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2013-10-10 18:03:00
    By
  • JAMES R. HAGERTY

 

 

[image] Dan Krauss for The Wall Street Journal

 米小売り大手ウォルマート・ストアーズ WMT +0.14%は中国製のソフトボール用バットからベトナム製のキャンドルに至るまで、数多くの輸入製品で長らく米国の消費者を引き付けてきた。

 ところが最近は国産品の在庫を増やすと約束するなど、ここ9カ月間は強い愛国心を示している。米国部門のビル・サイモン最高経営責任者(CEO)は最近、オーランドでの仕入れ先との会合で、仕入れ先を国内に移せば「中間層の質の高い仕事が生まれる。我が国はそうした雇用を必要としている」と発言した。

 ウォルマートはこれまで米国産の靴下やタオル、キャンドルや電球を販売する計画を発表、これによって1200人分以上の雇用を創出した。7日にはレッドマン&アソシエイツが来年、アーカンソー州ロジャーズに工場を開設して電池式の玩具のクルマを製造し始める、と発表した。子どもが運転できる大きさのクルマは、現在は中国から輸入している。州内のまた別の会社、ハンナズ・キャンドルは、ウォルマートへの出荷が増えたのでここ1年で契約社員も含めて従業員を2倍の約200人に増やした、と述べる。

 ウォルマートの戦略変更はマレーシア生まれの起業家、リップ・ヨウ氏(40)率いるAFCトライデントにとっても事業機会を意味する。トライデントはつい最近まですべての製品を中国で生産していた。中国の深センで契約社員を雇ってスマートフォンやタブレット型端末を保護するプラスチック製のケースを製造しているトライデントだが、4月にはカリフォルニア州ランチョ・クカモンガにある小さな工場でも生産を開始した。ヨウ氏は、いずれは大半の生産を中国からカリフォルニアの新工場に移すよう目指しており、ウォルマートを含む小売業者向けにアピールする狙いもある。

 ヨウ氏は工場見学者を案内しながら、ウォルマートの店内に自社商品を並べることには「大きな意味がある」と話した。新工場内のクレーンには米国の国旗がかかっている。

 ウォルマートは、米国製品の仕入れを金額ベースで500億ドル増やすと約束した。これは年間平均50億ドルずつの増額に値する。ウェルズ・ファーゴ証券のアナリスト、マシュー・ネメール氏によると、これは国内店舗の年間仕入額の約2%に相当する。2012年の米国の貿易赤字額の1%弱だ。

 ウォルマートのミシェル・グロックラー上級副社長は「始めるにはふさわしい場所だ」「もっと大きくなると確信している」と述べた。

 国産品重視の戦略はウォルマートを善良な市民として印象づけるという広報活動の一環である一方、業績改善も目指すものでもある。国内でコストをかけない生産業者を見つければ在庫コストを抑えられる。仕入れ先を国内に変更すれば商品の輸送時間を短縮できる。流行が変わってもすぐに新しい商品を店内に陳列することができる。

 ただしグロックラー氏は、国産品でも価格が高ければウォルマートは買わないと明言する。ウォルマートは既存の仕入れ先に商品の生産地を確認したり、見本市で新たな仕入れ先を探したりしている。その過程でエイミー・ブラッドリー氏に出会った。ブラッドリー氏は夫とともにペンシルベニア州ウィンドムアで小さな会社を営んでいる。床の上に散らばったレゴなどの小さな玩具を拾い上げるプラスチック製のスコップを開発、「トイドーザー」と名付けてこれを製造している。

 

 

 ブラッドリー夫妻は当初、米国で製造すればコストがかさむと考え、メキシコで生産していた。ところが製品の質が良くなかったので国内のプラスチック射出成形会社を調査したところ、驚いたことに米国では自動化が進んでいるのでメキシコよりコストが安く済むことが判明した。そのため製造場所を州内のペンデルに移した。

 

 すでにウォルマート・ドットコムではトイドーザーを販売しており、1月からは50店舗で試験販売を開始する。ブラッドリー氏は14.99ドルでの販売を提案したが、ウォルマートは10~12ドルでの販売を希望している。

 

 カイザー・ロスは「ノー・ナンセンス」のブランドでウォルマートに女性用の靴下を提供していて、テネシーとノースカロライナに複数の工場を保有している。来年前半には新たに低価格ブランドを立ち上げることで、より広いスペースに商品を陳列できることに期待している。コストを抑えるために約1800万ドルを投じて機器や装置を買い換えるほか、供給業者との好条件での契約締結や販売網の合理化に期待する。

 

 ヨウ氏はかつてサンフランシスコの金融サービス業者で働いたり、会社を経営して動画ゲームと連動して遊べる中国製のプラスチックギターを販売したりしていた。このゲームの流行が終わると電話機やタブレットのケースを製造することに決めた。当初は中国で生産していたが、大半の製品の生産拠点を米国に移そうとしている。第2の故郷、米国で雇用を創出している。業務運営上も理にかなっている、と説明する。

 

 ヨウ氏によると、トライデントのランチョ・クカモンガ工場では組み立て作業員の初任給は時給12ドルほど。手当を合わせれば1人当たりの月額コストは中国の4倍以上だ。しかし中国の賃金は急速に上昇していて両国間の差は縮まっている。加えて米国で生産すれば輸入税20%や輸送費を回避できる。元高も中国で生産するメリットを打ち消している。