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古本屋日誌
旅行は無駄なことが多い。
ネットの情報や旅行雑誌、テレビのCMに踊らされて観光地に来てみたら、たくさんの人であふれているし、観光業者の方々もいつまでも続く客の波に食傷気味で「えー❗️まぁた来たんか❗️」てな顔つきだ。
これは観光業者を責めているのでは全くない。
いくら金を落としてくれるとはいえ、多すぎたら困るのは当たり前だ。
ガキの時分ならいざ知らずええとしこた大の大人がいつまでも旅のとりこになってここは良かったけど、こっちの温泉はがっかりだなどと書き込んでいるのは幼稚だよなあ。
観光ポスターに使われる写真は美しい、確かに魅了される。
しかし少し考えたらそれはプロのカメラマンが何ヶ月も費やして美しい瞬間を切り取ったものだ。
われわれがぽっと出向いて出会えるようなカットであるわけがない。
実際の観光地は人であふれているのみならず、ゴミも散らばっているし、車もバイクもトラックもいくらでも走っている。
それは当たり前だし、そのおかげでわれわれは楽しいひとときを得ることができるのだ。
でも失望が襲ってくるのも確かだ。
料理がうまいと言ってもそれは地元で取れた食材だからうまいに違いないというバイアスがかかった思い込みで、冷静に考えたら梅田や難波に行けば、いや家の近所で容易に楽しめる程度の味にすぎない。
また観光地に到着するための時間も大問題だ。
家から最寄駅まで、歩いて大阪駅まで出て、有料特急に乗って2時間、そこからバスてな具合で、どう考えても時間の浪費だ。
でも長い老後、やることがない無聊に多くの人は苦しめられる。
パチンコや博打では心は満たされない。
そうすると旅行で浪費する無駄な移動時間や得るところがない観光はヒマを潰すためにはなかなかよく考えられた装置にも思えてくる。
われわれ古本屋もそこには学ばないといけない。
仕事で三ノ宮に出向いた。
途中で元町商店街の『サントス』を覗いてみたけど、「今は二階の利用はやめてるんです」とのことで客は一階に押し込まれている状態で土曜日だし混雑していた。
この店はサンドイッチやチーズケーキが有名なのだ。
元町には『花森書林』という古本屋がある。
これは例の上本町の、閉店してしまった一色文庫のマスターが
「あそこはな、今神戸で1番勢いある古本屋ちゃうかな」と言っていたこともあって、2人は個人的に付き合いもありそうなわけだ。
ついでにこの店に立ち寄ってみると、ちょうど店主が居合わせたので、一色文庫が閉店していることを話してみた。
「えー閉店したんですか❗️❗️今初めて聞きました❗️びっくりしました❗️あそこのお店はお客さんもたくさん付いてるし、マスターは口では『あきません』とかゆうてたけど、そんなことない思いますよ。また別のとこでやりはるんちゃいますか」と言う。
どこかでまた、店をやるんならあんな突然店を何も言わずに閉めるわけはなかろう、と思うのだが、店主のことばを否定することもないのでそのまま話を聞いていた。
このところ洲之内徹の』気まぐれ美術館』の人気が高まっている。
新潮文庫がら出ている本はこの前までは300円くらいだったが、このところ急騰している。
古書価が上がる原因は1つは亡くなってしまうことであり、もう1つはテレビで取り上げられることだ。
立花隆は亡くなってしばらく『田中角栄の研究』や『農協』が3500円くらいしていた。
また、田辺聖子も直後は『感傷旅行』や朝日文庫の『ゆめはるか吉谷信子』はえらく高い値段で売れていた。
テレビで取り上げられて高騰したのは牧村史陽の『大阪ことば事典』だ。
なんでもNHK新人落語家大賞に桂二葉とかいう女の落語家が選ばれたそうで、そのネタを1月5日のNHKの『おはよう関西』ゆう番組が取り上げた。
そして、その番組で二葉は日頃よく参照する本としてこの『大阪ことば事典』を取り上げたのだ。
すると途端に売れ出してうちの在庫は8冊あったが全て無くなりました。
以前はなかなか売れなくて値段も分厚い本なのに500円ぐらいでも売れなかった。
これは二葉とかいう落語家の大阪アクセントが非常は昔風だったことも注目されるポイントだったのだと思う。
ライオン、マラソン、タヌキ、虹、藤山寛美、西村、春子、ゴジラ、松屋町筋、淀屋橋など大阪アクセントが大きく変わってしまった言葉は枚挙にいとまがない。二葉はかなり正確に以前のアクセントを番組で話していて面白かったのだ。
また『谷内六郎展覧会』(新潮文庫、全6巻)もそうだ。テレビで取り上げられて、それまでは一冊500円くらいだったのに急騰して今もかなり高い。
今回の洲之内徹ブームは何が火付け役なのかよくわからない。
テレビで取り上げられたかと思ってネットで調べてみたが、ヒットしない。
