インフォメーション

2023-04-01 17:28:00

美食の今を反映、2023年「アジアのベストレストラン50」

  • twitter
  • facebook
  • LINE

No.2に選ばれた「セザン」シェフのダニエル・カルバート(中央)、スーシェフのアシュリー・ケイリー(右)

今のフードシーンを映すと言われる食のアワード、「アジアのベストレストラン50」。記念すべき10回目となった今回は、10年前の初回と同じ、シンガポールで表彰式が開催された。

コロナ禍を経て、2019年以来、4年ぶりのリアルイベント。会場となった総合リゾート、リゾート・ワールド・セントーサのボールルームには受賞シェフやメディア関係者など、約800人が集まった。 

「ベストレストラン50」は、レストランのリストもさることながら、毎年表彰式がシェフ同士の交流の場ともなり“ファミリー”と呼べるようなコミュニティを生み出していることも特徴だ。マスクの着用義務からも解放されたこの春、4年ぶりの再会を喜ぶ姿がそこここで見られた。 

アジアNo.2に東京のフレンチ

ベスト50のリストは、毎年50位からのカウントダウンで発表されるが、50位以内にランクインしたシェフには事前に赤いマフラーが渡されることから、2位の発表の時には自動的に1位が判明する形となっていた。それが今回、発表の方式が変更となり、順位を伏せた状態でトップ2つのレストランが舞台に招かれる形となった。 

トップ2としてそれぞれ壇上で紹介されたのは、東京のモダンフレンチ「セザン」とタイ・バンコクのモダンタイ料理「レドゥ」。 一度降壇したのち、再度ステージに上がり、No.1となったのは「レドゥ」だった。 



今回のリストは、より地域の個性が反映されたものとなった。「レドゥ」と「セザン」の共通点は、フランス料理の技法をベースに、地元の食材の素晴らしさを引き出している点だろう。コロナ禍で航空便が減便されたことなどにより、海外からの食材の入手が難しかった時期などを経て、いずれも一層地域食材への関心や追求が深まっているようだ。

「レドゥ」は、タイ語で「季節」を表し、100%タイ産の食材を使う。オーナーシェフのトン・ティティッ・タッサナーカジョン氏はニューヨークのフランス料理店、イレブン・マディソン・パークなどで修業を重ねたのち、10年前に店をオープンした。

当時は「質の低い地元の食材だけを使った高級料理店など、半年でつぶれてしまう」と言われ、タッサナーカジョン氏自身も、「どんなに良い品も一括りで、一律の値段で取引されていたこともあり、生産者の意識も低かった」と振り返る。それを、生産者との直接取引したり、品質向上のためのフィードバックを行ったりすることで生産者のモチベーションを上げ、タイ料理を、フランス料理などと並ぶ高級料理にするべく奮闘してきた。

タッサナーカジョン氏はレドゥのほかにも、複数のレストランを持つ。「多様な視点からタイ料理を昇華させたい」と、伝統的なタイ料理を供する「ヌサラ」も今回3位にランクイン
アジア2位、日本No.1となった「セザン」は、イギリス人シェフダニエル・カルバート氏が率いるモダンフレンチ。カルバート氏は、ニューヨークの三つ星「パ・セ」で最年少スーシェフとなったのち、パリの三つ星「エピキュール」などで研鑽を積んだ経験を持つ。

「セザン」では、ソースの作り方などにはクラッシックな技法を使いながらも、日本料理の技法も学び、フランス料理で培った緻密な構成力に、日本のカウンター会席のような出来立ての瞬間の温度感や食感、香りを生かすなどして、日本食材の新たな面を引き出す料理を提供している。

オープンからわずか1年半という短さでありながら、2022年にミシュラン2つ星、2023年のゴエ・ミヨでも「明日のグランシェフ」に選ばれるなど、注目を集めている。 

「職人技と言いたいほどに、手間ひまかけて生み出された日本の食材の魅力にひかれて、いつか絶対に日本に住みたいと思ってきました。日本一という結果は予想以上のもので『自分達が日本一のレストランだ』と真顔で言うことはできませんが、多くの方々に楽しんでいただけていることをとても嬉しく思います。チーム全員のハードワーク、ゲストの皆様のサポートに心から感謝しています」とカルバート氏。

緻密な手仕事を厭わず「手間のかかる仕事をするのがプロの料理人」という生真面目な性格を裏付けるように、「厨房に戻って、来てくださった方々を幸せにし続けること、それを楽しみにしています」という言葉を残し、翌日のランチの仕事に間に合うよう、アワード直後に深夜便で帰国した。

【関連】 NY三つ星店の最年少スーシェフが、再びアシスタント職を選んだ理由

増えゆく“美食の旅先”

