米国で一番人気のファストフード店の店内。ここは、マクドナルドでもケンタッキーフライドチキンでもありません(写真:後藤文俊)
米国で一番人気のファストフード店の店内。ここは、マクドナルドでもケンタッキーフライドチキンでもありません(写真:後藤文俊)

 米国で一番人気のファストフード(FF)店はどこか?。

 仕事で頻繁に訪米する方でも、この質問に正解できる人は少ないでしょう。米国の流通事情に精通した専門家でさえ、「マクドナルド? ケンタッキーフライドチキン(KFC)? あるいは、イン&アウトバーガー(In-N-Out Burger)かな?」といった答えがせいぜい。また、「1店舗当たりの売上高ナンバーワンは、どこか?」と聞いても、正解は出てこないでしょう。

FF店1店舗当たり年間売上高、マクドナルドは5位

 実は、米国FF店の1店舗当たり年間売上高でナンバーワン、かつ顧客満足度でも第1位なのは、チキン・サンドイッチ・チェーンのチックフィレイ(Chick-fil-A)。米国47州とカナダに2700以上の店舗を展開しています。

 市場調査や消費者動向に関するデータ、統計を提供する世界最大級のプラットフォームである独スタティスタ(Statista)の調査(Leading quick service restaurant (QSR) chains in the United States in 2020, by sales per unit)によると、2020年のチックフィレイ1店舗当たりの年間売上高は、501万ドル(約6.8億円)。FF店で堂々の1位です。

 2位は600店を展開するレイジングケインズ(Raising Canes)で、年間売上高は385万ドル(約5.2億円、20年、以下同)。つまり1位チックフィレイの年間売上高は、2位より3割ほども大きいのです。ちなみに3位は、テキサス州を拠点に900店弱を展開するワッタバーガー(Whataburger)。そして、4位にやっと、グルメバーガーとして日本でも知られるようになったイン&アウトバーガーがランクインしています。同社は現在、米国7州に380店を展開し、年間売上高は306万ドル(約4.1億円)です。

 今回、改めてFF店の1店舗当たり年間売上高ランキングをじっくりと見たのですが、1~4位までは日本未上陸の企業ばかり。ようやく5位に飲食業界の巨人、マクドナルドが入っています(294万ドル、約4億円)。

もし日本で、「人気があって、売上高ナンバーワンのチキンのFF店はどこ?」と聞いたら、多くの人が「カーネルおじさん」や「ケンタ」の愛称で親しまれるKFCと答えるでしょう。しかし米国でKFCは(売り上げデータで見る限り)全く人気がありません。先のランキングで20位にも入っていないのです。

 ここまでなら、「へぇー、そうなんだ」と言うだけかもしれません。しかしチックフィレイが公開している「フランチャイズ開示資料(Franchise Disclosure Document)」には、業界に詳しい人でも驚くような記述がありました。

顧客満足度を最大化するために働く

 この資料は全部で424ページもあるのですが、そのノンブルで65ページ目に、チックフィレイの1店舗当たりのリアルな売上高が記載されていました。(モールなどに出店する小型店を除く)スタンドアローンの国内店(約1800カ所)1店舗当たり年間売上高の中間値(21年12月31時点)が、796万9510ドル(約10.8億円)。1店舗当たりの年間売上高の平均が814万2257ドル(約11億円)。また、「国内1800店の31%が該当する“優良店”においては、年間売上高が900万ドル(約12億円)を超えている」と記載されていたのです。

 1店舗当たり年間売上高が1億円を少し超えるくらいの日本のマクドナルドと比較すると、チックフィレイの11億円という金額は「驚異的」というほかありません。

 また、業績が良いだけでなく、米国に来た日本人の多くが驚くのは、同社が日曜日を定休日としていること。1946年創業のチックフィレイは創業者が敬虔(けいけん)なクリスチャンだったこともあり、1号店のオープン時から毎週日曜を休みにしています。米国でも日曜は“書き入れ時”ですが、チックフィレイでは「日曜日は教会に行くか、家族とゆっくり休んでもらいたい」という考えから定休日にしているのです。

チックフィレイはスタッフのサービスレベルが高く、顧客満足度も高い(写真:後藤文俊)
チックフィレイはスタッフのサービスレベルが高く、顧客満足度も高い(写真:後藤文俊)

 日曜にしっかりと休みを取れるため、平日にはよく働く(ハードワークする)ことができるのでしょう。同社が求めているのは、単に「一生懸命に働く」という、ややもすると独りよがりになりかねない働き方ではなく、「顧客満足度を最大化するために働く」ことなのです。

実際にチックフィレイは、ACSI(American Customer Satisfaction Index)が実施した「2021-2022米国顧客満足度指数」のFF部門で、8年連続となる1位を獲得。最も顧客を満足させている(=人気が高い)のですから、冒頭で紹介した、1店舗当たり年間売上高ランキングでトップなのも、納得できる結果でしょう。