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古本屋日誌

2022-03-09 17:20:00

エッセイストの岸本葉子のデビューは1985年で、当時東大文学部4回生でNHKに就職したいと頑張っていた日々を書いたものだ。

 

当時は4大卒の女を採る企業はそんなに多くはなく、募集予定も男40女未定などというのがまかり通っていた。

 

岸本はコネもなく、金もなく地道に入社試験のための勉強会に所属して頑張るのだがもちろんそんなにうまくはいかない。

 

周りには親が金持ちで、都心のマンションに住み、家賃から稽古ごとの金まで親がかりで昼ごはんはフランス料理てな鼻につく女もかなりいて、岸本はその連中の無神経な言動にいらいらするのだ。

 

1985年というとちょうど私も就職するべき年なんだが、そういう気もまったくなかったな。

10月には成田空港の解体を叫んで機動隊とぶつかる事件、11月には国鉄分割民営化阻止で線路脇のケーブルを切断して東京周辺の鉄道網を麻痺させる面白い出来事があった。


2022-03-08 21:16:00

昨日からホームページとTwitterを連結して、少しつぶやきを書き込んだ。

 

また知り合いがうちのホームページにいくつかのハッシュタグをつけて拡散してくれた。

 

そのおかげかアクセス数はかなり増えたが、でもこれまで何度か訪れた4桁をかなり上回る数には達しなかったなあ。

 

古本屋のホームページはどこも退屈だ。

 

天牛書店にせよ天地書房にせよ、本のタイトルと状態、値段が羅列してあるだけだからだ。

 

本来なら筑摩書房のサイトがやっているようなスタイルが望ましいのだ。

 

サイトの上部に新しい本の背表紙が、まるで本棚に挿してあるように見れる。そして背表紙をクリックしたら、手前に本が引き出されて立ち読みもできるのだ。

 

古本屋の店内を再現して、サイト内にたくさんの本棚が並びロールプレイングゲームのようにいくらでも暇つぶしかできる、これがいいよなあ。


2022-03-07 10:58:00

死を予感した人間が無意識のうちに周りの親しい人たちに別れをいうということがあるのかね。

 

昨日発売の「文学界」には先日突然死んだ西村賢太の遺稿が載っていた。

 

その中に初の単行本が出ることになっていささか浮かれ気味の貫多にある編集者が冷や水を浴びせる場面があった。

 

このことは昨日書いた。

 

ショックを受けた貫多は七尾に立てた藤澤清造の墓の隣りの骨壷に入ることになったかもしれないという話だ。

 

その前に亡くなった評論家の坪内祐三の場合はもっとはっきりしている。

 

亡くなる直前にある雑誌で自分の親の世代は長生きする人が多く、90超えても矍鑠としているのだが、自分たちの世代は実は早くして死んでしまう人が多いんだと書いていた。

 

私の友人酒井博之くんは早くも2000年にくも膜下出血で死んでしまった。

 

倒れる数日前に上六の古本屋「天地書房」の藤田さんに買い取りを頼んだ話をした。勉誠社から出ていた「歌舞伎台帳集成」の何冊かを売ったのだ。

藤田さんはなんでも思ったことを素直におっしゃる魅力的な方でこの時も「これ揃てまへんな、値になりませんわ、もったいないことやな」と叱られました。

酒井の部屋にもいろいろ本があることを知っていたので

「あんたんとこのごちゃごちゃした本も売ったらええんちゃうか」

「俺んとこのは大した金にもならんのばっかりやで」てなやりとりをした。これが2000年の1月20日で、その後23日に彼は早朝倒れてそのまま亡くなり、結局残った本の処分は2月頭に天地書房の藤田さんに頼むことになってしまった。

 

藤田さんは残っている本の種類を聞いてから、「まあそういう特別な事情がおありなんだから、引き取りに行ってあげますわ」と西宮の門戸厄神まで来てくださった。


2022-03-06 15:41:00

今日は純文学雑誌の発売日で、広告では「文学界」は連載の最終回と追悼記事が載り、「群像」にも追悼記事が載るようだ。

 

天王寺の紀伊國屋で「文学界」を求めた。

 

絶筆の「雨滴はつづく」の最終回が載っているほか朝吹真理子などの追悼文もある。

 

「雨滴…」はデビュー前後を書いた私小説で、最終回は芥川賞の候補になったところで終わっている。

 

「群像」の編集者から「あまりメジャーではない藤澤清造という作家を利用してデビューに利用しようとしている」という批判もあると聞かされてショックを受ける話がある。

 

「衝撃のあとに突き上げた怒りのエネルギーを、生来の負け犬ゆえの意地に同化させなかったら、その時点で自身の恥の感情に促され、的外れの讒謗に屈し、平成14年の段階ですでにして建立済みの、能登七尾の藤澤清造墓の隣の小さな石碑の中に、壺に入れられて収納されていたかもしれなかった」

こう書いてすぐに本当にこの墓に収納されてしまったんだから残念だよなあ。

 

 

この間、西村賢太の本はかなり注文があってよく売れている。

 

とりわけ芥川賞の「苦役列車」は文庫だけではなく単行本にもたくさんの注文が入っている。

 

エポックメイキングな著作であり、年収が480万から数千万に跳ね上がるきっかけとなった本だから、注目度も高い。

 

森山未來が主演で映画にもなったからな。

私には最後のシーンが面白い。

主人公の貫多と汗まみれになってカニの荷出しの仕事をしていた友人の〇〇が、大学を出て郵便局に就職する。

その〇〇は学生時代には青臭い映画論を女の前でとくとくとしゃべり、貫多をヤキモキさせていたが、さて郵便局に職を得てみると、出てくる言葉に映画のえの字もない。

一体あの偉そうな話はなんだったんだと貫多は腹を立てるのだ。


2022-03-05 11:03:00

ブックオフの天王寺店は夜中10時までやっている。

 

最近行ってみたら2階に「ビンテージコーナー」なる棚が2つも設けてあった。

 

並んでいるのは講談社の「キャンディ・キャンディ」の端本やボーヴォアール著作集などでビンテージとまではいえない本だったな。

 

「文藝」の春号に宇佐美りんの新作「くるまの娘」(190枚)が載っている。

 

家族との葛藤を細かく丁寧に描いた作品だ。

 

父親は実の母親から疎まれていて、ただ一人写真を集めたアルバムを作ってもらえないでいた。そのことをかなり気にしている。

家庭では教育パパなんだが、子どもにはよく手を上げる理不尽なところがあった。

 

進学塾には通わせずに自分で息子や娘を教えて進学校に合格させた。

 

ところが息子は大学をやめてしまい家には寄り付かない、娘も高校にかよわなくなってしまう。父親はそのことを何かあるたびに持ち出して子どもたちを責めるのだ。

妻は妻で、病を得て日常生活に不自由をきたしている、このややこしい家族が引き起こす揉め事が詳細に描いてある。

 

これは宇佐美の私小説なんだろうかなあ。

 

そうだとしたらまだ若干ハタチやそこらで、実に波乱万丈な人生を経験していることになるよなあ。