50位以内には、新規リスト入りした店が7軒。再エントリーを果たした店が8軒で、合計で19都市のレストランがランクインした。

30位の「アヴァルタナ」(インド・チェンナイ)、40位の「アナン・サイゴン」(ベトナム・ホーチミン)、48位の「メティズ」(フィリピン・マカティ)、注目のレストランであるワントゥーウォッチ賞に「オーガスト」(インドネシア・ジャカルタ)など、これまで美食の旅先としてあまり考えられてこなかった国や都市が入っているのも興味深い。 
日本からは10軒。10位以内にはセザンを含めて5軒で、日本の家庭料理のような温かさを伝える「傳」(東京)が4位。モダンフレンチの「フロリレージュ」(東京)が7位で、オーナーシェフの川手寛康氏は、シェフが選ぶシェフ賞である「シェフズ・チョイス賞」も同時受賞した。自由な発想で五感を刺激する料理をつくる「ラ・シーム」(大阪)が8位、里山の知恵を伝える料理を提供する「ナリサワ」(東京)が10位。



このほか、12位に「茶禅華」(東京)、14位に「ヴィラ・アイーダ」(和歌山)、20位に「オード」(東京)、32位に「チェンチ」(京都)、44位に「レフェルヴェソンス」(東京)が入っている。 レフェルヴェソンスの生江史伸シェフは、ガストロミー業界に貢献し、ポジティブな変化をもたらすシェフに与えられる「アイコン賞」も受賞した。

【関連】すべては「人を敬う」ことから 三つ星シェフが生む良い循環

また、表彰式に先立って発表された50位〜100位のランキングには、日本から以下のレストランがランクインしてる。

60位「L'évo(レヴォ)」(富山)
67位「Esquisse(エスキス)」(東京)
80位「The Pizza Bar on 38th(ピッツァバー on 38th)」(東京)
91位「Hommage(オマージュ)」(東京)

日本評議委員長を務める中村孝則氏は、次のように総括した。

「日本は実質的に10月に国境が開き、投票の締め切りまでわずか2カ月ほどしか期間がなかった中、ベスト50に最多の10軒がランクイン。なかでもトップ10の半数が日本の店というのは、日本の底力を表している。シェフの創造力、技術力と食材の質の高さのみならず、治安や衛生の面で日本が安全であることも、旅先として選ばれる魅力だと思う。

また、コロナ禍で海外渡航ができない中、ローカルガストロノミーの流れが生まれたことで、どの地域に行っても最先端の美食が楽しめる多様性が生まれた。日本は東京のみならず、地方からも3軒がランクインしていることもそれを表している」
2023年度「アジアのベストレストラン50」、上位50軒のリストは以下の通り。

1. Le Du|タイ・バンコク
2. Sézanne|日本・東京
3. Nusara|タイ・バンコク
4. Den|日本・東京
5. Gaggan Anand|タイ・バンコク
6. Odette|シンガポール
7. Florilège|日本・東京
8. La Cime|日本・大阪
9. Sorn|タイ・バンコク
10. Narisawa|日本・東京

11. Labyrinth|シンガポール
12. Sazenka|日本・東京
13. The Chairman|香港
14. Villa Aida|日本・和歌山
15. Mosu|韓国・ソウル
16. Masque|インド・ムンバイ
17. Meta|シンガポール
18. Fu He Hui|中国・上海
19. Indian Accent|インド・ニューデリー
20. Ode|日本・東京

21. Zén|シンガポール
22. Sühring|タイ・バンコク
23. Onjium|韓国・ソウル
24. Burnt Ends|シンガポール
25. Euphoria|シンガポール
26. Cloudstreet|シンガポール
27. Les Amis|シンガポール
28. Mingles|韓国・ソウル
29. Neighborhood|香港
30. Avartana|インド・チェンナイ

31. Ensue|中国・深セン
32. Cenci|日本・京都
33. Ms. Maria & Mr. Singh|タイ・バンコク
34. Da Vittorio|中国・上海
35. Potong|タイ・バンコク
36. Born|シンガポール
37. Wing|香港
38. Raan Jay Fai|タイ・バンコク
39. Wing Lei Palace|マカオ
40. Anan Saigon|ベトナム・ホーチミン

41. Mono|香港
42. Toyo Eatery|フィリピン・マニラ
43. Sichuan Moon|マカオ
44. L'Effervescence|日本・東京
45. Mume|台湾・台北
46. Baan Tepa|タイ・バンコク
47. Born & Bred|韓国・ソウル
48. Metiz|フィリピン・マカティ
49. Caprice|香港
50. Refer|中国・北京
美食の今を反映、2023年「アジアのベストレストラン50」 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)