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2022-02-19 15:02:00

ENEOSが「モス」や「サイゼ」を自動配送 1万3000カ所の給油所活用で目指す姿とは自動走行ロボットの輸送インフラを構築

2022年02月15日 06時00分 公開
[太田祐一ITmedia]

 ENEOSホールディングス(以下、ENEOS)、ZMP、エニキャリは2月1日、自動宅配ロボットを活用したデリバリーの実証実験を、東京都中央区佃・月島・勝どきエリアで開始した。今回は2021年2月に実施した技術実証に続く第2弾。前回よりも配達エリア、参加企業を拡大し、事業採算性の検証を目的として行っている。

ロボットZMPが提供する自動宅配ロボット「DeliRo(デリロ)」

 第1弾の設置場所は「Dr.Drive月島SS」のみで自動宅配ロボットは1台。参加店舗は11店舗で、配達先は今回の5分の1となる約1000戸だった。近接監視による運行で、主に技術性の検証を主眼に行われた。(関連記事

 今回の実証実験ではZMPが提供する自動宅配ロボット「DeliRo(デリロ)」を2台活用。佃・月島・勝どきエリア(半径1キロ程度)を遠隔監視による運行を行い、デリバリー事業の採算性を検証する。

 ロボットを配備するのは、当該エリア内の東新エナジーが運営する「Dr.Drive月島SS」と、乾汽船が運営するシェア型企業寮「月島荘」の2カ所。エリア内の配送可能マンションは約5000戸で、参加店舗はサイゼリヤ、ダイエー、モスバーガーなどを含む27店舗に拡大した。

ロボット参加企業の一部(出所:プレスリリース)

 専用アプリから注文すると、ロボットが店舗から商品をピックアップし、注文者が居住するマンションのエントランス付近まで宅配する。配送料は330円。基本的な営業時間は午前11時~午後8時だが、2月18日のみ試験的に深夜配送も実施する予定。参加店舗のうち、ダイエー 月島店と松屋 勝どき店の2店舗が24時間営業で、それらの店舗において深夜帯での稼働率を検証する。

 宅配システムには、エニキャリの注文・宅配プラットフォームを使用し、ENEOSはデリロの保有・補完・運用、注文・宅配プラットフォームの運営を担う。

利用者95%が「引き続き利用したい」と回答

 すでに2月1~3日の3日間の実証実験結果はでており、注文数は96件だった。弁当を中心とした食材・日用品の注文が多く、チェーン店ではなく地元商店の注文が半数近くにのぼった。

 利用者からは「ロボットに会えた」「非接触で受け取れた」という点が評価され、ほかにも「人間による配達では配達員に当たりはずれがあるが、ロボットは品質が安定している。また、雨天時においては人間に頼むのは申し訳ないという気持ちが生じていたが、ロボットだと悪天候でも心理的に頼みやすい」という回答もあった。

ロボット利用方法

 また、利用者のうち95%は「引き続き利用したい」と回答。取り扱いを希望する店舗にはベーカリー、ドラッグストアなどが多く挙がった。

 一方、課題としては「マンションの下まで取りに行くのが面倒だった」という意見があった。この回答を受け、エニキャリ業務推進本部の境潤也氏は「今後はエレベーター会社と連携することで、部屋の玄関先まで届けられるような対応ができるようになるとさらにスケールすると思う」と考えを示した。

ロボット

国内約1万3000カ所あるSSをロボットの充電・運用拠点として活用

 今回の事業を行う背景について、ENEOS未来事業推進部 事業推進3グループの片山裕太氏は「コロナ禍の影響でECサイトによる宅配が増加し、ラストワンマイルデリバリー市場の需要が急拡大している」ことに触れ、「物流クライシスとなっている物流業界を持続可能なものにするために、何か価値提供ができないかと考えた」と語る。

 ここで「どうしてENEOSが自動宅配ロボット事業?」と考える読者が多いと思うが、片山氏の所属するのは未来事業推進部。19年4月に発足した部署で、「2040年に柱となる事業を創出すること」をミッションに掲げている。本実証実験もその取り組みの一つという位置付けだ。

ロボットサービスステーションを拠点に自動走行ロボットの輸送インフラを構築(出所:プレスリリース)

