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2013-09-21 22:41:00
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  • CHRISTINA PASSARIELLO、WILLIAM HOROBIN

 

Karl Hab

パリのフィッシュアンドチップス専門店「サンクンチップ」

 【パリ】世界の高級料理の首都で、ファストフードが複雑さを増しつつある。

 まず、当地ではファストフードが常に「ファスト(速い)」とは限らない。屋台の「ル・カミオン・キ・フュム」では、客がランチ時にオーダーメードのハンバーガーを手にするまでに1時間かかることがある。

 複雑なソースや上品なペーストリーを作るのに必要な食材全てが簡単に手に入る街では、ファストフードの商品用の材料がそれほど簡単に手に入らないこともある。

 過去2年ほどで、パリには海外系列のファストフード店が続々とオープンし、ブリトー、ハンバーガー、ブラウニーのグルメ版を提供。質の高さと本物であることで人気を博してきた。だが、こうした状況を受けシェフやレストランオーナーはフライ用の正しいじゃがいも、パストラミ用の牛肉、サルサ用の赤唐辛子に向けた快楽主義の探求に乗り出している。

 昨年、フランス初の「チポトレ」(メキシコのファストフードを出す米系チェーン)開店の準備をしていたデーモン・ビッギンズさんは、メキシコ料理では定番の緑のトマティーヨを見つけるのに苦労した。フランス人の納入業者は、ビッギンズさんが何の話をしているのかわからなかったからだ。

 

The cut of beef known as brisket doesn't exist in France. So how do you make pastrami? Chef Kristin Frederick came up with a solution when she opened her New York-style deli in Paris.

 

 ビッギンズさんは「ラテン語の名前を使うはめになった」と述べた。今では、スペインかオランダ産の"Physalis philadelphica"を季節によって使い分けている。

 パリに屋台の流行をもたらしたル・カミオンの米国人クリスティン・フレデリックさんは、モントレージャックチーズ入りのディップ、ケソ・フンディードをこよなく愛している。高いフランス産チーズで作ろうとしたが、うまく溶けなかった。そこで、正しい舌触りを出すために、米国式のプロセスチーズを足した。

 だが、結局は納得できる商品を作れず、メニューには載せなかった。

 ジャンクフードやファストフードなどの思い出を元に、新しい世代のシェフはお気に入りのレシピを作り直している。プルースト作「失われた時を求めて」のマドレーヌの庶民版だ。

 この夏パリにフィッシュアンドチップス専門店「サンクンチップ」を開いた英国人シェフのマイケル・グリーンウォルドさんは「ジャンクフードのアイデアは好きだが、高級な素材で作るのがいい」と話した。

 海外の食物に新風を吹き込むパリの動きは、フランス流に着席してサービスを受けながらフランス料理を食べることへの崇拝に対する反発だ。

 あらゆる種類の料理に関するウェブサイト、ル・フディンの創設者アレンクサンドル・カマさんは「フランスでは1990年代末まで、オピニオンリーダーからみて価値のあるのは高級で伝統的な料理だけだった」と述べた。

 もちろん、マクドナルドやケンタッキーフライドチキン(KFC)は何十年もフランスでパテをひっくり返したりチキンを揚げたりしており、サブウェイはバゲットのサンドイッチを売るパン屋から市場シェアを奪っている。

 だが、「fast good」(質も値段も高いテークアウト食品という意味のフランスの造語)を求めて、こうしたチェーン店に寄り付かない都市部の若者も多い。

 レストランの店主らによると、フランスの納入業者は新しい海外ファストフードの流行に追いついていない。

 例えば、普通のホットドッグが手に入らないとフレデリックさんは言う。本場の牛肉やチーズの質にかなうものはないが、外国産のチーズはほとんどなく、使用する牛肉の塊は全てフランス産だという。

 地元で作られた米国式プロセスチーズの方が入手しやすいが、フレデリックさんはケソ・フンディードの試作品では輸入したイングリッシュチェダーチーズを使うことにこだわった。「そういうものを使うのは、シェフとして心が痛む」とフランスの名門料理学校を卒業し、ミシュランの星つきのレストランで働いた経験を持つフレデリックさんは語った。

 

Christina Passariello

フィッシュアンドチップス

 フレデリックさんと同様、ファストフード業界の新たな起業家の多くは正式に料理の訓練を受けているために材料に対する基準が高い。グリーンウォルドさんが英国のフィッシュアンドチップスをフランスで取り入れようとしたときも、これが問題になった。

 フランスではどこにでもポテトフライがあるが、デンプン質の多いことからグリーンウォルドさんが気に入っている品種、マリスパイパーが入手できるかどうか心配だ。フランスでは秋には季節外れになる。英国ではこの品種は1年中手に入り、業者がそろえているじゃがいもの種類もフランスよりずっと多い。

 他のシェフたちも牛肉はどこだと聞いて回っている。フランスと米国では肉の切り方が違う。フレデリックさんは、ハンバーガーから手を広げ7月に「フレディーズデリ」を開店した時に問題になることがわかった。新メニューの要のパストラミはbrisket(牛肩バラ肉)から作るが、この塊がフランスには存在しないためだ。

 フレデリックさんはグーグル翻訳を使い、フランス語で最も近い言い方を見つけた。gros bout de poitrineだ。

 だが、フランスではひとかたまりが英国より長く厚いため、もうひと工夫をしている。

 チポトレのビッギンズさんはbrisketを探すのをやめ、一番近い肉を英国から輸入してブリトーに使うことにした。

 チポトレの広報担当者は、自社が欧州の「メニューとの一貫性をうまく維持してきた」と話す。

 英仏だけでなく仏英でも翻訳の問題は起きる。フランスの客はフレデリックさんのメニューにあるチーズステーキをチーズケーキと取り違えていた。このメニューは、クラフト・フーズが2年前にクリームチーズ「フィラデルフィア」をフランスで発売して以来、より主流になっている。

 春に開店した「ミル・アモレス・トルティレリア」では、フランス人客からトルティーヤとは何かと聞かれることが多い。メキシコからパリに来てこの店を開いたエリカ・ウングルさんは「メキシコのバゲットのようなもので、何にでも合わせて食べると説明している」と述べた。

 トルティーヤの材料であるトウモロコシはフランスで最もわかりづらい食べ物。最大のファンは牛や鶏だ。

 ウングルさんは自分が作った高いトルティーヤについて初心者が、飼い猫にやるべきかどうか聞いてくると話す。

 パリでウングルさんが見つけたトウモロコシは「人の消費用に作られていないため」食べられるようなものではなかったという。

 外国料理のレシピは、フランス産の食材があるかないかという問題と相まって、本場より上出来なこともある。グリーンウォルドさんは、魚を揚げるときに使う衣はフランスのビールと英国のエール(ビールの一種)を混ぜた物を使うといいと語る。今では魚はブルターニュ産がいいと思っている。

 グリーンウォルドさんは、もしこれがうまくいったら「ロンドンに戻ってフランス式フィッシュアンドチップスの店を開きたくなりそうだ」と述べた。