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古本屋日誌
出町柳近くの枡形商店街に12月9日、ぼあい書房が新しく店を出した。
ぼあい書房はこれまで百万遍の古本まつりなどの行事に出店するほか、枡形商店街の古本屋、上海ラヂオに本を並べていたのだが、この度めでたく独自の店を構えたわけだ。
この商店街には、上海ラヂオとエルカミノの2つの古本屋があるので3軒目だ。
他にあれこれの名画を上映するミニシアターもあって、ここにも新刊のほか、映画関係の古本も置いてある。
また河原町通から商店街に入ってすぐ右手にあるスーパーの2階にも旅行代理店みたいな店舗があって、その店の前の廊下にもみかん箱に入れて古本が販売されている。
さて早速、ぼあい書房に出向いてみた。
店は商店街の奥、西側にあって元は花屋だったという、間口1間半の細長い15坪くらい。
店頭には木枠の平台があって、版画や和紙の絵柄見本、昔の絵葉書セットなんかが並んでいて、中に入るとまたすぐ、平台があって今度は最近の絵葉書セットがたくさん並んでいる。
さらに進むと真ん中に木のテーブルがあって2列に木箱が置いてある。中は戦前の古い雑誌。
右手には吾妻ひでおのマンガがたくさん並んでいるし、展覧会図録、写真集、美術書が店の奥まで続いていて壮観だ。
スーパーリアリズム美術で有名なホキ美術館の図録、写実絵画の画集がたくさんあるほか、川西英コレクション、アラーキーの『東京日記』、『谷内六郎幻想記』なんかもある。
左側の本棚には文学書、哲学書が並んでいる。大江健三郎の初版本、南方熊楠関連のたくさんの本、みすず書房の本、北条団水なんかが目についた。
さらに奥にはスティール棚があって文庫、新書が並んでいる。『中井英夫全集』、角川文庫の江戸川乱歩シリーズ、ちくま文庫の『泉鏡花集成』なんかが目についた。枡形は京大や同志社に近く学生や教職員も多いから、いい本を集められることは間違いない。
またラブホテル同様、古本屋もかたまっているほうが、客は全てに入ってくれるので集客力も増すことは間違いない。
それにしても大衆が好む時代小説やベストセラー小説の類は全くないのは潔いな。店主の好みがよくわかる品揃えだ。
お店を拝見して、再び河原町通に出て、豆大福で名高い「ふたば」の、とえはたえの行列を拝見して横断歩道を渡り、すぐのコンビニでわさび入りのお稲荷さんと生姜、茎わかめの麦おにぎりとおーいお茶をこうて、てくてく高野川に掛かる橋を歩いていると、突然後ろから、手元に衝撃があった。
お稲荷さんは放さなかったが、おーいお茶はコロコロ、ハッとして左側を見ると大きく左右に翼を広げた鳶の姿がある。麦おにぎりは鳶に見事にかっさらわれてしまった。
それにしても「鳶に油揚げさらわれる」という諺はどうなのか、お稲荷さんを残していくとは不思議だ。
古本屋の仕事の宿命なんだが、腰痛に悩まされる。
本は材木とおんなじで、そもそも重たい上に、お客さんの家では押し入れの中に段ボールが入れてあってその中に本がぎっしり詰まっていることもしばしばある。
押し入れは中腰で入らなければならないくらい高さがないから、重たい段ボールを手前に引き寄せるだけでも、ずいぶん負担が腰にかかっていそうだ。
俺の場合は左側の腰がよく痛む。ネットで調べて腹筋や背筋を伸ばすストレッチをやってみているが、なかなかそううまくはいかない。
精神科医の春日武彦は相変わらず面白い本を出している。朝日新書の『死の瞬間』も興味深い。
洋の東西を問わぬ博捜で、さまざまな文学作品から臨終のシーンがどう描いてあるのかを調べて分析する本だ。
加能作次郎の小説を引用するところはさすがだ。
主人公は、能登の漁師なんだが、急なシケで海が荒れてたくさんの漁船が転覆してしまった。彼も行方不明になるのだが、まだ新婚の嫁が残されてしまう。
しばらくして浜に土左衛門が上がるのだが、とうがたってしまったために、容易に識別できる状態ではない。
能登のこの村には、ある言い伝えがあって、それは「土左衛門と額にくちびるをつけてみて、引っ付いたらそれは近しい人だ」というものだ。
嫁はかけてある筵をめくってなめてみるのだが、取り巻く村人が「どうやった❓」と口々に聞いてくるのを遮って「くっつきはしたけど、これは夫やない」と怒りの眼差しで答えるのだ。
春日はこれを分析して、言い伝えは要するに本当に肉親かどうかはわからないが、いつまでも悩んだり、悲しんだりしていても仕方がないから、どこかで踏ん切りをつけるための儀式みたいなものだろうという。
確かに土左衛門が夫だと認めてしまえば、それはとりも直さず夫が死んでしまったことを確認するに他ならない、だから嫁はそれを拒んだということだ。
それにしても春日武彦は東京都立松沢病院の院長を前にしていたと略歴にあるのは驚かされる。
