来るボイスファースト時代に、米アマゾン・ドット・コムの「Amazon Alexa」がどれだけのポジションを獲得できるかは、アマゾンのAI技術の実力に左右される。その片りんを感じさせるのが、ディープラーニングを用いた画像認識技術を駆使したレジなしコンビニ「Amazon Go」だ。その全貌を独自作成した「Amazon Goマップ」で解説する。

 日経クロストレンドの創刊記念イベント「日経 xTREND FORUM 2018」内では、「Amazon Goの衝撃~その先にある新たな買い物の世界~」と題して、『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』の著者でオイシックスドット大地 執行役員の奥谷孝司氏、2009年から2016年までAWS(アマゾン ウェブ サービス)で日本のマーケティングを統括していたABEJA マーケティングディレクターの小島英揮氏、すかいらーくで顧客データ分析を牽引していたリノシス代表取締役の神谷勇樹氏の3人が議論する。日時は6月18日(月)午後1~1時40分。「Amazon Goの衝撃~その先にある新たな買い物の世界~」

 「世界よ、これが未来の買い物だ」──ジェフ・ベゾスが高らかに宣言しているかのような店舗だった。

 アマゾンが米シアトルの本社ビルで運営する「Amazon Go」は、ディープラーニングを駆使した画像認識技術で、「Just Walk Out(商品を取って出るだけ)」で買い物ができる“レジなしコンビニ”だ。どのような買い物体験ができるのか。その実力を検証すべく、3日間通い詰めた。

 Amazon Goで買い物をするには、まずAmazon.comのアカウントが必要。そのうえでスマホに専用アプリをダウンロードし、QRコードを表示して入場する。あとは商品を手に取ってゲートを出るだけで自動的に課金される仕組みだ。

 スマホでタッチして入るのは自動改札と同じなので、違和感はない。5000台ともいわれるカメラやセンサーで人と商品の動きを把握していると聞いていたが、カメラに監視されている感覚はあまりなかった(天井をよく見ると、カメラやセンサーとおぼしき黒い機器が所狭しと並んでいるのだが)。日本で決済を効率化するために使われ始めたRFIDタグは商品に貼られていない。画像認識に重量センサーなども併用して商品の動きを把握しているようだ。

家族連れの場合はアプリを持っている人がゲートに1回タッチして1人ずつ通す
天井をよく見ると、カメラやセンサーとおぼしき黒い機器が所狭しと並んでいる

 ゲート前に何もないスペースが大きくとられているのは、人が密集しないようにして画像認識によるトラッキングが途切れるのを防いでいるのだろう。次世代コンビニの実験をしているローソンは「実際の店舗で画像認識の実験をしたところ、レジ前のスペースに昼のピーク時などに人が並んで棚の前が混み合うとカメラとセンサーで追いきれなくなり、誰が誰だか分からなくなったことがあった」(ローソン オープン・イノベーションセンターの谷田詔一マネジャー)と言う。こうした理由でAmazon Goでは、40人程度が入ると入場を制限しているようだ。

ゲートのすぐ前は何もないスペースが大きくとられている

 商品を取って出るだけで本当に正しく課金されるのか。薄い板チョコを1枚ずつ枚数を変えて取ってみたり、商品を一度別の棚に置いてから取ってみたり、天井のカメラから見えないように別の人の手を上に重ねて商品を取ったりしてみたが、いずれも正確に決済されていた。アマゾンのAI(人工知能)による画像認識と処理アルゴリズムレベルは相当高いと感じた。唯一禁止されているのが、手に取った商品を別のアカウントを持つ人に渡すこと。実際やってみたところ、棚から取り出した人に課金された。

手に取った商品を自分のカバンに直接入れてもOK
別の人の手を上に被せた状態で商品を取ってみたが、取った人に課金されていた

タクシーからウーバーへの変化と同じ感覚

 レジがないと、どれだけ短時間で買い物ができるのか。試しにゲートを入って近くにあるサンドイッチを取ってすぐ出たところ、10秒程度しかかからなかった。「あれ? これで終わり?」という感覚だ。

 
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 その秘密は店舗のレイアウトにもある。最も需要の高いランチボックスやサンドイッチ、飲料はゲートの目の前に置き、冷凍食品や調味料、ミールキットは奥にある。弁当や飲料の売り場を奥に置いて買い回りを促す日本のコンビニとは真逆だ。これによって、混み合うランチタイムでもあっという間に買い物ができる。

Amazon Goの全貌はこれだクリックすると左の写真を拡大

 実際、視察目的と思われるビジネスパーソンや観光客は店内をくまなく回って観察しているが、アマゾン社員など近隣のワーカーとおぼしき客は真っすぐ売り場に向かってサンドイッチをつかみ、そのままあっという間に出て行く姿を何度も見かけた。

 決済プロセスがない気持ち良さは、タクシーの代わりに「ウーバー」を利用したときの感覚に近い。買った実感がない気もするが、高額品ならまだしも、コンビニでの小額決済なら実感より利便性が勝つだろう。

 買い物客に利用した感想を聞いてみると、「すぐ買えるので便利だが、ついつい買い過ぎてしまう」という意見が多かった。商品はランチ需要の高いサンドイッチやランチボックス、サラダが5~10ドル程度と高めなので、飲料を加えるとあっという間に1500円近くいってしまう。しかも、レシートはゲートを出てからしばらくしないと送られてこないため、あとで「買い過ぎたなあ」と反省することになるのだ。

無人どころか、スタッフが多い

 イメージと違って驚いたのは、無人どころかスタッフが多かったこと。出入り口で入店方法を案内するスタッフと奥のアルコール売り場で年齢確認を行うスタッフは必ずいるのに加え、常に2~4人がフロアで品出しをしているのだ。日本のコンビニより多い。しかも客にフレンドリーにあいさつしたり、ショッピングバッグを渡してくれたりと、接客が良いのだ。「アマゾンが常に重視しているのは顧客とのエンゲージメント。オフライン店舗の良さはやはり接客。レジなしは完全省力化に振ることもできるが、余った人員を接客に振り分けることもできる」と、元アマゾンウェブサービスジャパンのマーケティング本部長で実際にAmazon Goを視察した小島英揮氏。

 新しいテクノロジーは顧客に受け入れられるかどうかがポイント。日本の小売関係者はレジなし店舗をレジ待ちによる機会ロスや人手不足の解消手段とみているようだが、店舗側の都合が優先されると、客はついてこない。「ECからリアルに進出した企業の強みは、テクノロジーによって接客以外の部分を省力化しつつ、接客を高度化していること」(オイシックスドット大地の奥谷孝司執行役員)。レジなしをいかに顧客のおもてなしに生かせるか。ここに学ぶところがありそうだ。

常に2~4人がフロアに出て品出しをしていた

第10回 Amazon Goが狙う“リアル店舗のEC化”という脅威→