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古本屋日誌

2023-11-30 21:44:00

先日奈良の生駒に行ってみた。

 

ここは鶴橋から快速急行に乗ったら、もう次の停車駅で、たった15分くらいで着いてしまう近さだ。

 

 

若い頃は大阪の中心部で暮らしていても、結婚して子供ができると、広い部屋を持ちたいとか、緑のあるところでのびのびと育てたいとかで奈良方面に宿替えしたり、家を出る買う人が出てくる。

 

 

生駒や学園前、奈良市内なんかはそういう人たちがたくさん住んでいる場所だ。

 

 

それなりに余裕のある人も多いので、いい本が集まる。

 

 

だから、古本屋もたくそんあって、店内にはなかなかお目にかかれないような珍しい本が並んでいたりもするのだ。

 

 

でもブックオフの店舗以外は皆小さな店で、あまり集客しているようには見えないのは不思議だ。

 

 

昔からずっとそこにあるお店で、棚にはたくさんの本が所狭しと並んでいる上に、通路にも雑然と本が積み上がっている。

 

 

俺みたいな年代の人間には「掘り出し物があるんちゃうかな」と心を揺さぶられる風景なんだが、そんなことを思わない人も多いわけだ。

 

 

もっと大きなスペースで、明るく、椅子やテーブルも備えてあって、座り読みができて、欲を言えば、美味いコーヒーやケーキなども食べられて、のんびり本が読めたり、話ができたりするような古本屋ならいいよなあ。


2023-11-29 20:51:00

OSKは今年で、創立100周年となった。

 

元は松竹の経営だったが、近鉄が引き継いだのはいいが、結局放り出して苦難の道のりだったよな。

 

 

10年前の90周年の時に、大判の記念誌が出た。そして満を持して今年、100周年記念誌が出た。オールカラーで350ページくらいあって素晴らしい。

 

 

その中に1933年のストライキの話がかなり詳しく載っている。

 

 

当時の花形スター飛鳥明子がリーダーとなって、舞台を放棄して(つまりストを打ったわけだ)高野山に籠ったやつだ。

 

 

飛鳥は絶大な人気を誇っていたのだが、この争議の責任を取らされて、退団している。

 

 

しかし同時期に争議を引き起こした東京では、やはり指導者だった水の江瀧子を解雇しようと会社側は画策したが、その人気のために諦めざるを得なかった。

 

 

それにもかかわらず、何故大阪では飛鳥明子がパージされてしまったのか不思議だったのだ。

 

 

この『100周年記念誌』によれば、会社側は、楽屋に待機していた50人に及ぶ劇団員を呼びつけたのだが、その途中で争議団の幹部スターたちがやってきて20人ほどを引き抜いてしまった。

 

 

残りの30人くらいが、なんとか会社に出向いたところ、「争議に同調しないように」釘を刺されたのだが、それでも20人くらいが争議団の方に行ってしまったとあるのだ。

 

 

これは経営者にとっては赤恥をかかされたようなものだ、その怒りが飛鳥に向いたのではなかろうか。

 


2023-11-28 11:52:00

うちの店がある京阪電車萱島も、元々は寝屋川の自然堤防に出来た集落だ。

 

乙巳の変より前は、この自然堤防より南側は広大な河内湖が広がっていた。

 

 

そのため今も水路がたくさん残っているし、暗渠化されたところも容易にその痕跡を辿ることができる。

 

こういう「いじ」の研究では大阪の千林で、ずいぶん前から調査がされていて、その成果が書籍化されている。

 

しかしなんといっても圧巻は東京での研究で、このほど実業之日本社から本田創の、『東京暗渠学、改訂版』が出た。

 

 

これはオールカラーで300ページ近くもあって、尾根と谷で構成されている関東平野の埋もれた川の全貌を視覚的に辿ろうという研究書で、大きな地図も付いている。

 

 

埋め立てられた川だとか、誰も見向きもしない暗渠を調べるという、こういうどうでもいいような研究に力を注ぐ人がいるというのは興味深い。

 

 

これまでは、埋め立てられる前の川の写真や、その周りの街並み、あるいは失われた橋梁にフォーカスした研究書はあった。

 

 

大阪では伊勢戸佐一郎が『埋もれた西区の川と橋』を出して、今はもうない川筋の街並みを詳述している。

 

 

しかし、この本は街並みでも、橋でもなく、コンクリートの蓋に覆われている流路を考えてみようというものなのだ。その中に面白い話が載っている。

 

