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2011-07-02 22:07:00

都市部の人口増加や北部の干ばつにより中国の水不足は深刻だ。これを商機にするには部材の使い方についての提案力が問われる。

 水処理膜というと“部材売り”の典型であるかのように思われがちだ。だが自社開発品で各種の水処理膜を取りそろえ、「膜のデパート」とも呼ばれる東レによると実態は逆である。

 
2009年8月、「藍星東麗膜科技( TMBC )」の新工場の着工に際し、くわ入れ式を行った。左から3人目が榊原定征東レ社長(当時)
写真提供/東レ

「使い方を提案しないと膜は売れない」(房岡良成水処理事業部門長)

 注文を受けて、膜をプラントに納入すれば終わりというわけではなく、膜をどう組み合わせれば顧客の問題解決になるかという提案から、洗浄方法の指導といった保守の面や技術面まで、同社は支援する。

 東レは2009年7月、中国藍星份と水処理事業の合弁会社「藍星東麗膜科技( TMBC )」を設立した。合弁会社では各種の膜の輸出入や販売を手掛けるが、主力の逆浸透(RO)膜は現地生産に踏み切った。

RO膜は年率20%以上成長

 世界の人口約69億人のうち、生活用水を含む飲料水が日常的に得られない人は9億人、下排水の処理など衛生設備がない人は26億人いるといわれ、水問題の解決は世界的な課題だ。なかでも中国を、「世界最大の潜在市場」と東レは位置づける。

 中国では都市部で人口増加により水需要が急増する一方、北部では干ばつの影響で水不足問題が起きている。東レによれば、中国の水処理市場はRO膜だけでも年率20%以上の成長を続けており、2014年には500億円市場になる見込みだ。ここで、30%のシェア獲得を目指す。

 山東省青島市や河北省唐山市曹妃甸などに建設中の造水量が1日当たり5~10万tに達する大規模なプラントに対し、合弁工場で製造したRO膜の納入が決まっている。海水を淡水化し、飲用レベルに変える。

 とはいえ、中国で生産するRO膜は「ハイエンド製品ではなく、汎用品になったもの」と房岡部門長は話す。汎用品レベルのRO膜は既にコスト競争にさらされており、現地で生産する方が得策だと判断した。

 言い方を変えれば、「汎用化した製品のラインをいつまでも持たず、日本では常に最先端のものを作り続ける必要がある」(房岡部門長)。

 水処理に関する同社の研究拠点は滋賀県にあるが、上海とシンガポールにも研究所を設けている。海外の研究所の役割は、膜そのものというよりも、顧客のニーズに合わせた膜の使い方の研究だ。水質やポンプの圧力によって最適な膜の組み合わせがそれぞれ変わるためである。

 海外研究所や国内外の営業部隊からの情報はすべて滋賀の研究所に集約する。海外への知財流出を防ぎ、日本での革新的な膜の開発に生かす。

「いずれは膜だけではなく、周辺のサービスやノウハウもビジネスにしたい」と房岡部門長は言う。

●東レの水処理技術の研究開発体制
※1 TFRC:Toray Fibers & Textiles Research Laboratories( China) Co., Ltd.
※2 TSWRC:Toray Singapore Water Research Center
出所:東レ
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