「杉本文楽」による伝統文化と、ミラノ・コレクションにも参加しているアンテプリマのファッションショーという現代文化の対比・融合をテーマとするものでした。
 平野料理人は、秋の味覚をテーマとした6種類・1800皿に及ぶ小皿料理を、花や折り紙をも用いて「五感に訴える」総合的演出により提供しました。出席した現役イタリア上院議長や外相、複数の元首相らといったそうそうたるハイレベルの招待者に日本文化の上質性をインプットし、日本に対する理解を深めることに大いに貢献した訳ですが、実はこうした活動は、日本の外交的資産を積み上げる活動に他ならないのです。言うなれば、平野料理人はまさに、「味の外交官」です。

 平野料理人のこうした活躍は、当地メディアにもしばしば取り上げられました。2012年9月には、当地発行部数第2位を誇るレプッブリカ紙の発行する月刊誌XL誌が、「真の日本料理はそんなに簡単に見つからない」と題するインタビュー記事を掲載、真の日本料理店を見つけるための判断基準を読者に提供するためとして、平野料理人から聴き取った日本料理の伝統にかかわる数々の言葉とその考察を紹介しました。また、2013年1月には国営テレビRAI2の人気番組「イート・パレード」で二度にわたる特集を放送、200万人を超える視聴者に和食の魅力を紹介しました。

 自然(四季の恵み)、人(食材に携わる人)、機会(一期一会)の三つに対する「敬(リスペクト)」を旨とすること、食材を活かすこと、地元産品の料理に誇りを持つこと、そして母親の愛情こもった料理をこよなく愛すること、これら全てが日本とイタリアに共通しているものであると、平野料理人は教えてくれています。

平成26年6月
駐イタリア特命全権大使 河野 雅治