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古本屋日誌

2025-03-26 00:49:00

2000年1月に、中学受験の進学塾、日能研関西で起きた過労死事件のことだ。

 

算数課のリーダーの一人だった酒井の授業のことを考えている。

 

 

俺は酒井はセンスのよい人間だな、と思っていた。これは本当に大事なことで、というのもそういう人はなかなかいないからだ。

 

彼は、センスのよさを武器に、バカな学生や、愚かしい行動をする連中を(当人には言わないけれど)よく批判していた。

 

 

酒井は、1979年に京大農学部に入学してから、ずっと熊野寮に住んでいた。

 

寮の学生は、確かに貧乏ではあったが、そもそも学業が本分である学生がカネを持っているのはおかしなことだ。

 

貧しいのが当たり前で、何の不思議もない。

 

それに熊野寮には食堂があって安い値段で食事をすることもできる。

 

 

だから少しアルバイトでもして5000円とか入れば1週間は余裕で生活できた。

 

 

それなのに、わざとカネがないことを自慢したり、それにこだわりを持ったりするバカが少なからずいた。

 

 

経済学部の教室で、講義が終わった後、教授が机の上にパンの耳が乗ってるのに気がついて「これ誰のや❓ええもん食べてはるやないか」と学生に尋ねたら、熊野寮生のAが「あー俺のですわ」と答えたので、先生はヒョイとパンをAのところに放り投げた。

 

 

すると「何しますねや、パン耳は俺の大切な命の綱やのに、ひつれいな、何考えてますのや‼️先生はそら金持ちやろけどな」と色をなして怒る。

 

 

Aは普通に金も持ってるのにもかかわらず、趣味でパンの耳を昼ごはんにしてるだけなのだよ。こういう下品で下劣な学生はダメだよね。

 

酒井はそういうところは全くなかった。

 

「ああいう、金のないことをひけらかすみたいなやつは、その神経が理解できん」と言っていた。

 

 

1980年代初頭はニューアカブームで、蓮實重彦、上野千鶴子らが興味深い本を書いていた。

 

とりわけ蓮實重彦は、草野進名義で『プロ野球批評宣言」とか『読売巨人軍に与える建白書』といったプロ野球評論を出していた。

 

 

俺は新潮文庫などの廉価版でこれらを読んでいたのだが、酒井は冬樹社から出ていた『プロ野球批評宣言』の単行本をこうていた。

 

俺が「それ、高いやろ。文庫の方がええことないか❓」と聞いたら「そんなん、ええやろ」と怒る。

 

確かに、冬樹社の単行本は、白地に紫の花があしらわれたオシャレなカバーで、新潮文庫のシンプルなカバーとうって変わって、お茶の家元だとする草野進の雰囲気がよく出ているものだった。

 

 

こういういいものには、多少の金は糸目をつけないところが酒井にはあった。

 

 

また彼が言うには「この蓮實重彦のプロ野球論(野球の花は三塁打だとか、投手は孤独中に屹立するとか)はな、それ以降の評論家に影響を及ぼしてる。前からいる評論家も蓮實の書き方を真似るようになっている。」と言って、その具体例として玉木正之を挙げていた。

 

 

なるほど確かにそうだな、指摘されて初めてその正しさがわかったが、自分では思いもよらない。

 

酒井は本屋に出向いて2時間くらい立ち読みを繰り返して、気に入った本を選んでこうていた。

 

「全集を出したり、全集を買ってしまったりする人の神経がわからない。だってしょうむない小説の方がずっと多いのに、それをありがたがるのは理解できない」と言う。

 

これはその通りです。

 

あの筒井康隆だって『敵』とか『メタモルフォセス群島』なんかは素晴らしいけど『乗越駅の刑罰』なんかはなあ。だからお説ごもっとも。

 

 

俺は学生時代坂口安吾や野坂昭如が好きで、とくに坂口安吾は冬樹社から出ていた全集を集めていたので、酒井の批判はこたえたな。

 

 

