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2014-07-09 17:22:00

未来へとつなぐ女性たち 第8回小島希世子氏(後編)~食卓と生産現場の距離をもっと縮めたい~

スキル・キャリア WISDOM編集部 2014年07月04日

小島希世子(おじま きよこ)氏 
株式会社えと菜園 代表取締役 
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「農・食・職」を結ぶ取り組みを行っている株式会社えと菜園代表の小島希世子さん。熊本県の農家から農薬に頼らない野菜を届けるオンラインショップなど手掛け、多くの消費者から支持を獲得しています。我々の食卓に並ぶ野菜は、当然ながら誰かがどこかで作ったものですが、都市部に住んでいると生産の現場を目にすることは多くありません。後編では、小島さんに「食卓」と「生産現場」の距離を縮める理由、そして仕事のやりがいについて伺いました。

「ありがとう」の声が届く販売方法

前編では、大学入学をきっかけに熊本県から神奈川県に引っ越し、はじめて目にしたホームレスに衝撃を受けて就農支援を思い付いたエピソードを伺いました。話が戻りますが、大学ではどのような勉強をされたのでしょうか?

  • 小島:

    進学した慶應義塾大学環境情報学部(SFC)では主に語学とコンピューター、宗教学の勉強に力を入れました。

宗教学ですか?

  • 小島:

    はい。宗教というのは倫理観に働きかけ、それに基づいて人を行動させる力を持っていますよね。困っている人たちがいたら縁もゆかりもないのにも関わらず寄付をしたり、または宗教上の理由でお酒を飲まなかったり、食事を制限したりもします。学生時代のインドネシア語の先生はイスラム教徒だったのですが、食べ物に豚肉が入っていないか、細かく気にしながら食事をしていました。そうした宗教の持つ力について純粋な興味を持ち、勉強してみようと思ったのです。

在学中も農業に関わっていたのでしょうか?

  • 小島:

    もちろんです。実家に帰るたびに農家の方に話を聞いて回っていましたし、大学に通いながら農作物の卸業者でアルバイトもしていました。最初に就職したのはその卸業者で、自分が農家になるときのために「売り場」について勉強しながら働いていました。

その後、えと菜園を立ち上げ、自身で農作物を生産する以外にも、さまざまな事業を手掛けるようになります。その一つであるオンラインショップの立ち上げには、どのような経緯があったのでしょうか。

  • 小島:

    農業の知識を蓄えていくうちに無農薬に興味を持ったのですが、農業関係者からは「農薬を使わない農家になるのは止めたほうがいいよ」とアドバイスされました。というのも、無農薬で作ったとしても出荷する際にはキロ単位で値段が決められてしまうため、割が合わないのですね。値段も市場の需要と供給で決められてしまうので、自分で売値を決められない。酷いときは無農薬の野菜を出荷すればするほど赤字になる、なんてこともあるようでした。ましてや私の実家は農家ではないので、「農地も機材もない状態からはじめるなんてとんでもない」と言われたのです。そこで思い付いたのが、オンラインショップを利用して農薬に頼らない野菜を欲している人に直接販売する、という方法でした。

なぜ、オンラインショップが有効だと思ったのですか?

  • 小島:

    オンラインショップなら自分で価格を設定できるし、それに価値を見いだしてくれるお客さんに販売することができるようになるからです。また、食卓と生産現場の距離が縮まれば自分が作った野菜を誰が食べ、どんな感想を持っているのかを把握できるようになります。それまでは誰に食べられているのかもわからないまま黙々と野菜を作るだけだったのに、「ありがとう」の声が届くようになるなんて、こんな嬉しいことはありません。お客さんとしても生産者のこだわりをじかに確認することができるので、安心して食卓に並べることができます。

こだわりの野菜をこだわりの強い消費者に届ける仕組み、ということですね。

  • 小島:

    そうです。本当にこだわるお客さんは、肥料に牛糞を使っているなら、「その牛は抗生物質を飲んでいないか」ですとか、「餌に遺伝子組み換え作物が使われていないか」ということまで気にします。そうしたお客さんに対しては、とことん品質にこだわったほうが信頼される。逆に値段を安くしようとして、品質を下げたほうが信頼を失ってしまいます。農家の方と相談しながら安全性を突き詰めていき、こだわりの強いお客さんに対して説明していく仕組みを作っています。

農業の未来に広がる可能性とは?


