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2017-08-24 11:11:00
Vol.1582017年8月15日
 
日本と世界の食料安全保障のために - 国連食糧農業機関(FAO)との関係強化
 

国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations:FAO)は,食料・農業分野における国連の筆頭専門機関です。日本は,アメリカに次いで世界第2位のFAO分担金拠出国であり,理事国としてFAOの活動や組織運営に積極的に貢献しています。FAOとはどのような国際機関なのか,その具体的な活動や,日本が加盟する意義について紹介します。

 

「食料安全保障」とは?

私たちが毎日口にしている「食料」は,人間の生命を維持するために欠かすことができないものであり,健康で充実した生活を送るための基礎として重要なものです。「食料安全保障」とは,十分で安全かつ栄養ある食料に「誰でも」「どんなときにも」「アクセスできる(入手・購入できる)」ことを指します。しかしながら,2014年から2016年において,未だに世界では約7億9千3百万人,実に9人に1人が慢性的な栄養不良に苦しんでいます(FAO報告による)。2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の持続可能な開発目標(SDGs)においても,「2030年までに飢餓と栄養不良を終わらせる」という目標が掲げられ,国際社会が一丸となって,世界の食料安全保障の強化に取り組むことが確認されました。食料安全保障は,今まさに世界が共通して抱える課題なのです。

 
 
 
 

世界の状況(1)- 増加する人口と食料需要

世界の食料供給に影響を与える要因は様々あります。世界の人口は,2050年には約97億人となり,特に南アジア,サブサハラ・アフリカなどの開発途上地域を中心に,大幅に増加することが予想されています。それに伴い世界の穀物消費量も増加。一人当たりの肉類消費量が増加し,飼育用の穀物消費量も食用を上回るペースで増加すると予想されています。また新興国では,経済発展による国民の所得水準の向上に伴い,食生活が変化し,畜産物や油脂類の消費が増えることによって,飼料作物や油糧種子(大豆,なたね等)の需要増加が見込まれています。さらに,エネルギー需要の増加や気候変動対策に伴いバイオ燃料用の需要が増加するなど,世界全体として,食料需要はますます増えていく傾向にあります。

世界の食料情勢
 
 
 
 

世界の状況(2)-食料需給と価格の不安定さの拡大

世界の穀物生産量は,これまで単収(土地の面積あたりの収穫量)の向上により支えられ増加してきましたが,単収の伸び率は近年鈍化しており,さらに今後の食料需要拡大に伴い,食料需給は中長期的にはひっ迫することが予想されています。また,穀物等の国際価格は,干ばつ等の大規模自然災害等の影響を受け,時には大きく変動することもあります。さらに食料を輸出する余力のある国が限定的であるという状況に加え,農産品の金融商品化や,気候変動に伴う異常気象の増加,紛争の影響による移民や難民の発生等,様々な要因が相互に影響しあって,世界の食料需給と価格は絶えず不安定な状況にあるのです。

わかる!国際情勢Vol.2 食料価格高騰~世界の食料安全保障~

穀物等の国際価格の動向
 
 
 
 

日本の状況 -海外依存度の高い食料供給

日本は,食料供給のうち,カロリーベースで6割,生産額ベースで3割を海外に依存しています。輸入動向と輸出動向を詳しく見てみると,世界の人口に占める日本の人口シェアが2015年で1.7%であるのに対し,世界の農産物輸入に占めるシェア(金額ベース)では世界第6位,4.3%もの割合を占めているのです。代表的な品目では,とうもろこしは世界第1位(14.7%),肉類は第2位(8.4%),小麦は第4位(5.9%),大豆は第3位(3.4%)に上り,日本は世界でも屈指の農産物純輸入国(輸入額が輸出額を上回っている国)となっています。輸入額とともに輸出額も多いアメリカやEU諸国と比べると,圧倒的に輸入に偏っている日本の輸出入バランスは,他の国とは異なる構造になっていると言えます。また農地の減少や農業人口の高齢化など,国内の生産拡大に向けた課題も多く残されています。

世界人口及び世界農産物輸入額割合(2015年)
農産物輸入額上位10ヵ国の農産物輸入額・輸出額・純輸入額(2015年)
 
 
 
 

日本と世界の食料安全保障

このように,食料の多くを輸入に依存する日本では,食料の安定的な供給を確保する上で,国内の農業生産の増大を図ることを基本としつつも,様々な外交的取組を通じて,世界全体の食料生産を促進し,安定的な農産物市場や貿易システムを形成していく必要があります。つまり,世界の食料安全保障を強化することが,日本の食料安全保障の確保にもつながるのです。また,食料分野のSDGsの達成に向けて貢献することは,日本を含む国際社会全体の責務でもあります。

