大豆やエンドウ豆などを活用する「植物肉」や、動物の細胞を培養した「培養肉」といった「新世代ミート」の取り組みが、国内でも広がっている。背景にあるのは、世界的な人口増加による将来的なたんぱく質不足、畜産の拡大による環境負荷の懸念、食に対する健康意識の高まりだ。丑(うし)年の2021年、新しい“肉”の市場は飛躍の年となるか、日経MJと共同で最前線を追った。
日経クロストレンドと日経MJが制作した、国内代替たんぱく市場の主要プレーヤーマップ(背景の写真/Shutterstock)
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 従来の食肉に代わるたんぱく源として注目を集めているのは、主に植物肉と培養肉、そして食用コオロギなどを活用する「昆虫食」の3分野だ。このうち、すでに商品投入が進むのは植物肉と昆虫食。培養肉は2020年12月、シンガポールにて世界で初めて米イート・ジャストによる培養チキンナゲットのレストラン提供が始まったものの、多くは研究開発段階にある。

 代替たんぱくの市場は、ここ数年、欧米で大きな盛り上がりを見せている。矢野経済研究所によると、20年の世界市場規模(植物肉・培養肉計)はメーカー出荷金額ベースで2572億6300万円。これが30年には、7倍以上となる約1兆8723億円にまで拡大すると予測されている。

 それでも、約200兆円といわれる世界の食肉市場に比べればニッチな存在だが、今後の爆食化が避けられない世界の食卓を持続可能な形で支える「新市場」と捉えれば、そのポテンシャルの大きさは疑いようがない。事実、海外の代替たんぱく市場にはスタートアップと大手企業が入り乱れ、すでに300社以上がひしめく大混戦になっている。

2020年7月時点の海外代替たんぱくプレーヤーのカオスマップ(作成/オリビア・フォックス・カバン氏)
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 では、国内市場はどうか。日経クロストレンドと日経MJが制作した「代替たんぱく国内プレーヤーマップ」では、主要な27社を挙げた。まだ海外に比べるとスタートアップの層が薄い半面、特に先行して盛り上がっている植物肉分野では、食品メーカーに加えて小売り、外食の大手プレーヤーがこぞって参入していることが分かる。

 潮目が大きく変わったのは20年だ。食品業界では、大豆たんぱく素材の国内市場で約5割を握り、攻勢をかける不二製油グループ本社を筆頭に、植物肉と競合しかねない食肉大手までもが相次いで商品を投入。国内最大手の日本ハムは、大豆を用いた家庭向け植物肉の新ブランド「NatuMeat(ナチュミート)」を3月に立ち上げた。畑佳秀社長は、「植物肉はお客様の関心が高い。多様化する食生活でも成長領域」と語る。

 また、小売りでは最大手のイオンがプライベートブランド(PB)の「トップバリュ」で大豆由来のハンバーグなど植物性食品シリーズの本格販売を10月から始めたほか、ファミリーマートやローソンなどのコンビニ各社も品ぞろえを強化している。

 さらに外食でも、ドトールコーヒーが9月から植物性パティを使ったサンドイッチをメニュー化。フレッシュネスバーガーやバーガーキングといったファストフード店でも、相次いで植物性バーガーが商品化された。1人焼き肉チェーンを展開する焼肉ライク(東京・渋谷)も、一部店舗で扱っていた大豆が原料の「NEXTカルビ」「NEXTハラミ」の販売好調を受け、12月に全店舗への拡大を決めた。

 一方、昆虫食では、20年5月に無印良品を展開する良品計画が、「コオロギせんべい」をネット限定で先行発売。徳島大学発のベンチャー、グリラス(徳島県鳴門市)が開発した食用コオロギパウダーを使った商品で、初回販売分は即日完売したほどだ。12月には、「Pasco」ブランドで知られる敷島製パン(名古屋市)も追随。高崎経済大学発のベンチャーのFUTURENAUT(フューチャーノート、群馬県高崎市)とコラボし、コオロギパウダーを使用したフィナンシェとバゲットをネット限定で発売。こちらも好評を博した。

 培養肉では、15年に創業したインテグリカルチャー(東京・文京)が、日本ハムと提携。動物の体内に似た環境を人工的に作り出す装置を使い、動物細胞を低コストで大量に培養する研究を進めている。21年末にはアヒルの肝臓細胞を培養して作る人工フォアグラをレストランや食品会社に販売することを目指す。また、シンガポールのショーク・ミーツ社とエビの培養肉の研究も始めており、こちらは22年ごろの商品化を目標としている段階だ。

「日本で植物肉ははやらない」のウソ

 20年に本格スタートを切った代替たんぱくの市場だが、いまだ「海外ほどは根付かない」という消極的な意見も少なくない。植物肉でいえば、日本の消費者はもともと大豆製品を中心とした植物性たんぱくに慣れ親しんでおり、「ヘルシーさ」だけでは新鮮味に乏しい。また、海外の消費者に比べて食に対する環境意識も低いといわれるからだ。しかし、現実は大方の想像よりもっと先にいっている。

 「都市型店舗のIKEA原宿とIKEA渋谷では、すでに販売するフード類の約50%がプラントベースで、売り上げでも同じく半数を占める」。そう語るのは、イケア・ジャパン(千葉県船橋市)でカントリーフードマネジャーを務める佐川季由氏だ。

 同社は20年10月から、フード分野で主力の「ミートボール」の食感や味わいをエンドウ豆たんぱく質やジャガイモ、タマネギといった植物由来の原料で再現した「プラントボール」を本格展開。他の植物性メニューのラインアップも拡充しており、特に都市型店舗では前述の通りの実績をたたき出している。これは世界のイケアのなかでもトップクラスの販売比率の高さという。

イケアが本格展開を始めた「プラントボール」(画像提供/イケア・ジャパン)

 なぜイケアでは、プラントボールが売れるのか。それは、本物の肉同等のおいしさと、手に取りやすい価格設定を両立しているからだ。極めてシンプルな「答え」だが、これを実行するのは実に難しい。おいしさを再現する技術と同時に、なぜ植物性代替肉を普及させるのか、単にトレンドに乗るだけではない明確な「目的」が重要になるからだ。

 イケアの場合、ミートボールの代わりにプラントボールが売れれば、自社が目指す環境負荷の低減目標に近づける。そのため、当初から既存のミートボールラバーが満足する味わいを目指し、価格もミートボールより割安に設定している。一部のビーガン(完全菜食主義者)向け商品ではなく、肉好きの人を含む一般消費者の胃袋をつかもうとしているのだ。それが、日本の消費者にもしっかりと響いている。

 これに対して、国内で販売される他の植物肉には割高なものもあり、肝心の本物の肉らしさを期待して食べると、がっかりすることもしばしば。調査会社のマイボイスコム(東京・千代田)が20年12月に実施した調査によると、代替肉で気になること・不安なこと(複数回答)では、「おいしいかどうか」が52%と最も多かった。

 「大豆ミート使用」をうたってヘルシーさを打ち出すのはいいが、ともすると自ら市場を狭めている可能性もある。環境目標のため製販一体で突き進むイケアのように、植物肉の本格普及にコミットできるか。参入している食品メーカーと小売り、外食プレーヤーとの連携強化、本気度が問われている。

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