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2015-09-30 13:18:00

(CLAIR メールマガジン 2015 年9月配信) 1 インバウンド大国フランスの実情パリ事務所 ■夏のパリは人の大移動7月14日の祝日が過ぎた頃から8月の初旬にかけ、パリで働いたり住んでいる人たちは本格的にバカンスへと旅立ちます。と同時に、フランスの地方に住む人やEUそして世界中の人々がパリを訪れる時期でもあります。したがって、この時期は当事務所近辺でも頻繁に英語を耳にするようになり、また、日本人観光客の方々もよく見かけるようになります。フランス人の4人に3人は旅行に出かけ、それも7月8月が多く、一方、フランスを訪れる日本人旅行者数は年間68万2千人(2013年)で、出国日本人数は例年8月が特に多いことなども考えると、この光景は不思議なことではありません。 ■インバウンド大国フランス 6 月、UNWTO(世界観光機関)の「Tourism Highlights 2015 Edition」が発表されました。これによりますと、2014 年の外国人訪問者数(①)はフランスが最も多く 8,370 万人(日本:1,340 万人、22 位)となっており、少なくとも 30 年以上不動の地位のようです。また ICCA(国際会議協会)が 5 月に発表した「Statistics Report 2014」では、2014 年の都市別国際会議開催回数(暫定値)でパリが 214 件で 1 位(東京:90 件、22 位)、同月世界経済フォーラムが発表した「Travel and Tourism Competitiveness Report 2015」では、旅行・観光競争力ランキング(③)でフランスは 2 位(日本:9 位)となっており、同国は間違いなく世界屈指の「旅行者が集まる国」「旅行者を集めるのが得意な国」であることが分かります。 ■ではフランスは世界一かしかしながら、この国にもジレンマはあるようで、外務・国際開発省のローラン・ファビウス大臣は、本年6月に、自らが座長を努める政府の観光振興評議会の最終報告書を受け取った際、「観光は我が国の宝であるが、その一方で矛盾に陥っている。」とコメントしています。このコメントの意味は、上記の統計資料の別の部分に目を移せばうかがうことができます。まず、「Tourism Highlights 2015 Edition」の 2014 年の国際観光収入(②)では、フランスは 4 位(長年2位でしたが 3 位になり、今回さらに順位を下げました。)であり、また、「Statistics Report 2014」の国別国際会議開催回数(④)では、フランスは 5 位となっており、世界トップクラスのインバウンド大国には違いないものの、少なくとも統計上は世界一と言うには無理がある状況のようです。

