ポップマートの「盲盒(ブラインドボックス)」を購入、順番待ちする若い女性たち。ATMの利用者はいない。

 中国人が財布を持ち歩かなくなって久しいが、新型コロナウイルス禍を経てキャッシュレス化はさらに加速している。中国人民銀行の統計によると、2020年のモバイル決済額は前年比24.5%伸びた。コロナの影響を大きく受けた個人消費が前年比3.9%減と落ち込む中でのモバイル決済額の大幅増は、中国社会におけるキャッシュレス比率が高まっていることを強く示唆している。

 現金に触れることによる新型コロナウイルス感染を意識したことでキャッシュレス化が加速したのかどうかは不明だ。しかし、コロナ前のマクドナルドでは、店内に設置された大型タッチパネルを使って注文するのが当たり前だったが、最近行った店舗では撤去されており、カウンターのスタッフからはスマートフォンでの注文、決済を勧められた。コロナの影響で、衛生意識が高まっているのは間違いないようだ。

 私の生活からも現金は消えた。2週間の隔離生活を経て北京に戻ったのが今年の1月1日。この間、日常の買い物や移動に加え、ビザの更新で訪れた政府機関でも全てキャッシュレス決済で対応した。この半年弱で唯一現金を使ったのが、日本大使館領事部でパスポートを更新した時の支払いだけだった。

激変する銀行店舗

 モバイル決済の普及により、大きく変わったのが銀行だろう。店舗で現金を引き出す必要があまりなくなり、インターネットバンキングが広く普及したおかげで、以前は人でごった返していた銀行窓口が今では閑散としている。

 今年5月、パスポートの更新に伴い、銀行口座に登録されている身分証番号の変更手続きのために久しぶりに銀行を訪れて驚いた。前回更新した11年ごろは、1時間近くロビーで待たされることも日常茶飯事だったが、今回訪れた2店舗共に、順番待ちの人が一人もおらず、整理券を取るまでもなく直接窓口に案内された。窓口業務も減り、担当者に余裕ができたためか、対応の一つひとつがとても丁寧で、10年前とは比べものにならないほどサービスの質も上がっていた。

 銀行に併設されているATMを利用している人はほとんどいない。私が勤務する対外経済貿易大学の構内にもATMは設置されているが、使っている人はめっきりみかけなくなった。

 実際に、キャッシュカードによる出金額、ATMの設置台数は激減している。中国人民銀行の統計によると、近年右肩下がりを続けてきたキャッシュカードによる年間出金額は、20年には減少速度が一段と高まり、前年比23.2%減の39.7兆元となった。74.4兆元を記録した14年のピーク時から半減している。ATMの設置台数は、18年から減少し始め、20年は1年間で約8万4300台(-7.6%)が街から姿を消した。

ATM設置台数とキャッシュカード出金額の推移
(出所)中国人民銀行の資料を基に筆者作成
[画像のクリックで拡大表示]
続きを読む 2/2自動販売機でニュービジネス