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2014-07-11 10:52:00

世界の食料の3分の1あまりが廃棄されているのはなぜか。
 私たちに何ができるのだろうか。

 トリストラム・スチュワート氏は食品廃棄の問題に取り組むイギリス人活動家で、廃棄の実態を赤裸々に描いた書籍『世界の食料ムダ捨て事情(Waste: Uncovering the Global Food Scandal)』(NHK出版)の著者。捨てられる食材を使って道行く人々に食事を提供するイベントや、従来は腐らせるしかなかった余剰農作物を収穫するボランティア活動など、さまざまな活動を展開している。

 彼の試算によると、欧米各国で廃棄される食料の4分の1もあれば、世界中で飢餓に苦しむ10億人の人々が食事にありつけるという。こうした取り組みにより、先ごろナショナル ジオグラフィック協会のエマージング・エクスプローラー(新進支援研究者)に選ばれたスチュワート氏に話を聞いた。

パリの市場を訪ねるトリストラム・スチュワート氏。ナショナル ジオグラフィック協会のエマージング・エクスプローラーである彼は、世界の食品廃棄物の削減に取り組んでいる。(PHOTOGRAPH BY MARTIN BUREAU/AFP/GETTY IMAGES)

食品廃棄の問題に関心を持つようになったのはいつごろですか。

 15歳のときです。当時私はイギリスの、もとは小さな農場だった土地に住んでいたのですが、そこでブタとニワトリを飼うことにしたんです。ところがブタの餌代がとても高い。そこで学校の食堂で出る残飯をタダでもらってくることにしました。地元のパン屋さんや青果店、食料品店も協力してくれましたし、農家からは、形が悪くてスーパーマーケットに卸せないジャガイモをもらいました。10代の子どもにとって、これは大きなことでした。おかげで、おいしい豚肉を友人たちの親に買ってもらえたんです。

 いっぽうで私は、畑から個人の食卓にいたるまで、供給プロセスのあらゆる段階で食品が無駄に捨てられていることにも気づかされました。私は物心がついたころから環境保護に関心がありましたから、ああして捨てられる食品を何か別のかたちで活かせるはずだと考え、食品廃棄問題の解決に向けた運動を始めたわけです。

企業が隠蔽してきた不都合

これまで食品廃棄の問題にあまり注目が集まっていなかったのはなぜでしょう。

 私がこの問題に取り組み始めた2001年には、信じがたいことに、食品廃棄に関する情報はどこを探しても見つかりませんでした。食品廃棄物を削減する方針を掲げている企業も皆無です。政府も何の発信もしておらず、EUで「ランドフィル・ディレクティブ(埋め立て処理するゴミの比率を削減する指令)」が採択されたくらいでした。この問題は隠蔽されていたんです。

 企業がこの問題を隠すのは、自分たちがどれだけ多くの食品を廃棄しているかを世間に知られたくないからです。事実を知れば人々がショックを受けることを、彼らは知っているのです。私たち自身にも原因があります。私たちは普段、食べものをゴミ箱に捨てながら、自分がいったいどれだけの量を廃棄しているかを直視しようとしません。

 私がこれまでやってきたことの大半は、畑から食卓に届くまでの間に捨てられる食品の量を累計し、その規模を明らかにすることです。そこから得られた数値は、まさに衝撃的でした。世界に供給される食品のうち、少なくとも3分の1は廃棄されており、富裕国においてはこの割合はさらに高いのです。

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