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2022-07-09 18:21:00

14億の大市場、商機をつかめ 日系食品、コロナに挑む(3)

日系食品メーカーが“アフターコロナ”を見据えた中国での取り組みに力を入れている。食事に彩を添える「ふりかけ」、命をつなぐ「非常食」、健康寿命を助ける「乳酸菌飲料」――。日本の持つ技術力を生かし、各社が14億人の大市場に挑む。厳格な「ゼロコロナ」政策が続き、市場環境の厳しさは増すが、「リスクはあるがチャンスはある」とみる企業は多い。【畠沢優子】

赤しそのふりかけ「ゆかり」で知られる三島食品(広島市)の中国事業拠点である大連三島食品(遼寧省大連市)の設立は1990年。進出当初は、100%日本向けの輸出工場として総菜などを生産していたが、近年は中国市場の開拓を本格化している。

ゆかりをはじめとするふりかけが同社の看板商品だが、中国人の口に赤しその酸味を受け入れてもらうのはハードルが高い。そこで、中国市場に合わせたスープや、ドレッシングなど業務用液体調味料の生産を行うことで中国事業を拡大してきた。現在では大連三島食品の売上高の7割を中国市場が占める。

同社で華南エリアの営業を管轄する泉大誠氏によると、直近で売れ筋なのは、スープやドレッシングなどの小袋商品(1食用)だ。新型コロナウイルス禍で、中国では手軽に作れて高級感のある箱ラーメンがブームとなった。火付け役となったブランドに三島食品の豚骨スープが使われていたことから、小袋商品向けラーメンスープの需要が一気に増えた。顧客である飲食店でも、テイクアウトを意識した商品を考える店が多くなった。そうした需要の変化に合わせ、各店の求める調味料をカスタマイズして作るプライベートブランド(PB)商品の引き合いも増えているという。

■子ども市場に入り込む

一方、三島食品は中国でふりかけ市場の開拓も進めている。

泉氏は、「中国でふりかけを扱っている日系食品メーカーは三島だけ。当社にはふりかけのノウハウがある」と力を込める。

「中国でふりかけを扱っている日系食品メーカーは三島だけ」と、同社は中華圏での市場開拓を進めている(大連三島食品提供)

「中国でふりかけを扱っている日系食品メーカーは三島だけ」と、同社は中華圏での市場開拓を進めている(大連三島食品提供)

泉氏によると、白いご飯にかけるだけがふりかけではない。牛肉の揚げ物にかけたり、スイーツにかけたりと、日本人の概念にはないふりかけメニューが中華圏では生まれている。中華料理のファストフード店「真功夫」で、期間限定料理に三島のふりかけが使われたこともある。中華料理とふりかけのコラボは無限大だとみている。

直近では、中国地場の子ども向け食品ブランドからも引き合いがあった。子ども向けに減塩のサーモンふりかけを供給しているという。

泉氏は、「小さい時からふりかけを食べ慣れてもらうことは、三島にとってメリット。10年後、20年後の市場拡大につながる。中国の現地の人に食べてもらえるふりかけ市場を開拓したい」と意気込む。

■ロックダウンで必要性痛感

2カ月にわたる上海市のロックダウン(都市封鎖)を受け、非常事態に命をつなぐ「非常食」の開発に着手した企業もある。

大連天賜食品は日本本社の技術を活用して、中国で非常食の開発に着手。写真は日本本社が手掛けている保存食品(同社提供)

大連天賜食品は日本本社の技術を活用して、中国で非常食の開発に着手。写真は日本本社が手掛けている保存食品(同社提供)

松田食品工業(大阪市)の中国子会社で、油揚げや冷凍・チルド麺、各種総菜などを手掛ける大連天賜食品(遼寧省大連市)の原裕之総経理は、邦人の多い上海が封鎖された状況をみて、「今後もどのような想定外の状況が発生するか分からない。水道や電気のインフラが止まっても、封を開けたらすぐに食べられる加工食品作りが必要であり、消費者の安心と安全を担保するのがわれわれ企業の使命だ」と力を込める。

同社の日本本社が手掛けている技術を活用して、中国での開発を進めているという。日本は非常食の先進国。天賜食品の日本本社でも委託されてレトルトなどの非常食を生産している。中国でもロックダウンや災害に備え、需要があるのではないかと原氏はみている。

原氏は、「中国の投資環境は厳しくなっているが、まだ伸びしろはある。ただ、今後も企業活動を続け、さらに発展させていくためには時代変化を感じ、対応していくことが必要」と強調。ポストコロナを見据え、「社会や地域に貢献できるモノづくりを目指したい」と、新たな商品開発に熱意を傾ける。

■「健腸長寿」に貢献

新型コロナ禍などを受けた健康意識の高まりを追い風に、中国市場の開拓を狙う企業もある。

乳酸菌飲料「ヤクルト」を手掛けるヤクルトの中国法人、広州益力多乳品(広州ヤクルト)は初の中国法人として02年に広東省広州市に設立。今年、設立20周年を迎えた。中国本土での昨年のヤクルト販売本数は1日平均698万7,000本。ヤクルトグループの国際事業の中では、日本、インドネシアに次ぐ規模だ。

「健腸長寿(腸を丈夫にすることが健康で長生きにつながる)」を願って作られた「ヤクルト」の商品価値を伝えるため、中国では進出当初から、商品と消費者をつなぐ「ヤクルトレディ」の育成に注力。中国のヤクルトレディは22年3月末時点で2,663人となった。ただ、日本の数(約3万3,000人)からみても、まだ伸びる余地は大きい。

中国では商品と消費者をつなぐヤクルトレディが活躍している(広州ヤクルト提供)

中国では商品と消費者をつなぐヤクルトレディが活躍している(広州ヤクルト提供)

 

同社では工場見学のほか、幼稚園から大学生、大人まで各層に向けた商品の情報発信に力を入れている。新型コロナ禍で、ネットを活用した情報発信にも取り組む。今後もインフルエンサーやライブ中継型のインターネット通販「ライブコマース」など交流サイト(SNS)を使った発信をさらに拡大していく方針だ。

広州ヤクルトの董事長兼総経理を務める梅原紀幸氏は、「中国にはリスクはあるがチャンスもある。14億人の市場は魅力的。乳酸菌飲料のリーディングカンパニーとして、中国の人々の健康で楽しい生活づくりに貢献したい」と抱負を語った。

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