沢木耕太郎の『テロルの決算』中島らものエッセイ集、『トンデモ本の世界』なんかを褒めていたが、中島らもやトンデモ本はその通りなんだが、沢木の『テロルの決算』を評価するところなど、センスのよさを感じる。

 

 

 沢木はバックパッカーとして世界をへ巡った『深夜特急』シリーズが有名で、俺もこっちのことしかその当時は知らなかった。

 

変な左翼の連中ばかりの熊野寮に住んでいて、社会党の浅沼を暗殺した山口の話に感動する感性は稀有なものだ。

 

 

酒井自身も、自分の感覚と、周りのそれとの差には敏感だったわけだし、自分のセンスには自信があったと思う。

 

 

だったら、日能研関西社内でも、普通に生意気に過ごしていて不思議ではないと思うのだ。

 

また休みも保証しないようなブラック企業であるわけだから、見切ってさっさと辞めるとか、また反抗する手立てもありそうなものなんだけどね。


2025-03-25 11:57:00

京都の古本屋は専門店化が昔から進んでいて、オールラウンドにいろんな本を、広い店内に並べる古本屋はない。これは客にとっては不便だ。

 

 

買う時もお目当ての本が置いてありそうな本屋を予想して、買いに行かなければならないし、蔵書の処分にしても雑多な本を嫌な顔せずに引き取ってくれる本屋はないのだから、何店舗にも声をかけなければならず面倒なことこの上ない。

 

 

客のニーズを基本的に考慮せず、自分のスタイルに固執するのが京都風だと思う。

 

 

そこへブックオフが表れて、この弊風に風穴を開けて、駅前の大きな店舗で、ゆっくりさまざまなジャンルの本を選べるようになって、江湖のかつえを癒すことになった。

 

 

ただ問題は国文の専門書がない。勉誠社などの本のことだ。

 

英米文学関係の本が少なすぎる。

 

考古学関係の本、発掘調査報告書の類がない。

 

一枚ずり、古地図、和本がない。

 

少し古い文学書がない。などの欠陥を抱えていることも事実だ。これはブックオフがそういう本の査定をする力を持っていないことも理由の一つではある。

 

 

しかし、大学の教員が「所詮はブックオフだろう、あんなもん」と差別していることも大きな理由だと思うね。

 

 

大学の先生といっても、まともな単著すら書けない連中が大半なんだから、どの口で言ってるのかあきれるばかり。


2025-03-23 17:02:00

今日は久しぶりに阪急電車で石橋を経て、箕面のすぐ手前の牧落まで行き、てくてく歩いてブックオフ箕面店に行ってみた。

 

 

ここは大阪府の高額所得者が住む町であり、また大阪大学の石橋キャンパスの近くでもある。

 

 

牧落の一つ石橋よりの桜井には、古本市場がある。

 

高額所得者の居住地でブックオフと古本市場がともにあるのは、俺が行った限りでは、他に西宮北口がある。

 

 

西宮では明らかにブックオフの品揃えがバラエティに富んでいて、なかなかお目にかかれない本もあるように感じた。つまり両者の品揃えには大きな違いがあって、棲み分けしているわけだ。

 

ただここは、ちゃんとした大学があるとは言えないので、ブックオフが揃えている本もさほど驚くほどのことはなかったな。その点、条件は箕面の方がいいと思うのだ。

 

 

ブックオフの品揃えと古本市場のそれは、どの程度差があるのか、それとも箕面では変わらないものなのか、興味深い。

 

 

さてまず箕面市役所の隣にあるブックオフ。

 

二階建で、すぐ前には50台以上止められる駐車場も完備されている。エントランスは三ノ宮駅の歩道にも敷き詰めてある赤御影石で、その階段を上がって入り口に至るのだ。

 

 

1階は楽器、カード、マンガ、児童書、レコードなんかが並んでいる。

 

 

20段くらいある、木の幅広階段を上がると本の売り場だ。

 

 

壁に沿っておすすめ本や500円均一本がずらりと並んでいる他、平台に単行本の廉価なのが収められている。

 

 

