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2013-10-18 23:43:00
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  • MARI IWATA

 【東京】日本の高級食料品店に行くと、リンゴが1個1500円、ぶどうが1房1万円といった値段で売られている。安倍晋三首相は、このように高価だが質が高いことで有名な日本の食品をどうにか輸出したいと思っている。

 安倍氏の輸出促進策を支持する向きは、フランスが輸出する高級ワインと同じように、日本の生産者が丹誠込めて育て上げた果物やコメ、牛肉、日本酒が日本名産品として世界に認知されることを期待している。

 

 日本の農業は何十年もの間、778%にも上る輸入米への関税率に代表される高関税に守られてきたため、新たな市場開拓をほとんど行ったことがない。農業が生き延びているのは、日本全体の産業に占める割合が小さいにもかかわらず大きな政治力を持つ農家に対して、健全な収入を保証した政府補助金のおかげとも言える。経済協力開発機構(OECD)のデータによると、日本の農家は全収入のうちの56%を政府補助金に依存している。これに対し、米国と欧州連合(EU)内の農家の政府依存率はそれぞれ、7%、19%に過ぎない。

 安倍氏は現在、農家と政治家が長年維持してきた懇意な関係を断ち切るつもりのようだ。経済対策の一環として、また米国主導の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への取り組み姿勢を見せるために、関税の撤廃を検討している。TPPは日本の主力産業の輸出企業にとって大きなプラス材料になる可能性がある。また、世界の平均価格と比較してジャガイモの値段が2倍以上、リンゴの値段が3倍という日本では、食品輸入業者も恩恵を受けるかもしれない。

 

Bloomberg News

厳しい認定基準を持つ神戸牛、海外での知名度も高い

 だが、TPPによって国内農家は市場シェアを失う恐れがある。安倍氏はその対策として農家に海外に目を向けてもらいたいと考えており、農産物輸出を2020年までに倍増する目標を打ち出した。高品質の牛肉やコメといった一部の品目については、海外市場の開拓に成功しているが、農産物輸出全体を見ると、数量は06年以降横ばいの状況が続いており、高級食品の主要輸出国であるイタリアの農産物輸出量の8分の1に過ぎない。

 さらに、国内市場が縮小していることから、政府は輸出の改善を重要視している。政府の試算によると、日本の人口は2050年までに20%超減少し、1億人を切ると予想されている。

 農産物の輸出促進についてはこれまで、補助金を受け取らない道を選ぶわずかな農家に限られてきた。しかし現在では、大手金融機関や総合商社の一部にけん引される形で勢いが増している。

 政府は農産物輸出を促進するために主要銀行と協力し、国内向け海外向けを問わず、付加価値のある製品を作るプロジェクトに資金の提供を始めた。政府は既に約300億円の資金を用意しており、さらに銀行からも最大300億円が提供される見込みだ。

 この取り組みに参加している金融機関の1つ、三菱東京UFJ銀行の広報担当者、高橋一暢氏は「チャレンジングな試み。しかし、国内の資金需要が伸び悩む中で、新規の貸出先を探すという点でも意味のある取り組みだ」と話した。

 野村ホールディングス8604.TO -0.40%の子会社、野村アグリプランニング&アドバイザリーも千葉県と北海道の地元企業と合弁農場を2カ所設立した。いずれも規模は小さいが、野村は農場経営への理解を深めることで、農産物輸出への参入を模索する法人顧客へのアドバイスを改善することができるという。

 野村アグリの西澤隆社長は「生産者は非常によい作物を作っているのだが、誰にどうやって売るかぜんぜん考えていない。この大きな矛盾があるから、農業は面白いと思った」と、農場に出資した理由を語った。

 また、大手商社の丸紅8002.TO +0.66%も農産物輸出に参入しており、中華圏の市場向けに日本の農産物を輸出するために、香港の衛星テレビ会社と基本合意を結んだ。同社農産部の近藤孔明副部長は「富裕層を狙っています。コモディティー市場には興味はありません」と高級品の輸出に絞っていることを明らかにした。

 みずほ銀行産業調査部の山岡研一次長はこうした動きについて、売れるか否かは「マーケットイン戦略、プロダクトアウト戦略の組み合わせの問題で、工業製品などと変わらない。農業に関しては、今まではそれができていなかったということ」だと指摘し、日本の工業製品が輸出で成功したように、高価な食品でも世界で需要があれば輸出を促進できるとの見方を示した。