すると口コミでじわじわ広がった人気がある水準を超えたのだろうか❓
ただ高騰しているのは『気まぐれ美術館』だけで、それ以外の気まぐれ美術館シリーズ『絵のなかの散歩』とか『帰りたい風景』なんかは同じ新潮文庫に入っているのに全く上がっていない。
上本町の古本屋、一色文庫が閉店してしまい私はえらいショックだ。
この店ははじめは日本橋の入り組んだところにあり、それから天王寺さんの西側、谷町筋よりに移転し、さらに上六に移ってきたから創業からしたら15年くらいは経っているだろう。
古書組合にも属さず、ほとんど古本市なんかにも出店しないで、店舗売り中心にやってこれたわけだ。
初めて私が上六の店に出向いた時は本棚という本棚に「店内で携帯などを使用して値段を確かめる行為はやめてください」とせどりを認めない旨の張り紙がしてあった。
たしかに店主の目の前でこれをやられるとイライラするだろうと思った。
せどりについては、客がこんなことを店主に話していたことがあった。
「こないだ〇〇のブログを見てたら『加藤一雄の『蘆刈』を🔺△書店が500円で売っていた❗️🔺△のマスターてバカなんじゃないか❗️』てな書き込みがしてあったわ」
これは間違いなく、この客が自分のブログに書き込んでいるに違いないわけで、要するに自慢してるわけですよね。
しかし一色文庫の店主は
「それはまだ優しいよね、古本屋の実名を出してないんだから。一応プロに配慮はしているんだね」と言っていたから、えらい優しい人なんだなあと思ったよ。
ある時おばさんがやってきて
「息子が昔の通天閣の写真に興味あって、なんか写真集みたいな本ないかゆうてますねん、マスターご存知ありませんか❓」
なんでも中学生なのにようわからん趣味だ。
ちょうど「大阪新名所 新世界・通天閣写真帖」
が出たばかりの頃でこの写真集のことをおばさんに教えてあげていた。おばさんは「そうなんや、ほたらジュンク堂でこうできますわ」とそそくさ店を後にした。
それを目にして、古本屋では実物を確かめるだけにして、買うのはさら本屋というよくあるイライラさせられるパターンのひとつだと思った。
やはりこういう嫌な客とのやり取りのストレスの積み重ねが今回の事態を招いたように思えてならない。
上本町の一色文庫が閉店してしまった。
先日1月10日過ぎに行ってみたらシャッターが下りていて、店の前にいつも置いてあった『本買います』の木の看板もない。
まさかと思って今日行ってみたらまた、シャッターが下りている。
鶴橋の喫茶店『クリックアンドクラック』の2階に、一色文庫の本が置いてあってコーヒーを楽しみながら本を選ぶこともできたので、その店のTwitterをみてみたら「一色文庫さんの閉店に伴い2階に置いてある本の取り扱いも今月末で終わります」とか「いい本屋さんだったのに、残念です」との書き込みまである。
やはり閉店してしまったことは間違いないな。
去年の年末に伺った時はマスターはいつもと変わらずだった。
「瀬戸内寂聴が心を鎮めてとか、金があっても仕方がないとかゆうてるけど、テレビで見てたら瀬戸内の家が映っていて外車が3台も見えた、そんな生活しといて何をゆうとんねん」てな感じ。
それにしても何があったんだろう。
体調がすぐれないんだろうか❓
確か2年くらい前にマスターは体調を崩した話をしていた。
「朝起きたらえらい首周りが痛いので、辛抱たまらず医者に駆け込んで、レントゲンやらなにやら色々検査してもらった。さて呼び出されて、医者は渋い顔をして腕組みしてしばらく何にも言わないわけよ。
こわいやろ、なんかえらいことになってんのちゃうか思うわ。
5秒か8秒かものすごい沈黙が過ぎて『あのなあ、何も異常ないねん、なんで痛むんやろなあ、まあしばらく安静にしとったら治るわ』と言われたんや」と話してはいた。
でも、それから健康不安の話は聞いたことがない。
では経営不振だろうか❓
これも2年くらい前、借りている店舗の家賃が上がることになってえらい困ってるんやとの話をしていたが、その旨Twitterにこぼしたらそれを読んだ大家さんがわざわざ訪ねてきてくれてことなきを得たという話を聞いたな。
それでも売っている本のかなりが100円均一なのでものすごく儲かるようには思えない。
ではしょうもない客ばかりがやってくるのでやる気が失せてしまったのだろうか❓
確かにくだらない客の話はよく聞いた。
毎日店に映画のポスターを持ち込んで値段を聞いてくる客がいるんだが
「値段聞いて『ふーん、そんなもんか」てニヤニヤして持って帰ってまうねん、ええ加減にしとけよ」とのことだった。
要するに自分の持ってるポスターの自慢がしたいわけだ。
まあ詮索しても詮ないことだから、今度鶴橋のサテンのマスターに尋ねてみようと思う。