インフォメーション

2019-10-13 11:29:00

界で急速に進む近未来の食の革命、「イノベー食(ショク)」の衝撃をリポートする本特集。第1回で取り上げるのは、植物性の“卵”や、和牛の培養肉の開発で知られる米スタートアップ、JUST(ジャスト)。環境にやさしくてサステナブルな「代替タンパク質革命」を推進する同社で活躍する、味の素出身の日本人研究者にフォーカスを当てる。

2018年に米ジャストに参画した味の素出身の若き研究者、滝野晃將(あきひろ)氏。1988年生まれ
2018年に米ジャストに参画した味の素出身の若き研究者、滝野晃將(あきひろ)氏。1988年生まれ
[画像のクリックで拡大表示]

 2019年8月8日~9日に開催された未来の食のイベント「スマートキッチン・サミット・ジャパン2019」(主催シグマクシス)で、来場者の注目をひと際集めた人物がいた。米ジャストでフードサイエンティストとして働く唯一の日本人、滝野晃將(あきひろ)氏だ。

 ジャストは、11年にハンプトン・クリークとして設立された。完全植物性のマヨネーズ「JUST Mayo(ジャストマヨ)」を売り出して話題を呼んだ後、社名を現在のジャストに変更。現在は、18年に発売した緑豆から抽出したタンパク質を主原料とする植物性の“液卵”「JUST Egg(ジャストエッグ)」を主力製品とし、鶏肉や和牛を細胞から育てる培養肉の開発にも取り組む。

完全卵フリーの「JUST Egg」
完全卵フリーの「JUST Egg」
[画像のクリックで拡大表示]

 同社は、豆やトウモロコシなど、数十万種の植物から抽出した植物性タンパク質の分子特性や機能(水溶性、粘性など)を解析。それをデータベースに蓄積し、キー素材を探索する自動化システム「ディスカバリープロセス」を保有しているのが強み。それゆえ、乳化しやすい性質を持つ植物性タンパク質は“マヨネーズ”に、鶏卵と似た性質を持つものは“卵”にと、動物原料を植物由来のキー素材で自在に置き換えられる。従来の畜産や養鶏に比べて圧倒的に環境負荷が低く、持続可能なアプローチで「代替タンパク質」を提供する、まさに新時代の食のスタートアップの代表格と言える存在だ。

 この代替タンパク質分野では、植物由来のバーガーパテなどを製造する米Beyond Meat(ビヨンドミート)が5月にナスダックに上場。8月中旬時点の株価は上場時の約6倍に達しており、その時価総額は約87億ドル(約9222億円、1ドル=106円換算)に上る。2050年には世界の人口が100億人に達すると言われ、“爆食”がもたらす食糧不足、環境破壊の危機が迫る中で、代替タンパク質の重要性、将来性が広く認知されている証左と言えるだろう。

なぜ味の素を辞めたのか?

 そうした注目分野の有力企業であるジャストで18年から働く滝野氏は、京都大学大学院農学研究科の修士課程を修了した後、14年に味の素に入社。同社の食品研究所でキャリアを重ねてきた。味の素では、同社が海外で展開している豚ダシや牛ダシといった風味調味料の研究に従事。動物原料の価格高騰に伴うコスト削減の一環で、動物原料を減らして同じような風味を再現する技術研究がメインだったという。

 これ自体、現在のジャストでの仕事にも通じる刺激的なテーマだったが、滝野氏は次第に味の素での研究に限界を感じるようになった。それは、風味調味料という限られた世界での、しかもコスト削減を主眼とした研究であることだ。世界を見渡せば、ジャストやビヨンドミートのように卵や食肉といった「メインの食材」そのものを植物性タンパク質で代替し、地球環境や食料不足問題により直接的に、より大きなインパクトをもたらす事業が次々と生まれている。「自分も大本の食材から栄養問題に向き合い、世界中の人々にリーチしたい」(滝野氏)。そうした強い思いが日に日に募るようになった。

 そんなあるとき、転機は突然訪れた。共働きの妻の転勤先が米国カリフォルニアに決まったのだ。カリフォルニアといえば、ジャストをはじめ代替タンパク質を手掛けるスタートアップが軒並み本拠を構える“聖地”。もはや滝野氏に迷いはなかった。17年に渡米後、運よく求人を出していたジャストに応募し、フードサイエンティストとして採用が決まった。

https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00196/00002/?P=1