 それでは、ENEOSはこの事業で何を目指しているのか。片山氏は「全国にある当社のサービスステーション(SS)を、ロボットの充電・運用・メンテナンス拠点として活用し、自動走行ロボットの輸送インフラを構築すること」だという。

 将来的には、国内約1万3000カ所ある同社のSSを活用し、自動宅配ロボットだけでなくドローンや自転車などを配備。商品・距離・時間に応じた最適な配送手段を活用し、新たなラストワンマイル配送の拠点にすることを目指す。

ロボット国内約1万3000カ所ある同社のSSを活用(画像提供:ゲッティイメージズ)

 ビジネスモデルについて片山氏は、「お客さまのニーズに合わせて最適なサービスを提供できるロボットデリバリーソリューションを構築したい」と展望を語る。

 具体的なサービスとして、参加したい店舗の注文サイトへの出店、すでにデリバリーを行っており宅配ロボットを導入したい店舗には、デリバリーインフラの提供などを考えている。

 また、片山氏は「ディベロッパーが特定エリアでロボットを活用したいというニーズがあると聞いている。そういった場合は、ロボット、顧客UI、配送アルゴリズムをOEMという形で提供することも考えている」と話す。これらを収益源にして新たな事業を創出したい考えだ。

 「今後全国展開し、誰が、いつ、何を買ったか、店舗にどんな在庫があるかなどのデータが蓄積できれば、そういったデータを活用した新たなビジネスも可能になっていくのでは」と片山氏。

 一方、片山氏は今後の課題として挙げるのが「法規制とビジネス面」だ。

課題は法規制とビジネス面

 「自動宅配ロボットの法制度は、これから整備されていくような状況。公道を縦横無尽に走り回るまでにはかなりのハードルがある。そのため、実証実験を通して実績を積み上げていき、規制改革を訴えていきたい。法規制が緩和されるまでは、走行可能なエリアやサービスにフォーカスして進めていく」(片山氏)。

 加えて、ZMPロボライフ事業部の池田慈氏は「法規制がたとえ緩和できて自動宅配ロボットが公道を走れるようになったとしても、その光景を住民が受け入れられるのかという課題がある。そうした社会受容性を高めていく取り組みは、ロボットメーカーとしてもやっていきたい」と話した。

ロボット公道を走るデリロ

 ビジネス面について片山氏は、「ロボットが一般的な普及価格になっていないので、稼働率を高めながら、さまざまなサービスを1台で賄えるようなサービス設計を見つけていく必要がある。実証実験では配送料のみで運営するが、実際にプラットフォームビジネスとして行っていく段階では、店舗側から手数料をいただくと思う」と話す。

 また、中山間地域に住む高齢者のなかには、近くに店舗が存在せず、交通手段もないことから買い物難民になっている人が数多く存在する。宅配サービスはそうした課題を解決する一助になることも期待されている。

 片山氏は「買い物難民を救う面では、本事業も有意義なサービスになると思う。しかし、住人が少ないので稼働率は非常に少ないことが予測される。今回のモデルをそのまま適用しても、ビジネスモデルをうまく構築できないのではないか。例えば、高齢者の見守り機能といった別の付加価値をつけて展開する必要がある」と言及した。

ロボット商品を積み込む様子

 同実証実験は2月28日まで実施する予定。実証期間中に検証した稼働率(注文数)を参考に、事業化フェーズに移行するかどうかを今年度中に判断。定常サービスへの移行は次年度を予定している。

 世界中で、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「脱炭素化」の流れが加速し、電気自動車需要の拡大が続いている。全国1万3000カ所のネットワークを活用し、「脱石油」に向け新たな事業を展開できるか。石油元売り大手ENEOSの今後の動きに注目だ。

著者プロフィール

太田祐一(おおた ゆういち/ライター、記者)

 

1988年生まれ。日本大学芸術学部放送学科で脚本を学んだ後、住宅業界の新聞社に入社。全国の工務店や木材・林業分野を担当し取材・記事執筆を行った。

その後、金属業界の新聞社に転職し、銅スクラップや廃プラリサイクルなどを担当。

2020年5月にフリーランスのライター・記者として独立。現在は、さまざまな媒体で取材・記事執筆を行っている。Twitter:@oota0329

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