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2021-08-13 17:55:00

有機農業転換へ補助金  農水省、脱炭素支援

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農業の脱炭素は世界的な課題となっている

農林水産省は化学肥料や農薬を使わない有機農業への転換を促すため、担い手に補助金を出す新たな制度を設ける。新法の制定も検討する。欧米は脱炭素や食料安全保障の確立に向けて環境配慮型農業への大型支援策を打ち出しており、日本も将来の競争に備える。

日本では農薬や化学農法を使う「慣行農業」が一般的だ。一部の化学肥料は製造時に化石燃料を使っており、二酸化炭素(CO2)を排出する。畑などに散布した化学肥料により、農耕地からは一酸化二窒素(N2O)が発生する。N2Oは削減が難しいとされる温暖化ガスで、温暖化への影響度がCO2のおよそ300倍という。

有機農業への転換を促し、農業の脱炭素化を進める。例えば堆肥を活用して化学肥料の使用量を減らせば、脱炭素につなげられる。

2022年度予算の概算要求に制度の新設を盛り込む。金額規模は今後詰める。脱炭素と環境負荷の低減を要件とし、有機農業への転換に必要な資材購入や設備導入などにかかる費用を補助する。同時に農業の大規模化や効率化も進める狙いで、国が認定する仕組みを整備する。

農水省は今回の枠組みを複数年度にまたがる中長期的な戦略と位置づけ、新法の制定も検討する。有機農業への移行にあたり、農業の担い手が投資や経営戦略を立てやすいように環境を整える。

問題はコストだ。農薬や化学肥料を使う「慣行農業」に比べて、有機農業は除草や害虫駆除の手間がかかる。農作物の生育スピードは遅く収穫量も減少しがちで、コストが5割近く高いとされる。

それでも政府が転換を急ぐ背景には、脱炭素や環境配慮に対する世界的な意識の高まりがある。世界で排出される温暖化ガスのおよそ4分の1は農業分野によるもので、厳しい目が向けられている。

欧米は脱炭素化に向けた大型の支援策をいち早く打ち出した。

欧州連合(EU)は30年までに有機農業の面積割合を25%に増やす目標を掲げ、環境配慮型農業を目指す農家の所得支援に3870億ユーロ(約50兆円)の予算を充てるとした。米国のバイデン政権も気候変動に配慮した取り組みをする農家に対し給付金を出すといった支援策を講じる方針を示している。

日本は農水省が5月に策定した農業の脱炭素化に向けた「みどりの食料システム戦略」で、有機農業農地の割合を50年までに25%に増やす目標を掲げた。国内の農業の大半は慣行農業で、現状は有機農業が農地に占める割合は1%未満にとどまる。今回の補助金などの施策と合わせて転換を急ぐ。

今後は農作物の調達や輸出時に、作物の育成時の環境対応の有無や内容が問われる可能性がある。環境に配慮した作物という付加価値で輸出拡大も狙う。

コストはかかるが、健康志向や環境問題への関心の高まりとともに有機食品は消費者の支持も得られるようになってきた。欧米系調査会社ビジネス・リサーチ・カンパニーによると、世界の有機食品の市場規模は2025年に3808億ドル(約42兆円)と20年の約9割増に拡大するという。

有機農業転換へ補助金  農水省、脱炭素支援: 日本経済新聞 (nikkei.com)