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古本屋日誌

2019-01-31 00:04:00

橋本治が死んだ、まだ70だというから残念だ。

橋本は今の50代くらいの人にかなり影響受けている人がいる。「江戸にフランス革命を」や鶴屋南北の研究で知られる。しかし何といっても稀代のいちびりで河出書房から出た「桃尻語訳 枕草子」は面白かった。清少納言をギャルのように捉えて「春ってアケボノよ❣️」てな感じで現代語訳し、しかもとっつきにくい平安時代の有職故実を楽しいイラストで身近なものにした。私は寝殿造りの館のベッドのねきに一対の狛犬が魔除けで置いてある橋本の挿絵を見てびっくりしたことがある。狛犬は神社の神さんの前にいるから貴族は神さんみたいなものかと思ったわけだ。
橋本はエッセイも面白く河出から出た「ロバート本」は100本もの短い論考が収めてあり例えば芥川龍之介の杜子春を批判して「こんな子どもだまし」と小気味よくば倒し、もちろんこの小説には支那の原典があることも知っているから「そんな程度のもので創作だとお茶をにごし」と 筆は伸びていく。今でこそ芥川のこういう今昔物語や世説新語を元にした作品を「これで創作と言えるのか?」と批判するひとはいるけど橋本はずいぶん前から指摘していたわけだからあたまいいよねえ。


京都の古本屋で驚かされるのは文庫本、新書本の扱い方だ。店の中に置かず店外の道に面した棚や平台に適当に詰めてある。それも1冊50円や100円の擦り切れた新潮文庫やカバーのない古い岩波文庫なんかではなく、それなりに人気があって値段もついているような講談社学術文庫やきれいな岩波文庫、ちくま文庫が無造作に店の外の棚に詰め込んである。
河原町通に面しているような老舗のお店はその傾向が高く「キクオ書店」など店内に入るたくさんの洋書や京都関係の本や図録を置いているが、文庫や新書は全て店の外の棚に詰め込まれている。
こういう本屋を見ていると大学の専門家のためだったり、あるいは稀覯本を目を皿のようにして追い求める古書ハンターなんかを対象にしているんだな、骨董品屋みたいなものだと感じる。専門書と新書などの啓蒙書は私は何の違いもないと思っている。専門書は論証過程が細かく記されているが、そのような試行錯誤に我々が付き合わなければならないいわれもないし、必要な結論がそれなりの脈絡をもって書いてあれば十分だと思う。



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2019-01-30 00:18:00
月曜日に飛び込んできた天牛堺書店の破産は本当に衝撃的だった。
堺筋本町駅に隣接する船場センタービルの3号館の一階に船場店があって、ここは古本だけを置いている店舗とサラ本と古本を合体した店舗に分かれていた。
古本専門の店はプレミア写真集、徳川時代の大阪の地図、大阪本、落語の本、戦前の文学書、図録、マンガのセットに加えて4日ごとに一新する均一本の台があって、サラ本と合体した店舗には雑誌、話題の本、フランス書院文庫、その他の文庫本などが新刊で並んでいるのに加えてサンリオSF文庫、平凡社ライブラリー、ちくま学術文庫、講談社学術文庫の古本コーナー、文庫、新書、マンガの均一台があった。
ここで例えば木山捷平の旺文社文庫「耳学問、尋三の春」岩波文庫の「常山紀談」なんかをそれぞれ250円でこうて地下二階に降りてエレベータのすぐ近くにある蕎麦屋「かなん」でカレーそばを食べる。そば粉の味がしっかりしている肉カレーで、おにぎりを頼んだらうまいだし巻きも付いてきて言うことなし。
もっと腹が北山の時は少し通路を二号館のほうに歩くと有名なシュウマイの「一芳亭」があってたっぷりの酢豚にごはん、シュウマイ、スープのついた定食を食べればよかった。さらにその横のサテンは地下通路にテーブルと椅子が置いてある席があって、2時から5時まではサービスタイムでコーヒが170円で楽しめるし、コーヒーゼリーにアイスクリームの乗ったやつが250円で食べられて、今こうてきた木山捷平をじっくり読みながらくつろげる。
先週の金曜日に船場店に出向いて忙しそうな店員さんに「前はこのお店の中で本の値付けをしてましたよね?」「そうなんですわ、でもね、この頃は本部のある古本センターで全店舗み回す古本の値付けをしてしまうので、船場店では送っきた本を並べるだけになってるんですわ」「まあその方が気楽ゆうたら気楽ですよね」というやりとりをした。

2019-01-29 00:03:00

天牛堺書店の破産は晴天の霹靂で何も手がつかない。
最盛期には20店舗を数えていたがこのところ10店舗前後となり半減してしまったが、リストラで不採算店を切ってスリムになってかえって良かったのかなと思っていた。