日本の食料安全保障のための外交的取組
 
 
 
 

FAOの概要

国連食糧農業機関(FAO)のロゴマーク(FAOのラテン語のモットー“Fiat panis”(英語で“Let there be bread”)は,「そこにパン(=食料)あれ」の意)。世界の食料安全保障の強化において,重要な役割を担っているのが,国連食糧農業機関(FAO)です。FAOは,1945年,国連憲章の発効(10月24日)に先んじて10月16日に設立された,食料・農林水産分野での国連の筆頭専門機関です。現在194か国およびEU(欧州連合)が加盟しており,事務局はイタリアのローマにある本部をはじめ,世界中に地域事務所等を持ち,日本(横浜市)にはFAO駐日連絡事務所が設置されています。ちなみにFAO設立日の10月16日は,世界の食料問題について考えるため国連が制定した世界共通の日,「世界食料デー」となっています。FAOは,世界経済の発展と人類の飢餓からの解放という目標に向けて,(1)世界各国国民の栄養水準・生活水準の向上,(2)食料・農林水産物の生産・流通の改善,(3)農村住民の生活条件の改善等の施策を講じています。具体的には,国際基準や規範の策定・実施,情報収集・伝達・分析と統計資料の作成,政策提言,中立的で国際的な協議の場の提供,開発途上国に対する技術助言・協力等を行うことで,世界の農林水産業の発展と農村開発に取り組んでいます。

 
 
 
 

FAOに加盟する意義

日本がFAOに加盟することには多くの意義があります。 

【FAOを通じた国際貢献】
FAOは,先に述べたような食料・農林水産分野における幅広い活動を通じて世界の食料安全保障の強化に貢献しており,SDGs,特に「2030年までに飢餓と栄養不良を終わらせる」という目標の達成に向けて主導的な役割を担う機関です。日本は国際社会の責任ある一員として,FAOを通じた国際貢献に取り組んでいます。 

【世界の持続可能な食料増産】
世界の食料需要の増加に伴い食料生産を持続可能な形で増大する必要があり,そのための投資が不可欠となっています。日本は,農業投資の分野において,2007-08年の食料価格高騰の際に起こった「農地争奪」のような問題に対処するため,投資受入国の人々や環境に対する負の影響を緩和するべく,投資受入国政府,現地の人々(小規模農家等),投資家という3者の利益の調和と最大化を目指す「責任ある農業投資」というコンセプトを提唱しました。そして,FAO等の国際機関と連携し,このコンセプトの規範化を推進した結果,2014年10月,FAO,国際農業開発基金(IFAD)及び国連世界食糧計画(WFP)が共同で運営する世界食料安全保障委員会(CFS)において,「農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則」という国際的な規範が採択されました。世界の持続可能な食料増産は,日本の食料安全保障にとっても大変重要なことです。日本はこの原則の策定,そして今後の実施と普及に向けてFAO等を通じて貢献しています。

【日本国内への波及効果】
FAOの活動は日本へ直接的な効果ももたらしています。例えば,ルールに基づく貿易を行う上で重要な国際基準の策定・実施において,FAOが事務局を務める「国際植物防疫条約(IPPC)」の下で策定される「植物検疫措置に関する国際基準(ISPM)」は,日本国内の農業を海外から侵入する病害虫から守るだけでなく,日本の農産物輸出促進に貢献するものと言えます。また「FAO/WHO合同食品規格委員会(コーデックス委員会)」での国際食品規格(コーデックス規格)の策定は,食品の公正な貿易の確保と,日本国内で流通する食品の安全管理に貢献しています。さらに,FAOのオンライン統計データベース「FAOSTAT」は,食料・農林水産業に関する包括的かつ信頼性の高いデータを提供し,研究,教育,政策など様々な分野で活用されています。加えて,FAOは,伝統的な農林水産業とそれに関わって育まれた文化,景観,生物多様性などが一体となった世界的に重要な農林水産業システムを「世界農業遺産」として認定しており,日本でも8地域が認定され,地域の持続可能な農林水産業と農村の活性化に寄与しています。 

わかる!国際情勢 Vol.44 農地争奪と食料安全保障

 
 
 
 

