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2022-05-14 21:45:00

宅配特化「ゴーストレストラン」急増 80業態持つFCも

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山口真一さんの投稿山口真一

 

野村不動産は飲食店ビルにゴーストレストラン向けのシェアキッチンを設けた(東京・港)

客席を持たず宅配に特化した「ゴースト(幽霊)レストラン」が急増している。宅配に対応する飲食店の1割強を占める地域も出てきた。鶏肉料理や丼物など数十の業態を用意したフランチャイズチェーン(FC)が登場し、参入が容易になった。新型コロナウイルス禍に苦しむ飲食店主らが「副業」として加盟し、飲食宅配市場の拡大に弾みをつけている。

料理宅配アプリの「出前館」や「ウーバーイーツ」で注文する際、こう思った経験はないだろうか。「こんなお店、うちの近所にあったっけ」。ゴーストの名は、看板も客席もないため、店が「幽霊のように目に見えない」ことに由来する。

どの程度のゴーストレストランが存在しているのか、実態調査を試みた。ウーバーイーツで東京都港区の一角を配達場所に設定すると、注文可能な店として約750店が表示された。

一見普通の一軒家に

「松屋」「リンガーハット」といった有名チェーンをまず除外する。残りの店は公式サイトに宅配専門と記載があればゴーストとしてカウント。記載がなければ現地での目視などで判断した。確認できただけで85店、全体の1割強がゴーストだった。リスト化すると、住所が同じ店がいくつもあることに気が付く。

その一つを訪ねると、住宅街にある一見普通の一軒家だった。大きなリュックを背負った配達員がひっきりなしに出入りする。ここ、ゴーストレストラン研究所(東京・港)では「すーぷのあるせいかつ」「おさかな日和」など約20の業態を運営している。同じ厨房で「多店舗展開」できるのもゴーストの特徴だ。

同社は2019年、吉見悠紀代表が「飲食業界は驚くほど生産性が低い。成長が確実なデリバリーならデジタル技術を活用できる」と考えて設立した。コロナ禍で市場の急成長は現実のものとなり、21年春にはFC事業に乗り出した。

商圏の客層を分析してオーナーに適切な業態とレシピを提案し、注文受付から配達員へ商品を渡すまでのオペレーションを支援する。「通常4~6カ月かかる開業までの時間を約1カ月に短縮できる」(同社)という。

ローソンのメニュー開発も

22年1月、ローソンが店内厨房を使って1000店にゴーストレストラン事業を広げる方針を掲げた。大企業の本格参入として注目されたこの事業にもゴーストレストラン研究所が携わっている。FC契約ではないが看板メニュー「チキンオーバーライス」などのレシピを監修した。ローソンの吉田泰治・事業開発部部長は「スピード感を持って事業拡大するために連携したい」と話す。

ローソンはゴーストレストラン事業を1000店に広げる

コロナ禍で飲食店は大打撃を受けた。ゴーストレストラン研究所のようなフランチャイザーの力を借り、「副業」として別の店名でゴーストレストランを始める飲食店も多い。フランチャイザーの一つで「鶏あえずタンパク」など約80業態を持つWiaas(ウィアーズ、東京・新宿)では、全国約150の加盟者の約8割が既存の飲食店だ。初期費用は無料とし、月商の10%をロイヤルティーとして受け取る。

飲食ビルにシェアキッチン

不動産事業者もゴーストレストランの関連事業に乗り出している。野村不動産は飲食店ビル「GEMS(ジェムズ)田町」に、ゴーストレストランに特化したシェアキッチンを設けた。来店客から調理の様子が見えるオープンキッチンで、3業者が合計35の業態を運営している。配達員が配達番号を入力すると扉が開く商品ロッカーもある。

「配達時にジェムズのチラシを配れば地域の消費者へ効率的に周知できる」(同社)という狙いもあり、今後の飲食店ビルでも導入を検討する。

厨房機器メーカーにとっても商機だ。エレクター(東京・目黒)では、煙を吸引する移動式の調理ワゴンへの引き合いが増えている。「売り上げが立ちそうな地域へ機動的に拠点を変更するゴーストレストランにとって使いやすい」(同社)

調査会社のエヌピーディー・ジャパンによると、21年の料理宅配市場は約7909億円と19年の2倍近い。データ分析のヴァリューズの調べでは、料理宅配アプリの4月の利用者数は1282万人で、14カ月連続で1000万人を超えている。

飲食店の営業利益率はコロナ前で一般的に5%前後にとどまっていた。三井物産戦略研究所の高島勝秀研究員はゴーストレストランについて「同じ設備で他の業態も展開できれば、追加出店や設備投資のコストをかけずに売上高を伸ばすことができ、働き手の有効活用もできる」と評価する。

要の宅配サービス、撤退相次ぐ

宅配に特化したゴーストレストランは、デリバリー事業者がいなければ成り立たない。コロナ禍での特需を狙って外資系事業者が次々と日本市場に参入してきたが、早くも淘汰が始まっている。

「フードパンダ」を展開する独デリバリーヒーローは1月に日本から撤退した。20以上の都道府県に営業網を広げていたが、配達員を確保できなかった。中国・滴滴出行(ディディ)傘下のDiDiフードジャパンも日本での料理宅配サービスを5月25日に終了する。
勝ち組といえるウーバーイーツジャパン(東京・港)には約10万人の配達員がいるが、ネット経由で単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」のため、雇用保険は適用されず、労災保険も自己負担だ。労働環境の改善が大きな課題になっている。

同社や出前館などが参画する日本フードデリバリーサービス協会(東京・渋谷)は3月末、「就業環境整備に関するガイドライン」を示した。著しく低い金額を報酬として定めることを禁じた下請法の規定順守などを求めるなど、ギグワーカーの離反を招かない手立てを進めている。

(河端里咲)