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2015-02-27 10:52:00
昨年11月に日本上陸した「牛肉麺(ニューロウメン)」のファストフードチェーン、「三商巧福」。創業30年、人口2300万人の台湾で年間1500万食を売り上げる国民食を提供する店だけあって、開店以来、遠方からも客が訪れるなど賑わいを見せている。その日本法人である日本三商フードサービス株式会社の代表を務める陳光弘氏に日本出店の経緯や今後の展開についてお話を伺った。
 
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赤坂にある「三商巧福」1号店にて。日本三商フードサービス株式会社 代表取締役 陳光弘氏
 
 「オープンから早2ヵ月。昨年中はオープン景気で湧いていましたが、今年に入り、次第に落ち着いてきました。団体客は減り、個人客が増えていますね。口コミや通りすがりで入店してくださった方が、月1回程度リピートで食べに来ている感じです。本当は週1回食べに来ていただけるのが理想ですが、それはこれから。牛肉麺は外国の食べ物ですから、時間をかけて浸透させていく必要があると思っています」
 
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東京メトロ・赤坂駅から溜池山王駅に向かう道路沿いに位置する直営1号店。ビジネスマンの需要が見込まれる立地だ。
 
 三商巧福が属する三商グループは、社員数2万5000人、外食産業のほかIT、金融、小売業など7分野ものジャンルで事業を営む台湾の大企業である。入社当時はグループ内の生命保険会社に入社した陳氏だが1997年に食品事業部に異動。外食産業に携わることになった。
 
 「学生時代に7年間、日本に留学していました。実は、その頃から牛肉麺は日本でうけるのではないかと思っていたんですよ。うどんとラーメンの中間のような麺、あっさりと飲みやすいスープ、そして牛のブロック肉。どれをとっても日本人の好みに合うと思ったんです」
 
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牛のブロック肉が迫力の「原汁・牛肉麺」630円(税別)。牛・豚骨・鶏がらがベースのだし汁はコクがありながらあっさりとしていて、最後まで飲み干す人がほとんどだという。
 
 プロジェクトが動き出したのは2013年のこと。三商グループの経営会議で新規事業のプレゼンテーションをする機会に恵まれたのだ。
 
 「とりあえず、日本に出店するためのリサーチ費用を出してくれと懇願しました(笑)。結果、月1回の出張につき20~30万円。約300万円の調査予算が下りたのです。毎月日本に来て、競合となりうるさまざまな店を食べ歩いてリサーチしました。そのとき感じたのは質のよい食材を使っている店が少ないということ。当社の上質なブロック牛肉なら勝算があると確信をもったのです」
 
 しかしその後、大きな問題に衝突する。
 
 「口蹄疫の影響で、肝心の牛肉が台湾から輸入できないことが判明したのです。厳密に言うと台湾の特定工場からなら可能だったのですが、キャパシティ的に無理だった。このときだけは日本出店は不可能かもしれないと思いましたね」
 
 その後、なんとかほとんどの食材の国内調達ルートを開拓することに成功。度重なるテスト製造で納得のいく味が出て、やっと出店のめどがついたのだという。
 
 「現在は食材の97%を日本国内で調達(肉は日本の商社が取り扱うアメリカ産を使用)、残り3%は漢方薬です。99%は台湾と同じ味を再現できていると思います。なぜ100%ではないのかというと、肉を始め、塩や醤油などの味が台湾調達の食材とは微妙に異なるためです。同じレシピで作っていてもどうしても違ってしまうんですね。ほとんどの人にはわからない程度の差ですが(笑)難しいところですね」
 
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同店では牛肉麺以外のメニューも豊富に揃っており、ちょい飲みもできる。ファストフードの域を超え、レストラン並みの充実度なわりに値段は安い。
 
 三商巧福のポリシーは、惜しみなく良質の食材を使用する代わりに、食材以外の無駄を徹底的にそぎ落とし、誰もが食べられる低価格を実現することである。"安く美味しい料理"に最も価値を置いているのだが、「日本はサービスに重きを置く国ですね。それはもちろん素晴らしいことだと思いますし、サービスを重視しなければいけない業態もあるでしょう。ただ、正直に言えば、過剰ではないかと思う部分も多々あります。特に、私たちはファストフードでレストランではありません。ファストフードに過剰なサービスが必要でしょうか?丁寧なサービスを提供するには時間もお金もかかります。結果、価格に跳ね返さざるを得なくなる。私たちはそれより、サービスが多少悪くても、よい食材を使った美味しい料理を低価格で提供したいんです。こうした考え方が日本の方に受け入れていただけるのか、まだわかりません。これからが勝負ですね」
 
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箸やお水、ごはんもセルフサービスで。
 
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炒めた高菜と豆板醤はセルフコーナーに置いてあり食べ放題。大人気の高菜炒めは店内で調理している。
 
 今後は多店舗展開を進めていく予定だという。
 
 「2014年は、日本に出店することが目標でしたが、2015年は仕組みを構築し、拡げていく1年だと思っています。上半期には2店舗目を、下半期にはさらに2店舗で、合計4店舗まで増やしたいと思います。牛肉麺は特別な食べ物ではなく、あくまでも日常食ですから、普通に考えれば半径2~3kmが商圏の限界だと思っています。1店舗しかないうちは、遠方から物珍しさで訪れるお客様も多いので、本当の評価が見えづらい。店舗を増やしたとき、限られた範囲内でどれだけ頻繁に食べに来ていただけるか。うどんやラーメン、牛丼のような身近な存在として日常の中に浸透させることができるか、それが勝負の分かれ目になるでしょう」
 
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経営理念はメニューにも書かれている。
 
 同社が最も大切にしている「よりよい食材&美味しさを追及していくため、無駄なものをすべて削って、徹底したローコストオペレーションで食の根本である"美味しい""庶民的"をお客様に提供する」という理念は今後も絶対に変えないと陳氏。「どんなに良質の料理を提供しても、日本式のサービスがなければ受け入れられないとわかった場合は、日本撤退という選択もありうる」と語る。「もちろんそうならないために、できることはすべてやっていきますけれどね」
 
 安全で美味しいものを提供するのは食の原点である。明確な経営理念でその原点を見つめ続ける真摯な姿勢が、台湾の国民食の味を支えている。近い将来、日本にその精神が受け入れられ、さまざまな地域で牛肉麺が食べられる日が来ることを楽しみに待ちたい。