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古本屋日誌
西村賢太が死んでもう一年だ。
命日の2月5日付けで文藝春秋から『蝙蝠か燕か』が出た。
西村は魅力的な作家だったが、一つよくわからないのは藤澤清造へのえらい思い入れようだ。
全集を出すとかいって、豪華な内容見本を作ったり、小説にもしばしば傾倒するさまが書いてあった。
西村の尽力で藤澤の作品が文庫本となって刊行もされた。
新潮文庫の『根津権現裏』は代表作なんだが、読んでみてもつまらない小説だ。
グダグダと同じ話が繰り返され、ギャグのような部分も笑えない。
つまりどこがそんなにいいのか、わからないということなのだ。
今回の作品集にその点に触れた内容がある。
「妙にネチネチした、くど過ぎる程にくどい文体でもって一つの事を延々と語り続けるその小説は、(中略)一種異様な雰囲気があった。無論、いい意味での異様さではない。成程、この私小説家が往時も今もマイナー的存在として扱われている理由も窺い知れた思いであった」
「この小説世界がもしかしたら現在の自分が置かれた状況、それに伴う心境に塩梅にフィットするかもしれぬとの期待が生じ、再読する気になったのだ」
なるほど西村賢太も『根津権現裏』を評価しているわけではないのだ。
ただ、四面楚歌の自分(田中英光の親族を酒の席で殴ってしまい、それ以降、田中の研究を続けられなくなって、ひどく落ち込んでいた)が、藤澤清造の境遇に近いものだと思え、惹きつけられたわけだ。
自分に引き寄せて作家を読み込むことは誰にもよくあることだよなあ。
BS松竹東急で、往時の新喜劇を再放送している。
藤山寛美が座長を務めていた頃のものなんだが、いつも不思議に思うことがある。
歌舞伎の幕間のことを「まくま」と表現していることだ。
もともと「雲間」なら雲と雲のあいだ、間隙、隙間という意味だ。
「雪間」なら雪がまだらになっている、消えている隙間だ。
「風間」なら風が吹き止んでいる時だ。
だから「まくま」も幕と幕の間という意味だと素直な受け取れる。
むしろ「まくあい」の方が不自然な感じもする。
小谷野敦が『文學界』の2月号に久しぶりに短編(「幻肢痛』)を書いている。
禁煙の大変さをあれこれ書いたあと、便に血が混じっているのに気づき、これはひょっとして大腸がんなのではないかと悩む話だ。
内視鏡で検査したら、2センチ程度のポリープが見つかって、小さいものなら検査と同時は切除もできるのだが、今回のは大きい、紹介状を書くから、別の病院で切ってもらってくれと言われるのだ。
医者に小谷野敦が
「『良性か悪性か、ということは…』と訊いた。
すると医者は向こう向きのまま、
『混じってる感じね』と言った。」
とある。
そうなんだよね。昔と違い医者はガンなのかどうかを包み隠さず告げるのが最近の流れだ。
今日は節分で、東一条から吉田神社にかけて、おびただしい露店がならんでいる。
ここの特徴はその多さもさることながら、多種多様な店があることなのだ。
お好み焼き、広島風お好み焼き、たこ焼き、焼きそば、唐揚げ、ベビーカステラ、イカ焼き、リンゴ飴この辺はどこの祭礼でも見られるものだ。
しかし吉田神社では、豚汁、粕汁、サバの塩焼き、外郎、こぼれ梅、千枚漬けなどのいろんな漬物、、八つ橋、肉巻き、清酒、濁り酒、樽酒、七味唐辛子、いろんな福豆、ホットコーヒー、焼き芋、生姜板、あてもん、射的、おみくじ、手相、輪投げ、水飴、巻き寿司、焼き鳥、酒粕、ジャガバタ、甘納豆、さつまいもスティック、ドライフルーツ、ドテ焼、ホタテ、サザエの壺焼きなど、驚くほどの種類だ。
また各所に小屋がけやテントがあって、テーブルや椅子が並んでいて、飲食店を楽しめるのだ。
ただ人出はかなり少ないな。
例年ならものすごい人で、肩はぶつかるし、よちよち歩きしかできないし、並んでいる露店をしっかりチェックすることもままならなかったりするし、連れとはぐれてしまったりするのだが、今日は全然余裕だ。
石段を登った拝殿前にはさまざまな企業が提供した賞品が所狭しと並んでいる。
参拝客は300円払い、「福豆」と福引券を買うのだ。
福引券にはシリアルナンバーが記載されていて、2月5日に抽選が行われて当選者には、展示してあった賞品をもらえるシステムなのだ。人によっては20枚も買うていて、よくわからんな。
拝殿からさらに右手に坂道が続いていて、ここは大元宮につづくのだが、やはり両側に露店がびっしり並んでいる。
特にこのエリアは酒を飲むのに好都合なのだ。
まず子供連れやカップルは下の拝殿まで、やってきてそのまま帰ることが多いので、人が少なくのんびり飲める。
いろんなテントや小屋があってゆっくり酒を楽しめるスペースが確保してある。
何より大きな露店で様々な清酒を販売している。升酒も濁酒もある。
あても周りにいくらでも用意されている。乾燥させた殻付きピーナッツ、粕汁、ドテ焼き、焼き鳥、サザエの壺焼き、たこ焼き、イカ焼き。
おまけに今日は大した寒さでもなく、酒で身体も温もり、ほろ酔い気分でいくらでも飲めるのだ。
『文藝春秋』の先月号は700ページもあってまだ半分くらいしか読めてない。
その中に、退位した前の天皇に保阪正康と半藤一利がレクチャーする話が載っている。
保阪らは満州事変について、天皇に次のような話をした。
石原莞爾の動きに気づいた元老の西園寺公望や若槻礼次郎首相から『勝手な動きをするな』と厳しく注意された南次郎陸相は「あいつらを止めねばまずいことになる』と悟って、参謀本部の作戦部長の建川美次郎を派遣して、謀略を止めようとした。
しかし派遣された建川は本気で説得する気もなく、飛行機で行かずに、わざわざ関釜連絡船で大陸に渡った。
建川を出迎えたのは関東軍の板垣で、結局建川は酔い潰されてしまい、その間に関東軍は柳条湖付近で鉄道を爆破した。
天皇は「私の読んだ本に書いてあることとは違いますね」と言って、持ってきた本が、昭和八年に出た厚手のハードカバーの古めかしい本だったという。
そんな戦前の、言論統制の厳しい折に書かれた本なんか、事変の真相なんか書けるわけないよなあ。
前の天皇はそんな当たり前のことにも気づかないのかね。