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古本屋日誌

2020-09-30 21:38:00

先日他界した父親は大工で、祖父も宮大工だった。個人商店ながら工務店を経営していたから、私にも跡を継いでもらいたいと言う気持ちはあったようだ。

ただまああまりにも不器用で、運動神経がゼロであるために親の役目とは言え、無理なものは無理とさっさと諦めていた。

父親個人としては「勉強なんかしてもせがれでは大したものにはならないし、金のうえで苦労ばかりになるだろう」みたいな感覚はあったようだ。

中野孝次は親は千葉のそれなりに名の通った建設会社の御曹司で、親からは「勉強なんかせんかてええ」と言われているにもかかわらず、千葉の田舎への嫌悪感や親への反発というありがちな動機で受験勉強にいそしんだ。

浪人までして東大に入りブリューゲルなどの著作をものしたが、晩年は「清貧の思想」やらに取り憑かれて自分の前半生を否定するような言動を繰り広げていた。

田舎でつつましく生活すると言ったところで、仙人ではあるまいに、移動手段がないから車も必要だし、電気ガス水道などのインフラも高い以上に資源を投入して敷設されている。通販で生活するにしてもそれ自体大量の化石燃料を消費する生活スタイルで全く「清貧」なんかと程遠い暮らしになってしまう。
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2020-09-29 12:14:00

先日テレビで「近頃河原達引」の堀川猿廻しの段をやっていた。錣太夫や呂太夫なんだが後半は越路太夫の1970年の美声を楽しむこともできた。

恋路を邪魔する侍を河原で殺してしまった伝兵衛が二世の契りを交わした遊女おしゅんの実家に忍んでくる。

おしゅんの母親と兄はひょっと伝兵衛がおしゅんと心中をたくらんでいるのではないかと心配して、おしゅんに「去り状」を書かせ伝兵衛との仲を終わらせようとする。

夜中案の定伝兵衛が忍んできてさて「去り状」を突きつけるのだがその中身は深くちぎった伝兵衛とあの世に旅立つ覚悟だというもので皆ビックリしてしまう‼️

普通に考えたら自分の娘が咎人の男と心中するなどとバカなことを言っていたら血相変えて止めるだろう。

しかし母親は「伝兵衛さんの方が娘を手にかけようとすると思っていたが、反対に娘がその覚悟だったんだなあ」と言い出しさらに

「考えてみたら遊女の身であっても契りを交わした義理がありました、それは大切だ」などと心中を認めてしまう。

さらに二人の門出を祝って猿廻しの兄が二匹の猿に青と赤の着物を着せて三三九度の真似事からあれこれ踊らせるシーンがある。

赤い盃を飲み干す所作の後猿が盃を頭に乗せ合うといったこっけいな仕草もあるがそのあとは女に扮した猿が仰向けになってしっぽり濡れていくてな流れになっている。

しかしなんといっても女親がどうしたことか一度契りを交わした仲であればたとえ遊女の身であったとしても、男と添い遂げなければならないし、罪を犯したなら心中すら厭わないという義理を重んじる価値観で、誠に理解に苦しむ。

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2020-09-28 22:10:00

25日に父が他界した。

長らく肺気腫に苦しんでいて、先月下旬には酸素マスクのリットル数をマックスにまで上げないと十分な呼吸ができない状態となった。病院からも「いつでも来れるように待機していてください」と言われて病院近所の妹のマンションに泊まり込んだりもした。

その後幸いなことに、血中の二酸化炭素濃度も大きく低下して酸素量も抑えられるようになり、口からプリンを食べられるまでに回復したが、やはり難しかった。

瓜破で火葬してもらう間近くの茶屋で家族で食事するように段取りを組んであった。宴会場には正面に遺影を設置する祭壇のようなのも組んであって、昔でいう芝居茶屋みたいなもんだった。芝居茶屋は幕間にみんなで移ってきてどんちゃん飲み食いするためにあるけど、これも似たようなものだろう。

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2020-09-27 20:24:00

百田尚樹の「夏の騎士」は人は見かけによらないことがあるという話だ。

小学校のグラウンドに隣接する鬼ババと言われていたおばあさんは大東亜戦争で3人の息子に先立たれた身でありながら健気に生きている。

その子どもの中で唯一生き残った四男は母親からは「極道」と呼ばれていて、いかにもヤクザ者風情なんだが、最後殺人鬼に子どもたちが襲われた際に立ち現れて助けてくれる。

新聞配達員は3人の小学生が自転車をパンクさせて難儀しているのを見ると親切に自分の持っているグッズで応急処置をしてくれるのだが、実は小学生を二人までも手にかけた殺人鬼だ。


クラス1の美女はみんなの前で我が身に忠誠を誓う変な男子3人組にも優しく対応して受け入れてくれるレディに見えるが、その実取り巻きの男子にそそのかされて、中学受験の全国模試で県内100位以内に入るようにと無茶な要求をしてくるし、教生の若い大学生と車の中でイチャイチャしている。



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2020-09-26 21:58:00

山田稔が昭和56年に河出書房から出した」コーマルタン界隈」と1刷、帯付きを手に入れました。是非お求めください。
山田がパリで生活している模様を仔細に綴った小説集で、生活の中の些細な出来事にこだわり、あれこれ空想をめぐらし、現実とのギャップを楽しむといったいった内向的な主人公の面白さが伝わってくる。
山田は当時コーマルタンの集合アパートの6階に住んでいたが、壁が薄かったり、無遠慮な隣人の言動があったりして朝5時ごろから騒音に悩まされた。
隣人が起きて咳をしながらトイレに入る音が聞こえてきて、いつまでも慣れることがない。

これを山田は

「人間が発する音には、どんな微かなものでも、車やゴミバケツなど無機物の立てる物音とは異質の性質、霊性とでも名付けたくなる不思議な力がこもっているのだろうか」

と表現している。誠に個がバラバラに生活している現代人らしい悩み事で誰しも思い当たる節があるに違いない。

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