(CLAIR メールマガジン 2015 年9月配信) 2 ①外国人訪問客数(2014 年) ②国際観光収入(2014 年)順位 (百万人) 前年順位 順位 (US ドル) 前年順位1フランス 83.7 1 1アメリカ合衆国 177.2 1 2アメリカ合衆国 74.8 2 2スペイン 65.2 2 3スペイン 65.0 3 3中国 56.9 5 4中国 55.6 4 4フランス 55.4 3 5イタリア 48.6 5 5マカオ(中国) 50.8 4 ③旅行・観光競争力(2015 年) ④国際会議開催回数(2014 年)順位 (指数) 前回順位 順位 (件数) 前年順位1スペイン 5.31 4 1アメリカ合衆国 831 1 2フランス 5.24 7 2ドイツ 659 2 3ドイツ 5.22 2 3スペイン 578 3 4アメリカ合衆国 5.12 6 4イギリス 543 5 5イギリス 5.12 5 5フランス 533 4 ①②「UNWTO Tourism Highlights 2015Edition」のデータ(2015 年 6 月時点の暫定値)を元に作成。 ③「World Economic Forum Travel and Tourism Competitiveness Report 2015」及び前回発表の同データを元に作成。指数は世界経済フォーラム独自の評価基準(年により変わる)を数値化したもの。 ④「ICCA Statistics Report 2014」及び同 2013 のデータを元に作成。 ■ライバルは近くにいるそれでは、フランスを上回るインバウンド大国とはどこなのでしょうか?まず、国際観光収入では、アメリカ合衆国がフランスの3倍以上の差をつけて1位、アメリカに大きく差は開けられているものの2位がスペインとなっています。国別国際会議開催件数でも、アメリカは他を大きく引き離し1位、以下ドイツ、スペイン、イギリスと続きます。また、旅行・観光競争力ランキングでは、スペインが1位となっており、フランスのライバルはヨーロッパで、特にスペインには少し先を越されてしまっている感があります。ファビウス大臣も「フランスはスペインよりも30%訪問者が多いにもかかわらず、収入はスペインが10%上回っている。これはスペインの方が滞在期間が長いためである。わが国の場合、パリには多くの旅行者が来るが、地方に滞在する期間はとても短い。」とコメントしています。(CLAIR メールマガジン 2015 年9月配信) 3 ■中国は大事なお客様であり強力なライバルでもあるちなみに、わが国のインバウンド政策にとって重要な位置を占める中国人旅行者ですが、フランスにおいてもこれは同じことです。2013年にフランスを訪れた中国人旅行者は 172万人(暫定値)、日本の3倍に迫る数字となっています。オペラ座横の観光施設前。出勤時、ほぼ毎日中国人の団体観光客が入場を待つ様子を見かける。しかし、同時に中国はインバウンド大国としての地位も築きつつあります。外国人訪問者数では4位、国際観光収入ではついにフランスを抜いて3位、シェアを見た場合、外国人訪問者数では1980年には全体の1.2%だったのに対し、2013年は5.1%(フランス:10.6%→7.8%)となり、国際観光収入では1980年には全体の0.6%だったのに対し、2013年は4.3%(フランス:8.0%→4.7%)となり、フランスはもとよりどの国にとっても驚異的な存在です。 ■新たな戦略で巻き返しを図るかこのような現状に危機感を抱いたフランスは、年間外国人訪問者数を1億人に増やして同国が世界一の観光大国になるための戦略を立てようと、2013年からファビウス大臣の下に関係者が参画して会議を重ね、2014年6月に30に及ぶ具体的な方策を発表しました。この後、観光振興評議会の会合が繰り返され、前述のとおり、本年6月に最終報告書が取りまとめられました。「シャルル・ド・ゴール空港(フランス・パリの一番の玄関口である国際空港。)での訪問者受け入れの向上」「パリ-シャルル・ド・ゴール空港間の特急の整備、バス及びタクシー専用レーンの設置、定額タクシーの導入」「観光地の安全強化」「特定区域内商業施設の日曜日営業」「中国人観光客向けショートメッセージサービスの導入」「空港など観光で利用される場所でのWi-Fi無料化」など40に及ぶ提案が盛り込まれた最終報告書を確認したファビウス大臣は、第2の局面として、特に、デジタル技術、受け入れ、育成、投資の4分野で観光業を支援していくと述べました。一連の提案の中でも特に興味深いのは、「『ワインツーリズム』『山のツーリズム』『エコツーリズム』と、フランスが強みを持つ明確なテーマを持ったツーリズムを国際的に売り出していく」「フランス全土の観光目的地の認知度を向上させるため、20のエリアを選定して国際的に地方の存在を強調していく」という項目です。効率的な国際観光収入の増につなげるため、多くの外国人訪問者にフランスの地方に足を伸ばしてもらい滞在日数を(CLAIR メールマガジン 2015 年9月配信) 4 延ばすことが狙いということなのでしょう。 2012年に10億人を越えた全世界の海外旅行者数は、2030年には18億人に達すると見込まれていますが、日本に来る旅行者数が何も手を打たなくても増えることを意味しているわけではありません。日本においても、訪日外国人訪問者はいわゆるゴールデンルートに集中した観光がメインとなっており、国は魅力的な訪問地が日本全国にあることをいかに国際的にアピールしていくか、地方は地方の魅力をいかに発信して訪日外国人訪問者を地元に引き入れるかが課題となっています。フランスなど共通の課題を持つ国の今後の取り組みを参考にしつつ、引き続き国と地方自治体が協力して取り組む必要がありそうです。その他の参考データ:Direction Génerale des Entreprises「Le 4Pages de la DGE N゜ 45 Juillet 2015」及び「Mémento du Tourisme Edition 2014」日本政府観光局(JNTO)プレスリリース GOUVERNEMENT.frウェブページ(田中所長補佐 奈良県派遣)

http://www.clair.or.jp/j/forum/c_mailmagazine/20150929/126-1.pdf