先日も堺東高島屋店の店員さんと話して「前は撤収作業も1時間くらいでやっていたのに今はなあ1時間半かかんねん」というので「まあ今の子は重たいダンボールと格闘するのも気合入らへんやろし30分余計に金払わなあかんのはどうなんやろ思うかもしれへんけどなあ、そんなん言うとったら嫌われるで」というような感じだった。破産は店員にも寝耳に水だったのではなかろうか。
この古本屋の売りは4日ごとに一新される均一本なんだが、岩波文庫の横にフランス書院文庫が大量に並んでいたりとなかなか面白かった。1日目はそれこそ仕入れてきた本をそのまま平台にぶちまけたような並べ方で楽しかったし、2日目からは時代小説の平台、岩波文庫、講談社学術文庫の台、創元推理文庫やハヤカワ文庫、幻冬社文庫の台と店員が店番合間に懸命に揃えていた。まあこれはそもそも玉石混交を魅力にしているのだからいらんお世話だという客もいたが見やすくなったことも確かだった。

古本の棚を4日ごとに入れ替える、しかも少し昔までは3日目に総入れ替えもしていたわけで、ぶちまけたような並べ方ではあるが、面白い本がいくらでもあった。聞いた話では東京に社員を常駐させて業者の市などで大量に本を仕入れてトラックで大阪に運び込んでいたそうだ。それにもかかわらず売上が低迷したというのは竹内洋のいう「教養主義の没落」つまり左翼運動の衰退という歴史的な流れの産物なんだろう。そうだとすれば時代の流れに抗うのは難しい。しかしあれだよなあ、あんなに駅ナカとかイオンモールとか交通至便の地代の高いところに全店舗出すことはなかったよなあ。駅からかなり離れた住宅地、規模が大きければ山の中であっても十分やっていけたと思うけどなあ。

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2019-01-28 10:09:00

今朝は気温は低いものの、風は大したことなく寒さは和らいでいます。

ビームコミックスから田辺剛の「時を超える影」の二巻が出て完結、相変わらずの筆力、画力で現在の漫画の到達点を示す作品です。ぜひお求めください。ラヴクラフトの作品の漫画化で、3億年の昔、太古の昔この地球を支配していたタコのような怪物はあらゆる時代の記録を取りそれを巨大な図書館に保存していた。ところがどうしても倒せない強敵が現れ、何とか地下深くに封印するのだが、自らも滅亡してしまう。しかしこの怪物は何億年というはるかな時間を超えて後世の人間に自らのイメージを脳内に送りつける能力を持っていて、はるか3億年後、人類のある大学教授の脳内にイメージが送り込まれる。それはやがて封じ込めた敵が封印を破り地上に現れるという内容なのだが、教授は引き寄せられるようにオーストラリアに向かい広大な砂漠の彼方にその図書館の残骸をはっけんし、さらに地下深くに封印を見つけてしまい、さらに封印が破られて地上に奇怪な敵が出現しているのも目撃してしまう、という内容です。

種族が滅亡しているのに、その記憶を後世の人間に送り込む能力というのはよく考えたものですね。書物や本に対する偏愛を知っている我々には説得力もあるし、例の「華氏451度」の読書を禁じられた世界で秘密結社を作り密かに朗々と本を読み上げるシーンと同じです。

まあそんな能力があるんなら滅亡しないように何らかの対策を講じられるような気もしますがそういうツッコミは野暮というもの、田辺剛の画力で蘇った不思議な世界を楽しんだ方が賢明です。

 

 


2019-01-27 13:03:00

今朝は寒かったようだが朝寝をして9時過ぎに起きたのでよくわからない。このところ夕方と深夜、早朝に大きな猫のうなり声が家の中まで響き渡ります。深夜のうなり声は数分続きびっくりした黒猫兄弟は二階の窓際のさんに飛び上がり、凍りついていました。夕方などどんな猫なのか確かめようと静かに出てみるのですが、家のぐるりには全く見当たらない。さすがは野良猫、人間への警戒心は大したものです。

「プレイガイドジャーナル」の1979年と1980年のものをまとまって入手しました。是非お求めください。もう40年くらい前の雑誌ですが、非常に保存状態がよく、まるでタイムマシンで運んできたような色つやです。

1979年のには寺島珠雄の釜ヶ崎のエッセイが連載となっていて、アンコのおっちゃんとの宴会の模様がリアルに書いてあって、富士正晴の酒飲みの詩をその場で朗読して喝采を受けた話がある。2月号には渡辺克己の新宿写真を掲載してコメントが載っているし、もちろんいしいひさいちの「御漫画」もあります。

渡辺克己は風景の切り取り方がうまい写真家でかつて「週刊文春」に天皇の儀式でゴージャスな着物でしゃなりしゃなりと歩いている大型テレビの画面を真ん中に捉えて、そのテレビが置かれている新宿の公園にたむろする日雇いや老人たちの姿を周囲に散らばらせたものが一面ぶち抜きで載った。これは真白かったなあ。


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