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古本屋日誌
シンガーソングライターの中島みゆきは色んなエッセイ集を出しているが、その中でも新潮社から1984年に出した『伝われ愛』はちょっと変わった本だ。
冒頭から、松山千春から電話がかかってきた話なのだ。
千春が「おう、真面目に働いてっか?」と聞くと「そぉりゃあ、もう。あたし、ス・タ・ーだからあ」
『なあーにがスターだよ。おまえ、知ってるか?俺のスケジュール。聞きたいか?東北・九州とんぼ返りだぞ」
てな感じで親しげな会話が続いて、千春が「お前、オールナイトやんないか」とオールナイトニッポンのディスクジョッキーを勧めたとあるのだ。
この後も中島がオールナイトのスタジオに入ろうとすると「『千春に手ェ出さないで!』女の子が、耳もとで叫ぶ。
昼間、街なかで、駆け寄ってきて『あなたのファンをやめます』と泣いた中学生の女の子と、同じくらいの年頃だろうか。」
という話を書いている。
中島はこんな話は聞きたくないという文脈で書いているのだ。
中島は、松山のことが好きで、なんとかしたいと考えていたわけだが、そのへんをエッセイに書いてしまうというのは、書かれた男の方はどうなんだろうか。
亡くなってしまったやしきたかじんが、テレビで松山千春と話すことがあって、
「お前、中島みゆきと話出てたよなあ。」と振ると
「そう、東京のコンサートに中島みゆきの名前で大きな花束がきたり、スタッフにあれこれ差し入れしたりしてたな」
「それで❓」
「俺のコンサート終わってみゆきがやってきて、バーで飲むことになったよ」
「中島て、かなりかわいいやろ、それでどうとかなってまうんちゃうんか❓」
「いや、だから必死やったよ。俺はもう日本経済の話とかまでしたよ」
「なんでや❓」
「そりゃあ中島みゆきだよ、あの、ややこしくなるにきまってるからな」
今回の芥川賞の候補作の一つ尾崎世界観の『転の声』(文藝春秋)を読んでみた。
以前は受賞が決まってから単行本になっていたが、(だから初版が何万部とか出ていて、プレミアはつかない)このところは候補作の段階でもう本になっている。
内容はコンサートのチケットにプレミアが付いて、転売されることが、そのアーティストのスティタスとなっているという話だ。
合同ライブで自分の出番は観客も少なく、ノリも悪い。
それを目の当たりにしながら、楽曲を歌い続けるストレスは大変なものだそうだ。
それで前売りを完売させ、プレミア価格が付いていても、是が非でも手にいれたいコアなファンを増やしたいと思うわけだ。
最後にはチケットは売るが、無観客でライブをするというわけのわからない話になる。
俺としてはアイデア倒れのつまらない小説にみえたな。ただライブ中の焦燥感を表現する比喩は面白かった。そこだけで作品を構成してもらいたかったよ。
先日、阪急の六甲近所のお宅にお邪魔して、蔵書を見せてもらった。
ここは坂の上に神戸大学があって(山口組の本部もあるのだが)いい本を持ってる人がいるのだ。
それにしても駅の北側にはバスやタクシーの発着するロータリーがあるのだが、そのわずかな平らなスペースを除いてものすごい坂が続いている。
神戸の人は何が嬉しゅうてこんなややこしいところに住んでるんやろ。
雪が積もったら、延々と下りのゲレンデとなって、JRの六甲道駅を経て、さらにダラダラと阪神電車の新在家までスキーで滑り降りられるだろう。
その北側にお宅はあって、ご主人(75)が亡くなられたので蔵書を見てほしいということなのだ。
奥さん「もうね、主人のこれはね、病気みたいなもんですわ。
こないこないして、こうてきよった本を本棚に並べられへんようになってもうて、畳の上にね、横に積み上げてまっしゃろ。
そないなことしたら、どこに何があるやらわからんようになってしもて、また本屋でこうてきよりましたんや」
「奥さん〜それはようあることなんですけど、頭痛いこってすな。
でもこのへん積んである本見してもうたら、大江健三郎のがようさんおますな。『死者の奢り』(文藝春秋新社)は初版で、上に油紙もかかった状態で、あんまり見たことないいい本です。