このフロアーには大型のマンガ、文庫のマンガ、歴史、美術書、写真集、辞書、エロ、文庫、新書、文学書、実用書などが所狭しと100坪はありそうな店内にひしめく。

 

 

ちくま学芸文庫の『ツタンカーメン発掘記』『漢書』揃、中公文庫の『クララの明治日記』、『葬制の起源』、新潮文庫の『どうで死ぬ身の一踊り』の初版、新潮文庫の『洪水はわが魂に及び』揃など珍しい本があった。

 

店を後にして、すぐ向かいにある市役所にはhellow cycling があるので、早速電動自転車を借って、国道を桜井方面に走る。

 

マクドナルド、ケンタッキー、希望軒、まいどおおきに食堂などチェーン店が並んでいて、どこも広いモータープールを備えていて便利だ。

 

 

さて市役所から5分くらいで、左手に古本市場が現れる、かなり近い。

 

二階建ての50坪くらいの店で、店の周囲はアスファルトで固めてある。

 

駐輪場には40台くらいの自転車が止まっていて盛況だ。

 

 

2階が本売り場なんだが、それ以外にスニーカーなんかの中古品も並んでいる。

 

文庫は80円の安いものと高めのものに分けて2メートル以上ある大きな本棚にずらりと並んでいる。

 

 

岩波文庫、ちくま文庫、ちくま学芸文庫、講談社学術文庫なんかは置いてはあるものの、申し訳程度で、目を引くタイトルはなかったな。

 

箕面のブックオフと古本市場なんだが、扱っている本の違いははっきりしていて、またその違いが店の外観にも表れているように感じた。

 

ブックオフは元々はレストランだったそうで、2階には坪庭や雪隠も備えられているのだが、古本市場はごく普通の古本屋の建物だ。


2025-03-22 21:10:00

2000年1月に起きた、中学受験の進学塾の日能研関西の過労死事件のことだ。

 

 

算数課の課長だった酒井の授業のことを考えている。

 

 

彼は算数課の職員を統括する地位にいた。ただし、当時の算数課の課長は2人いて、もう1人は酒井より社歴の長い酒井浩だったから、彼に全ての職責がのしかかってくるということはなかった。

 

 

酒井はなぜか自分の地位や実力に自信を持てていないところが感じられて、不思議な思いを俺は抱いている。

 

ただ彼は自信を持っているところもあって、それは課長の職務であったり、社員や上司、友人の見立てだったりというあたりだ。

 

課長の職務については、書店でビジネス書をあれこれ物色して購入し、ノウハウを学んで、自信を持っていた。

 

 

しかしこれに関しても彼の自信ほどのことはなかったのではないかと思うのだ。

 

 

算数課にはテスト問題の提出期限になっても、出さない困った社員が複数いた。

 

 

酒井はその尻拭いで、自分で問題を作らざるを得なくなっていて、怒りを覚えていたことは間違いない。

 

 

俺はその当時そういう事情に疎くて、酒井と梅田で飲もうとなって、彼に知らせずにある算数課職員にも声をかけたのだが、酒井は「あいつなんか呼ぶなよ。腹が立つ」と真剣にむくれていた。

 

 

そういう厄介な社員への指導や扱いに苦慮していたわけだ。

 

しかし、宴会にやってきたくだんの社員を前にしても機嫌は直らず、ブスッとしたままなのはどうなんだろう。気持ちは向こうにも伝わってしまうし、管理職としては難しいところだ。

 

算数のオリジナル問題を作るのは、授業力とは全く別の能力が求められる。

 

先輩の東が言うには「いつも問題に出来そうな事象を探して、考えておかないといけない」。

 

 

また同じく社歴も長く、算数課の課長であった酒井浩は、雑誌『中学への数学』の常連投稿者で、毎月出題される難解なオリジナル問題を誰が速く解けるかを競っていた。

 

 

そういう素地があって初めて模擬試験の問題を作成できるわけで、当然ながら、力を有している課員は限られる。

 

 

能力的に無理な人にやらせても、レベルに達しないものしか作れないだろうし、結局自分がやらなければならなくなり、二度手間になるだろう。

 

