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タイでシェア1位の日本の醤油メーカーは?と聞かれたら、多くの日本人は「キッコーマンでしょ」と答えるだろう。ところが、この問題の正解は「ヤマモリ」。三重県に本社を置く同社は、日本でのシェアは数%、7~8位にとどまる。
日本ではキッコーマンやヤマサ醤油などの後塵を拝しているヤマモリが、タイでは50%以上と圧倒的なシェアを握るようになった秘密を、バンコクで探った。
タイは今、空前の日本食ブーム。首都バンコク中心街のショッピングセンターは、どこも日本食レストランのチェーンで溢れている。こうしたチェーン店の味を陰で支えているのが、ヤマモリだ。
ヤマモリがタイで高シェアを握っている理由は大きく分けて2つある。
1つ目は、いち早く現地工場を立ち上げ、コストを削減したこと。ヤマモリは1997年にタイで醤油を販売し始めたが、工場を立ち上げたのはなんとその2年前の95年。現地の企業にタイでの事業展開を打診されて調査に訪れたところ、予想以上に日本食が浸透しており、市場拡大の可能性を感じたため、一気に工場建設まで決めてしまった。
日本の企業は一般的に、市場調査を兼ねて試験的に海外で販売をしてみて、需要があることを確認してから現地生産に踏み切るパターンが多い。だが、ヤマモリはその逆をいった。
ヤマモリの醤油の販売価格は、500ミリリットルで60~70バーツ弱(約200円)と、日本とあまり変わらない。物価の割に高く感じるかもしれないが、スーパーマーケットなどで横に並ぶ日本製の醤油はその2~3倍はする。
同業のキッコーマンはシンガポールの工場からタイに輸出しているため、ヤマモリは輸送コストなどで優位に立つ。
タイに進出している日系の食品メーカーは「日本のメーカーは味などにこだわりがあるのはいいが、価格が高すぎ、コスト競争力が求められるタイではなかなか手を出しにくい。そんな中、ヤマモリは現地の需要にうまく対応している」と話す。
現地の味に合わせない
価格は現地の需要に合わせているが、こだわって決して変えていないのが、味。これがヤマモリの第2の強みだ。
タイの現地工場では、日本の日本農林規格(JAS)にのっとって、醤油を生産している。薄口醤油は日本で製造したものを輸入すると、輸送の時間がかかるため、1週間から1カ月で変色してしまうが、現地生産しているヤマモリからであれば、日本と同じ味、同じ品質のものを調達できる。
記者もタイで製造されたさしみ醤油で刺身を食べてみたが、違いは分からなかった。
タイ料理は甘味や酸味が強いが、現地の好みにはあえて合わせない。タイ販社のヤマモリトレーディングの藤田智行マーケティングマネジャーは「現地の味に合わせず、日本の味を維持しているからこそ今の価格で売れる」と話す。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130801/251798/?mlmag&rt=nocnt