  

今後はオンラインショップをさらに拡大していく方針なのでしょうか?

  • 小島:

    もちろん事業をもっと広げたい、という思いもありますが、広げることに注力するよりも、まずはもっと深くお客さんと近づきたいと思っています。それもあって体験農園「コトモファーム」では、実際に無農薬の野菜を育てる経験をお客さんにしていただいています。ご自身で農業を体験してもらえれば安全性についての判断力を養うことにもなりますし、私たちのこだわりについて深く理解していただけるようになります。そうした取り組みを通して、一生お付き合いさせていただけるパートナーシップを結んでいきたいです。いずれは、お客さんのライフスタイルにカスタマイズした販売が可能になるかもしれません。

TPPの問題もあり、農業の未来について注目が集まっています。

  • 小島:

    輸入された安い作物に対抗するためには、企業が消費者に販売するB2C(Business to Consumer)が一番。お客さんに買い支えていただくという発想です。そのかわりこちらも全力で食の安全を守り、固いパートナーシップを築いていくことで生き残っていくしかないと思います。

前編でアフリカの飢餓についてのドキュメンタリー番組を見たことが農業に興味を持った一因だと伺いました。海外でのビジネスには興味がありますか?

  • 小島:

    そうですね。海外には興味があります。会社としてのビジネスなのか、一農家としての挑戦なのか、はわからないですが、いずれはチャレンジしてみたいです。食にまつわる問題の多くは食卓と生産現場が遠くなり過ぎたことによって起こっているように感じています。複合的に絡み合って生じているいろんな問題を解きほぐすために、自分ができることから取り組んでいきたいと思います。

農業の可能性はまだまだありそうですね。

  • 小島:

    そうですね。農業はみくびられているけれど、いろんな可能性があるのです。食料を生産する場でもあるし、雇用の場でもある。教育の場にもなるし、福祉の場にもなる。でも現状では学校を出て就職する際に、「農業」という選択肢を選ぶ人は、実家が農業の人以外はほとんどいないですよね。ハローワークの職業訓練スクールでもデスクワーク系の講座はたくさんありますが、農業を教える講座はありません。たとえば50歳を過ぎて職を失っていた肉体労働者がいたとして、その方にパソコンの操作を教えるよりも農業を教えたほうがキャリアを生かせるかもしれません。私たちも精一杯頑張りますが、国ももっと農家に就職する間口を労働者に広げる取り組みをしてもよいのでは、と思っています。

福祉への活用とは具体的にどのような取り組みが考えられますか?

  • 小島:

    企業の福利厚生として、農業体験を使っていただくこともできると思っています。自然と触れ合うことでストレス解消にもなりますし、生命の素晴らしさに気付くことで自分と見つめ合う機会にもなります。実際、ホームレスの就農支援でも農業日誌(ワークノート)を書いてもらい、「仕事とは何か?」「社会における自分の役割とは何か?」と考えてもらったり、ペアワークを通して自分の長所に気付いてもらったりする取り組みを実施しています。反抗期の中学生が体験農園に来たことがあって、「農業を体験して以来、物を壊さなくなった」と学校の先生から言われたこともあります。ほかにも潔癖性の方が土に触れることができるようになったり。農業にはまだまだ可能性がたくさんあると思います。

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https://www.blwisdom.com/skillcareer/interview/fwomen/item/9623-08.html?mid=w467h90300000178056