松沢病院は例の葦原将軍や熊沢天皇で名高いのだが、昔から有名な大病院であるためいろんなタイプのややこしい患者がやってくるわけだよ。
当然あれやこれや問題山積みとなるはずで、院長という立場ではそれぞれにコミットせざるを得ず、精神的にも肉体的にも疲労が蓄積しそうだ。
春日武彦は小説好きなのだが、ようやく仕事を終えて帰宅して、俺が思うには、すぐ集中して本が読める人なんだろう。
俺なんか仕事上がりは興奮状態だから、しばらくクールダウンし、ぼんやりして何もしないで時間を取らないと次のステップには進めないものだから、おそらくクールダウンの必要なく、すぐに切り替えて次の作業に取りかかれる春日武彦は驚異だ。
今日は1時から十条にある「京バーム」というバームクーヘンの製造、販売所に嫁と行って、抹茶バームを作る予定をしていたが、家を出る直前にプリンターが不具合となってしまった。
用紙がスムーズに送られず、紙詰まりを起こしてしまう。「用紙を引き抜いてください」と表示が出るのでその通りにするのだが、さてプリントしようとすると再び紙詰まりとなる。
ネット上のプリンターの取説を参照すると、一度コンセントを抜く方法や、プリンター内の汚れを取るシートを使うやり方が示してあるので、とりあえず電源を抜いてみたら、復旧した。
1時には間に合わなかったが、京阪、近鉄と乗り継いで「京バーム」に1時半くらいに到着。
嫁はすでに1時から2時半まで続くバームクーヘン作成に行っていて、わしは三階ににある喫茶店で寛ぐ。
最近流行りの抹茶を入れたものや、バームクーヘンの上に粒あんを乗せたり、生クリームをそえたり、と様々なタイプがある。
3時くらいにまた近鉄の十条に戻って、京都に出て、京阪の七条に行く100円バスの券をもらって、七条から三条に出て、4時前に最近来れていなかった河原町三条の「BEER THIRTY」。
ここは3時から5時まで「ハッピーアワー」と称して一部の生ビールが330円(通常は550円)になる。
それはさておき、チェコビールが3種類置いてあるのが素晴らしいのだ。レギュラージャッキで900円なんだが、3種類目の「ミルコ」というのは780円だ。
なんでも3種類ともおんなじビールなんだそうだが、注ぎ方の違いで味が異なるというのだ。
初めに泡を入れてからビールを注ぐ、ビールを入れてから泡を作る(これは普通のやり方だな)最後は泡だけのビール(それで少し安いのかな)。
確かに味がはっきり違うし、おまけにYEBISUビールをさらに濃厚にしたような味わいでとても美味いのだ。ただ泡だけというやつは、なんかもったいない感じがしてオーダーがためらわれる。
並木書房から『特攻作戦全史』(リエリー著、小田部哲哉訳)が出た。大東亜戦争末期に、帝国海軍や陸軍が行った特攻を被ったアメリカの艦船の被害の全貌を日を追って詳細に記した本だ。
翻訳者の小田部がアメリカ側の戦闘記録に加えて、日本側のそれにもあたり、比較することで攻撃に参加した部隊名や、搭乗員の氏名、機種なども脚注で書いている労作だ。
大東亜戦争の体験を記した本は汗牛充棟で、何かとんでもないことが起こったかのような印象があるが、降伏せずに自殺したり、敵陣に無茶な突撃をして全滅したりすることはこれまでの様々な戦争でしばしば見られた現象である。
だから特段日本的な特質があるわけでもなく、さして異常な事態が起こったわけでもない。
例えばナポレオンのロシア遠征では80万の兵士のうち半数が死亡している。これは大半は餓死、凍死によるもので、指揮官が撤退を拒んだからに他ならない。
第一次世界大戦の『西部戦線異常なし』は3年以上にわたって、ドイツとフランスが塹壕戦を繰り広げ機関銃で薙ぎ倒されるにもかかわらず突撃を繰り返した記録だ。
アメリカの南北戦争では60万からの死者が出ているが、これも包囲されたのに降伏せずに全滅したからだ。
それにしても航空機、魚雷、ボートなど様々な形で行われた特攻作戦の全貌を明らかにした本はなかったので、今回の出版は貴重だ。
今まで知らなかった話も多い。
航空機による特攻については、当初は急降下して体当たりしていたが、これでは撃墜される確率も高いのでやがて海面ギリギリに飛んで体当たりするようになった。
このやり方だと対空砲火を水平方向に打たなければならないため、僚船に命中してしまう危険があるので、撃つのが及び腰になるメリットもあった。
戦艦大和を沈めた空母バンカーヒルは特攻機の攻撃で大損害を出したが、それも海面ギリギリに飛んで突入したものだ。
また爆弾を抱えたまま突入するスタイルではなく、直前に投下して命中させてから突っ込むようになった。これはより損害を与えられるからだという。
沖縄戦ではアメリカはレーダー網を張り巡らすために洋上に網の目状にレーダー駆逐艦を配備していたが、もちろん帝国陸海軍の知るところとなり、敵艦艇の所在がはっきりわかっているものだから、連日特攻攻撃をくらい大きな損害が出た。
また夜間の攻撃もしばしば行われている。