日本の貢献

FAO加盟国には,FAOの主要な活動を支えるためにそれぞれ分担金が割り当てられており,日本はアメリカに次いで世界第2位の分担金拠出国(2016-17年は年間約60億円)となっています。さらに,分担金以外にもFAOとの連携により,様々な活動を支援しています。例えば,日本は2010年以降,アフガニスタンにおいてFAOが実施する農業分野の事業に対し1億ドル以上を拠出。特に干ばつの起こりやすい同国において重要な,かんがい施設の整備や,同国の重要産業である畜産業に影響を及ぼす口蹄疫など家畜の病疫対策への拠出を通じ,同国の食料生産を支援しています。また,台風などの自然災害により,人々の生活を支える農業が甚大な被害を受けた国や地域においてFAOが実施する緊急支援にも,日本は積極的に協力しています。2013年11月に発生した台風「ハイヤン」の被害対応では,フィリピンのココナッツ生産者の生活再建支援のため総額300万ドルを拠出。被害を受けた6千人のココナッツ生産者に,野菜の種子と家禽(かきん)を提供しました。さらに,日本は,FAOとの連携により,アフリカにおける食料安全保障情報整備,アジアにおけるフードバリューチェーンの構築,世界農業遺産活動なども支援しています。

かんがいのために川から水を取り入れる取水工(アフガニスタン,バーミヤン州フォラディ渓谷)(左:©FAO/H.Farhadi)と,台風被害を受けたココナッツ農園(フィリピン,パナイタン)(右:
©FAO/A.Aduna)
 
 
 
 

日・FAO関係の強化

世界そして日本の食料安全保障を確保するため,日本はFAOとの連携関係の強化に取り組んでいます。

【日・FAO年次戦略協議】
2017年1月には,ローマのFAO本部にて,第1回となる日・FAO年次戦略協議 が開催されました。日本とFAOは,包括的な議論を実施し,FAOにおける日本人職員の増強に向けた協力を含めて,両者の戦略的パートナーシップをさらに前進させることの重要性を再確認しました。この戦略協議は今後毎年開催されることとなっています。

【グラツィアーノFAO事務局長の訪日】
続いて,5月にはグラツィアーノFAO事務局長が4年ぶりに訪日し,政府要人と面会するとともに,各種行事に出席し,日・FAO関係の強化につながりました。グラツィアーノ事務局長は,大学での講演等を通じて,FAOの活動とその重要性について,FAOでの勤務に関心のある学生をはじめとした日本の人々に広く伝えたほか,日本は先進国の中で肥満率が最も低いことに触れ,日本の健康な食生活をはじめ栄養改善における知見と経験を評価しました。また,ふくしまスイーツ賞味会では,グラツィアーノ事務局長から,科学的根拠をもって,福島産食品の安全性について全く懸念を持つ必要はない旨発言があり,中立的な国際機関のリーダーが世界に対して発したこの言葉は福島復興支援の力強い後押しとなると同時に,日本の「安全でおいしい農産物」の魅力を世界に発信する機会になりました。加えて,グラツィアーノ事務局長は,FAOが認定した岐阜県の世界農業遺産「清流長良川の鮎」において,持続可能な天然資源の利用や地域活性化の取組を視察しました。

【FAO親善大使の任命】
グラツィアーノFAO事務局長の訪日に併せて,日本で初のFAO親善大使として,フランス料理人の中村勝宏(なかむらかつひろ)氏とジャーナリストの国谷裕子(くにやひろこ)氏が任命されました。両親善大使は,それぞれの経験や人脈を活かし,SDGsの普及啓発や,日本でも問題となっている食品ロスの削減といった観点から,日本の人々にFAOの活動を紹介し,日本とFAOとの架け橋となる役割を担っています。

【FAOにおける日本人職員の活躍】
FAOで働く日本人は,分担金によるポストの専門職レベル以上の職員で約40名,このうち幹部職員の数も増えており,本年6月にはFAOのナンバー3の役職にあたる事務局長補レベルの林業局長として三次啓都(みつぎひろと)氏が就任しました。また,7月には,七里富雄(しちりとみお)FAOアフガニスタン事務所長が,アフガニスタンでのFAOの活動拡大における貢献を評価され,現場での技術協力において優れた成果を挙げたFAO職員に授与される「B.R.セン賞」を受賞しました。日本政府は,さらに多くの日本人が,FAOのような国際機関の職員,つまり国際公務員として世界をフィールドに活躍していけるよう応援しています。

このように,FAOは,世界の食料安全保障,栄養改善,持続可能な農林水産業の促進に寄与しています。日本がFAOにおいて果たす役割は大きく,またFAOの活動は日本の食料安全保障に貢献していることから,今後も日・FAO関係のさらなる進展が期待されています。

左から,グラツィアーノFAO事務局長の岸田外務大臣(当時)への表敬(2017年5月12日),ふくしまスイーツ賞味会(同10日),及びFAO親善大使発表イベント(同10日)の様子