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古本屋日誌
大晦日で今年も馬齢を重ねるばかり。
もともとAmazon、ヤフオク、メルカリなどの通販サイトに、店舗をもつ古本屋は押されていた。かてて加えてこの2年のコロナ騒ぎが重なった。
通販は古本に限らず隆盛を極めて、緊急事態なるものが終わった現在でも売り上げはかなり多い。
店舗ではかなりのお客さんが店の中でスマホを操作してAmazonの価格を調べるのみならず、店員の前でも臆することもなく
「この本はAmazonが安いから買わんとこ」と聞こえるような声でいう。
客からしたら(せっかくこの店までわざわざ来てやったのに、値段が通販より高いのは不満だよ❗️)ということなんだろう。
しかし店側は(近くのお客さんしか来てくれないから、値段も安くしているんだよ。本を実際に手に取って見てもらえるようにしてるんだからな。だいたいこの店を運営するのにどれくらいの金がかかってるのか分かってるのか❗️馬鹿野郎❗️❗️)と思っていることは間違いない。
あの天牛書店ですら、通販での売り上げの方が店舗でのそれよりずっと多いと聞く。
会社の経営からしたら通販に重点を移した方が儲かると判断するのではないかなあ。それでもとにかく店舗を維持するのは
❶店舗があった方が買い取りが増える。
❷昔から店舗を持っていて今更やめるのは面倒だ。
❸客が買い取って欲しいと持ってくる、通販では売れない大量のデッドストックは店頭なら売り捌ける。
❹店頭にやってくる笑える客を見るのが楽しい。
このような理由によるものだろうと推測される。
白水社から出たバイセルの「ブックセラーズダイアリー」にはスコットランドの本屋事情の話がある。
「書店を閲覧室として利用し、買うのはネットという客が増えている。それが特に顕著なのは新刊書だ。ほとんどの場合定価よりアマゾンの価格の方が安いからだが、古書の場合はそうでもない」
とある。
日本でも大体おんなじだよな。新刊書のほとんどは少し待てばアマゾンで定価よりかなり低い値段で新品同様のコンディションの本が買える。
だからジュンク堂などの大型書店で現物を見て気に入ったら、早速Amazonで値段を調べて発注する人がたくさんいる。
ただ「今すぐ、これからその本を読みたい❗️」という欲求もすごくある。
確かに通販で買えば500円とかの節約にはなるんだけれど、家に届くまで数日はかかってしまう。
その程度の金だったら構わないから、今すぐ読みたい❗️と考えるお客さんもまだまだいるのだ。
文藝春秋から田辺聖子の18歳の時の日記が出ている。
亡くなってから姪が彼女の自宅を整理していたときに発見したもので、昭和20年の4月からのものだ。
日記帳の欄外にはすでにいくつかの短編小説が書き込まれていてそれも併せて刊行している。
興味深いのは5月の空襲で死んだ人を地中から掘り出す作業のシーンだ。
空襲から何日かたった地面の下に死体が埋まっていることがわかり、付近の住民が集まって掘り出すのだが、出てきた死体は傷つき、切り裂かれて血肉したたる無残なものだった。
田辺はそれを目の当たりにしてそのむごたらしさに目を背けて茫然としている。
ところが近所に大人たちは
「あれは焼肉みたいやな❗️」とか
「こんがり焼けて立派なもんだよ❗️」と笑いながら言い合っているのだ。
田辺はこれを聞いて仮にも戦争で死んだ人を悼むでもなく、笑い者にするとはと憤慨するわけだ。
これはプレグマンが「希望の歴史」で書いていたことだ。
ナチスが苛烈なロンドン空襲を仕掛けて市民の戦争への意識を喪失させようとしてが、事態はまるで逆でむしろ戦意は高揚したというのだ。
日本でも同じようなことが起こっていたのは間違い無いだろう。
うちもたくさんの本をAmazonに出品して販売している。
販売力があるからだ。
Yahooオークションもたくさんの本が出品されていて、その集客力はAmazonにおとらない。
ただ問題はヤフオクは出品時何枚かの写真を自ら撮影し、書名を打ちむ必要がある。
落札後、発送時もAmazonのように即座に発送先住所、宛名が印刷できる仕様になっていないので、いちいち書き写す必要がある。
ただこの二つの通販サイトには売れない商品の価格を自動で最安値に合わせる機能が付いていて、希望すればいちいち手動で価格を下げていく手間を省けるようになっている。
ショーンバイセルの「ブックセラーズ・ダイアリー」はスコットランドの古本屋店主の営業日誌だ。
なんでも世界12ヵ国で翻訳、出版されているという。
面白いのは出入りする客のことだ。
ある日店主のバイセルが客から買い取った8箱の本の一杯詰まった箱を店の前に積み上げていると、ひとりの男性客が
「その箱にも本が入っているのかい❓」と、まるで卑猥な秘密でも暴くみたいな顔つきで訊いた。
そうですよ、と答えると、その男は大声で、こちらが不安になるほど長い間笑い続けた。
とある。これは2004年の話なんだが古本屋が本の入った箱を積み上げるのがどう面白いのか、不思議というほかない。