 

本来は能力のある課員を配置するべきで、それは日能研関西の経営者がなすべきことなんだが、要するに経営者は無能だから、それは木によりて魚を求めるようなことだ。

 

 

また酒井は俺の授業がダメなこともわかっていたが、それを俺自身が気にしているだろうと考えていた。

 

これは俺という人間を見誤っている。

 

前にも書いた通り、酒井など社員と違い、俺は日能研関西に収入の重きを置いていなかったから、その程度の仕事で構わないと思っていた。

 

だから酒井が俺にクレームを伝える時に、さも気を遣っているそぶりをしていたのは、的外れなのだ。

 

彼が病に倒れる直前、2000年の1月中旬にも、「来期の予備校の出講はどないなったん❓」と聞かれたが「これから博多で西南大、福岡大などの直前講習があるし、来期も九州で3日、河合塾で2日ある」と答えたら意外な顔をされた。

 

 

また1999年は彼のご母堂が還暦で、それを祝うために妹さんも含めて、大阪見物に招いていたことがあった。(その事実は彼が亡くなってから、お母さんから知らされたのだが)

 

 

上本町校で授業の前に酒井が、大阪のガイドブックを見ていたので、「どないしたんや❓なんかあんのか❓」と尋ねたら、彼は口を濁して「ちょっとな」という。

 

 

大阪の名所なら俺に聞いて欲しいところだが、彼としては親孝行のことをあれこれ知られたくなかったのだろう。

 

いろいろ聞かれると恥ずかしいという思いもあったのだと思う。それは今ならわかる。

 

でも、その頃は酒井が俺の授業に不満を持っていることもよくわかっていたし、酒を飲みに行くのもわしではなく、社会課の阿部と行っていることも知っていたので、俺はちょっと僻む気持ちになった。

 


2025-03-21 21:10:00

今日から谷町四丁目の古書会館で、古本市。さっそく朝から行ってみた。

 

谷町線は喜連瓜破での車両トラブルで遅れていて、9時40分過ぎの天満橋駅ホームは南行きの電車を待つひとがたくさんいた。

 

 

谷町四丁目駅に着いて、エレベーターで上がると中央大通りの南西角で、すぐ西側にはアパホテルがある。

 

 

ここは11時半から、950円でランチのバイキングを出していて、メニューは肉か魚(今日は鶏の山賊焼とサーモンフライ)を選んで、あとはおとふ、サラダ、ヨーグルト、フルーツ、ご飯、おつい、コーヒー、オレンジジュース、野菜ジュース、牛乳などが用意してある。

 

 

大通りを南に折れると、南大江小学校。都心部回帰のため、児童数が増加して、グラウンドを潰して鉄筋の新校舎を作った。

 

 

小学校の斜向かいには託児所がある。だからこの辺りは住宅地なんだが、すべて高層マンションとなっている。

 

 

その並びには焼き鳥屋やうどん屋、居酒屋、薬局、企業相手の健康診断を扱う診療所、ファミリーマート、卸のコーヒー豆専門店(ホットとアイスを持ち帰りも出来る)なんかもある。

 

 

その和泉町の一角に古書会館がある。

 

 

 

今回も文学書の矢野書房が参加しているほか、西洋文学の寸心堂、SFの古書ディック、文庫や新書のほか辞書や民俗学の本を集めた真木書店、和本の古本横丁、一枚ずり、錦絵のアジア号、古い雑誌やプレイガイドジャーナル、左翼文献を集めた唯書房、杉本、汎、淡路の古本屋、厚生なんかが本を並べていた。

 

 

 

移動期でもあり、いい本(堀井憲一郎の本、『収容所群島』全6巻、たくさんの『プレイガイドジャーナル』、高橋源一郎の著作、大量の、雑誌『太陽』や『本の雑誌』、今東光の著作、共産同の雑誌、左翼雑誌『序章』、三島由紀夫のいろんな単行本、谷内六郎の単行本などなど)がたくさん並んでいて、お客さんもみんな嬉しそうでありがたいことだ。