それから『夜よゆるやかに歩め』(中央公論社)は私もほとんど見たことがない珍しい単行本ですよ。初版だし、佐野繁次郎のカバーもきれいだし、上に油紙もついたままというのも好印象。」
「そうなんや、うちは本のことは何もわからんさかい」
「大江はね、私が一番好きな作家なんです。
紫式部に唯一引けを取らない1000年に1人の作家や思うんですわ。そのコレクションで、これだけいい本集めてはる方はなかなかいませんよ。ご主人はすごいセンスのいい方や思いますわ」
「そうですやろか〜」
「そら間違いない。だってほらこの『死者の奢り』やけど、裏に鉛筆で「初版、300円」て書いてあるやろ。この珍しい本が300円で古本屋に並んでたのは昭和30年代半ばだけやから、その時からご主人は大江の素晴らしさをチャーンとわかってはったわけよ」
「そうですやろか、そやったら、嬉しいわ〜」
「他にもこのへんの野呂邦暢の単行本は帯も付いてるし、初版のうえにコンディションもええので欲しいゆう人がようさんおる思いますで。ほんまにセンスのいいお人やった」
「そうですか、そう言うてもうたらうちもなんやら褒められてるような感じになってきますわ」
今日から花隈の神戸古書会館で小規模な古本市。
暇なので行ってみた。
ここは阪急電車のすぐ北側、モダン寺のねきにあって、木造二階建ての今では珍しいバラックで、地震で倒壊しなかったのが不思議なくらいの古い建物だ。
一階には神戸の古書組合のいろんな掲示がたくさん貼ってあって、それらを眺めるのが楽しい。
まず、役員一覧、さらに、古書会館の鍵は誰それと誰それが持っているから、必要な際は借りて欲しいとか、用が終わったら鍵は直ちに返却して欲しいなどの注意書きもある。
会館を使う際に冷房を入れたら、1日の場合は800円、半日なら400円徴収するなどというのも貼ってある。
他には古本屋同士の交換会で入札できる札の説明(金額によって札の数が違う)もある。さらに交換会でのルールの説明もある。
なんでも、出品する本のコンディションはキチンと書くように❗️、線引きがあるとか、水濡れがあるとか、ページの欠損があるとか、いくつか、註記すべき内容が列挙してあって、「これらが守られない場合は、値引きや返品の対象になる」
「これは神戸だけでなく、近畿全体の古本屋組合の取り決めだ」とも書いてある。
さらに「印象」で本の状態を説明するのは認めないともある。
聞いた話では組合の交換会では縄でゆわえた20〜30冊の本に封筒が付いていて、その中に買いたい金額を書いて入札するのだそうだ。俺はやったこともないし、やりたいとも思わないが、その際一冊一冊のコンディションを確かめる時間はないのだろう。
出品してる方も騙してやろうとは思ってないはずだが、20冊、30冊てな量になるから当然チェックミスも起こるだろう。
喜び勇んで落札した古本屋が、チェックしてみたら線引きがたくさんあって「これで5万はおかしいやろ‼️」と問題になるケースもあるのだろうよ。
また新しく古書組合に加盟した古本屋の名前と責任者名も張り出してある。
みつづみ書房とか、四つ目屋とかの名前があるが多くは店舗を持たない、通販専門の店だ。
掲示の話はさておき、この古本市は目録も出していて、30ページくらいの小冊子と、オールカラーで大判の写真版目録の2種類だ。
ここの目録は伝統的なしきたりを純朴に守っていて、本のコンディションなんかは書いてない。
書名と著者名、初版とかの説明に値段というシンプルなもので、客はそのわずかな記述から欲しい本の状態を想像しあれこれ妄想を膨らませるのだ。
NHK大阪放送局が出した「JOBK70年」という大判の回顧録を入手した。
その中に1964年の10月10日のことが書いてある。この日は東京オリンピックの開会式であり、またタイガースとホークスの日本シリーズ第7戦でもあった。
しかしこの本によれば、日本中がオリンピック熱に冒されていて、民放も含めて、テレビで日本シリーズは放送されていない、したがってNHKにも画像が残ってないのだそうだ。
確かにオリンピックの熱気はあるんだろうが、その頃のタイガースはジャイアンツ相手でないと甲子園を満員に出来なかったから、ホークスとの試合では盛り上がりに欠けていたことも事実だ。