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2015-09-30 13:14:00

深層中国 ~巨大市場の底流を読む 第71回レストランは中国人の結節点~景気低迷の中、外食産業が盛り上がる理由

経営・戦略 田中 信彦 2015年09月25日

 最近、上海で週末の夜に友人たちと食事をしようと思っても、まともなレストランが全然取れない。仕方がないので、先着順で案内するタイプの店に誰かを先に派遣し、順番待ちをさせることがよくある。こんなことは以前にはなかった。 

 株価の暴落や人民元の切り下げ、天津の倉庫大爆発など、このところ中国にはあまり良いニュースがないが、一歩街に出てみれば、レストランは大賑わいである。政府の「ぜいたく禁止令」で高級店は大打撃だが、代わりに都市部の中産階級を主要なターゲットにした店がどんどんできて、新たな隆盛の時代に入りつつある。今回はこの外食産業の新たな盛り上がりの背景にどんな変化があるのか、そのあたりを考えたい。

グッチが世界初のレストランをオープン

 上海の旧フランス租界のメインストリート・淮海路にあるショッピングモール「iapm (アイエーピーエム、上海環貿購物中心)」に今年7月、高級ブランドのグッチがレストランをオープンした。グッチは欧州や日本でカフェを運営しているが、フルサービスのレストランは世界初という。「1921 Gucci」(1921年はグッチの創業年)という名称で、面積約600平方メートル。料理はトスカーナ風のイタリア料理で、メニューや食器、ナプキンまでグッチのロゴが入っている。こう聞くと、おそろしく高い店ではないかと思うが、そうではなく、客単価はランチが150元(約3000円)、ディナーで400元(同8000円)ぐらい。価格設定からもわかるように、比較的カジュアルなイメージでこの店を打ち出している。 

 狙いは明らかで、落ち込みがひどい高級品市場から、より将来性のある新しい都市部の中間層に視線を転じ、「ワンランク上のおしゃれな生活」を発信しようということだ。中国の消費というと、高級品のぜいたく消費か、低価格品の安物市場かの二極分化と長いこといわれてきたが、世界のトップブランドはすでに次の新しい市場にターゲットを定めている。

2分歩くごとに一軒の飲食店

 中国レストラン協会が発表した「2015年中国餐飲(飲食) 業年度報告」によると、中国の外食産業の売上高は、27兆8600億元(約55兆円)で、日本のほぼ2倍強の規模。景気低迷と政府の「ぜいたく禁止令」の影響で、2012年以降低迷が続いていたが、2014年には対前年比9.7%の伸びと、明らかに復調してきた。それでも高級飲食店だけを見れば、まだ対前年比マイナス6.0%と落ち込みは止まっておらず、そのぶん中低価格帯の大衆飲食店の比率が高まって、消費額全体に占める大衆飲食店の比率が8割を超えた。 

 中国最大の商業都市である上海には、現在6万5000軒の飲食店があり、総売上高は2兆円を超え、2000万人の人口のうち100万人が飲食業関連で働いている。市内だけで売上高20億円超の外食企業が50社以上あり、飲食店チェーンのブランドだけで2000を超えると同報告は伝える。平均すると、2分歩くごとに1軒の飲食店がある計算になるという。 

 特に成長が著しいのが大型ショッピングモール内の飲食店で、上海市における過去6年の外食産業の売上高伸び率は平均約8%だが、ショッピングモール内の飲食店だけを取れば、売上高はこの間、平均24.9%増と3倍近いスピードで成長している。グッチのレストランがある「iapm」も飲食に力を入れている代表的なショッピングモールのひとつだ。中国のショッピングモールは午後10時閉店のところが多いが、「iapm」は午後11時まで営業、これもより都会的なライフスタイルの若い層を取り込む戦略への転換を表したものといえる。