 

中央線の信濃町近くの鮫河谷にはもと巨大なスラムがあったという。(今の赤坂御用邸の近くだ)

 

 

ここにスラムができた理由として「夕刻になると残飯屋が士官学校(陸軍)の残飯を桶に積んで売りに来た。それが彼らの主食であったという。」

 

「昭和初期の段階でも先の鮫河橋尋常小学校ではまだ生徒の4分の1が残飯を主食としていたという」

 

 

残飯が主食というのは驚きだが、それをこうてるわけだから、何か正業に就いてはいるのだろうね。

 

士官学校の食事だから、かなりいいもんだろうけどね。

 

それを主食にしてる連中がいるわけだから、帝国陸軍とスラムの民は共存共栄みたいな関係にあったのかもしれない。


2023-11-27 10:27:00

『文藝倶楽部』という雑誌があって、時折臨時増刊号を出して、地域特集をやっていた。

 

明治43年に大阪と神戸の号が出た。(そんなに珍しい本ではなく、今でも5000円くらいで手に入る)

 

 

大阪の家庭の特色(風紀が乱れているという話)大阪人の服装の話(お出かけする時はきちんとしているのに、普段はだらしがない。夏なんか薄着で肌が透けて見えるから不倫の一因になってるという)があるほか、いわゆる「食い倒れ」のことも書いてある。

 

 

京都は着倒れなんだが、大阪は食い倒れだと言われている、との内容なんだが、具体的にどう贅沢なのかは書いていない。

 

 

「昔は食い倒れだけだったが、このところは着るものにも贅を尽くして、大阪も着倒れになってしまっている」とあるだけなのだ。

 

 

森田たまの『もめん随筆』にある通り、実際の大阪人の食生活はかなり質素だったのだと思われるのだ。


2023-11-25 15:04:00

えべっさん古本市で大江健三郎の『夜よゆるやかに歩め』を見た。

 

 

佐野繁次郎の装丁、長編小説なんだが、『青年の汚名』ともに、封印されている。

 

 

『青年の汚名』の方は文春文庫に入ったが、品切れとなり、新しく刊行された『大江健三郎全小説』にも入っていない。

 

 

『夜よゆるやかに歩め』はそもそも文庫になっておらず、『全小説』にも収録されていない。

 

 

その理由は『青年の汚名』の方は大江自身が、できの悪いものだと考えていたからのようであり、『夜よ』の方は読んだこともなく分からないな。

 

 

古本市での値段は8000円だった。

 

 

他には『原色牧野植物大図鑑』が8000円で売っていたな。これはこの前の朝ドラで人気が出た本だな。ただこの後いろんな新版が出ているので、珍しいという感じではない。

 

 

村上春樹の『1973年のピンボール』初版、帯が7000円で売っていた。初期の春樹の本は人気がある、文庫でもいくらでも読めるのだが、初版で読みたいというファンがかなりいるわけだ。

 

 

小田実全小説シリーズの『現代史』もあった。角川文庫では全3巻のやつだが、2段組にして1冊に収録してある。1960年ごろの大阪の金持ちの家庭の様子をあれこれ書いた小説で、風俗小説としても面白い感じで、箱入りで1400円だった。小田はたくさん小説を書いてるよね。

 

 

谷岡ヤスジの『アニマルぞろぞろ』全2巻もあった。かなり古い本で、どうしても焼けを避けられないのだが、比較的きれいな状態で、3700円だった。

 

 

人気の本では『あらかじめ裏切られた革命』(単行本)が8000円。これは文庫本も出ていてかなり人気がある。今の時代に革命云々はどうかと思うが、マルクス主義の研究者が買うのだろうか。

 

1970年の『ワンダフルコウベ』が3300円。これは神戸のガイドブックで、神戸新聞社が1960年代から毎年の出している。

 

藤本義一の『全調査 酒、女、女の店』が22000円、これは『ワンダフルコウベ』が扱わない夜の風俗店も含めたガイドブックで、貴重だ。今は大阪には見られない置き屋などの記述もある。

 

1968年の雑誌『旅、変わりゆく大阪、神戸』が1000円だった。

 

今はもう廃刊となった雑誌『旅』は10年に1回くらいのペースで大阪特集を組んでいて、これはそのなかの一冊。

 

写真やトピックスが楽しめるほかに司馬遼太郎、難波利三、田辺聖子、藤本義一、小松左京といった文人の興味深いエッセイも読めるのだ。


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