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2019-08-24 21:59:00

レストランが欲しい欧州野菜、都市農業の商機に
編集委員 吉田忠則

食の進化論
コラム(ビジネス)
2019/8/24 4:30
情報元
日本経済新聞 電子版

 

 
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埼玉県朝霞市にあるイタリア料理店「ラグーナロトンダ」を訪ね、ナスのグラタンを試食した。グリルで焼き目をつけ、オーブンで加熱したナスは、実がほぐれずにしっかりとしていて、しかも食感は軟らかい。モッツァレラチーズから出た水分に、アンチョビーのうま味が加わった濃厚なスープがしみ込み、ナスの味を引き立てていた。

 

 
 
 
 
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世界には、日本人があまり知らない野菜がたくさんある。赤や黄色のカラフルなパプリカは今やふつうに見るが、細長いロングパプリカはどうだろう。真っ白で繊細な白ナスやずんぐりした形のオクラのダビデの星、切ると赤い渦巻き状の模様があるビーツ――。激辛トウガラシのハバネロは名前は知られていても、イメージは外国の食材だろう。

そんな珍しい野菜を栽培している生産者グループが「さいたまヨーロッパ野菜研究会」だ。ラグーナロトンダで試食したグラタンに使われていたのは、大ぶりの丸ナスのフィレンツェ。「ヨーロッパ野菜」は野菜の厳密な分類ではなく、イタリア料理やフランス料理などで使われているのに日本ではまだ定着していない野菜のことだ。

 

 
 
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発端は今から十数年前。日本のレストランのイタリア料理は、現地の野菜が手に入りにくいため、似たような国産野菜で代替しているケースが少なくない。ラグーナロトンダなどを運営するノースコーポレーション(さいたま市)は本場と同じメニューを実現しようと思い、国内の調達先を探した。その結果、種苗大手のトキタ種苗(同市)がイタリア野菜のタネを扱っていることを知った。

課題は、需要があるかどうか不確かなため、作ろうとする農家がほとんどいなかったことだ。そこで、応援団として加わったのが、さいたま市産業創造財団だ。市の外郭団体が参加したことで、農家に広く働きかけることができた。最初に参加したのは市内の若手農家。ノースコーポレーション社長の北康信さんが音頭をとり、さいたまヨーロッパ野菜研究会が2013年にスタートした。

 

肉厚で甘味が強いロングパプリカ(さいたま市)

肉厚で甘味が強いロングパプリカ(さいたま市)

運営を軌道に乗せるうえで、2つのハードルがあった。1つは栽培方法だ。立ち上げ時からのメンバーである生産者の小沢祥記さんは「とりあえず栽培することはできた。でも本当にこの形、この大きさ、この味でいいのかがわからなかった」とふり返る。見たこともない野菜を育てるのだから、当然の戸惑いだろう。この問題はトキタ種苗やシェフの指導を受けることで、克服した。

さらに立ちはだかったのは、販路の確保という壁だ。発起人のノースコーポレーションは自ら運営する複数のレストランで仕入れてくれたが、それだけでは栽培を大きく増やすことはできない。そこで農家が他の売り先を探してみたものの、受発注や入金などの作業の煩雑さに立ち往生した。配達も負担になった。そんなときに食品卸の関東食糧(埼玉県桶川市)がチームに加わり、野菜を作る側と使う側の間をつなぐルートを確立できた。その結果、売り先を飛躍的に増やすことに成功した。

 

切ると断面が星形になるオクラのダビデの星(さいたま市)

切ると断面が星形になるオクラのダビデの星(さいたま市)

現在、生産者は13人に増え、売り先のレストランは埼玉県内を中心に1200軒に達した。中には和食店や中華料理店もあり、欧州料理以外のレストランも珍しい野菜でメニューの幅を広げている。生鮮食品宅配のオイシックス・ラ・大地も取引先だ。

農産物の生産や加工、販売などを一体的に運営することを6次産業化と呼ぶ。ただ、農家が自ら加工や販売を試みるパターンは、ノウハウ不足でうまくいかないことが少なくない。これに対し、さいたまヨーロッパ野菜研究会は各分野のプロが緊密に結びつくことで、事業の拡大が可能になった。卸の関東食糧などもチームの一員となって、一つの流通の仕組みをつくったとみることもできる。

 

 
 
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さらに特筆すべきは、都市近郊の農業の可能性を示したことだ。森田剛史さんはもともとコマツナを中心に栽培していたが、大産地と張り合ってこれまで通り営農を続ける難しさを感じていた。たくさんの従業員を雇い、広大なハウスで栽培する産地に、価格面で対抗するのは難しいからだ。ただ、都市近郊には特色のあるレストランが多いという強みがある。これを商機として形にしてくれたのが、多様な欧州野菜だった。

閉塞感が漂う日本の農業だが、さいたまヨーロッパ野菜研究会のように外食など食材を使う側と新たな関係を築けば、活路を開くことができる。

 

 

 

吉田忠則(よしだ・ただのり)
農政から先進農家、スマート農業、植物工場、さらにカリスマシェフや外食チェーンなど「食と農」に関するテーマを幅広く取材してきた。著書に「見えざる隣人」「農は甦る」「コメをやめる勇気」「農業崩壊」。中国の駐在経験も。Twitterは@nikkei_yoshida