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古本屋日誌

2022-06-06 15:25:00

田山花袋が大正3年に出した「田山花袋の日本一周」は2007年に東洋書院から復刻が出た。

 

全3巻のなかなか大冊でもちろん大阪の話もある。

 

「大阪人は利の上の交際のみで、家庭の中は城壁のやうで、滅多に人に開放しないさうだが、其処が面白いね。

 

金さへあれば、開放する必要はないからね。人に内幕なんか見せない方が安心でいいからね。

 

金がないから、仕方がないから関東人は交際なんかするんだね。そして、生活の保障を友情とか人情とかいふやうなもので得て行くんだね。

 

だから、関東人の交際は面倒で仕方がない」

 

これはその通りだ。金がないのが根本的な原因で、1人では生きていけないからどぶ板の付き合い、隣三軒両隣と密に繋がりを持って暮らして行かざるを得ない。

 

それがいいところもあるのは確かなんだが、全体としては極めてわずらわしいこともわれわれの共通認識なのだ。

 

大正時代にそれを看破したのはさすがは「蒲団」の田山花袋だよなあ。

 

これまでの大阪論では、つまりは大阪は金にうるさい、また大きな田舎で人付き合いが濃密だというのばかりだった。

 

花袋はそんな愚かしい駄論にはくみさない。


2022-06-05 23:32:00

このところ仕入れがうまく行ってない。

 

さすがに6月ともなると、宿替やら、転勤やら入学やらもなくなり、慌ただしく不用品の断捨離に励むお客さまが減るからだ。

 

確かに1月からこの方は例年にも増していい本を仕入れられたので嬉しいし、いつの年も夏場は仕入れが難しくなるものであることもよくわかっている。

 

それでも古本屋の宿痾は仕入の不安なのだ。1日でも買取がないと不安に駆られる。

 

ゲーマーは数時間Switchに手を触れないと震えが来るだろう。

カーキチは電車に揺られてると情けなくて涙が出て溢れよう。

結局どんな仕事でも趣味でもホリック化してしまうのだ。

 

さて、いい本を持っているのはそれなりに収入がある地区、まともな大学があるところ、マスコミや出版社が集まっている街だ。

 

そこで今日は行ったことのない奈良、新大宮近くにあるブックオフに行ってみた。

 

佐保川からほど近い国道沿いにある二階建ての大きな店舗だ。

 

ただ本のスペースが広くない。

 

入口すぐのところはゲームソフトや機器、そして大量のカード。

 

続いてテレビのフロアでさらに進むと音楽CD、映像ソフトなどが所狭しと並んでおり、その後はマンガだ。

 

そしてようやく1階の一番奥が文庫、新書、文学書その他のスペース。

 

 

小説の単行本コーナーなど、棚三つくらいしかない。

 

また岩波文庫、中公文庫、ちくま文庫などのコーナーはあるものの、蔵書量があまりにも少なく、目を引くものもない。

 

結局店で売れる主力商品はゲームソフトやカード、電子機器あたりなんだろう。

 

2階のフロアはカードゲームの対戦スペースになっている。

 

これでは客がいい本を売りに来てくれたとしても、買い取りの店員は今ある棚の空きスペースが気になって積極的に買い取れないのではないか。

買いに来るマニアだって、なんでもごった煮で、色々あるけど何にもない空間は魅力的とは言えない。

 

 

 


2022-06-04 21:02:00

西村賢太の「暗渠の宿」の初版本を入手しました。豊崎由美、坪内祐三、福田和哉の3人のコメントがある帯もきれいなので、ぜひお求めください。

 

この本は芥川賞を取るより5年も前の2006年の刊行だ。

 

「けがれなき酒のへど」が収めてある。

 

これは西村が同人誌に掲載したもので、それがその年度の同人誌優秀作と認められて、2004年12月の「文學界」に転載された。

 

内容は、黄白抜きで女と付き合いたいと願っている貫多が、ソープの女に入れ上げて、なんとか店外デートにこぎつける。

 

貫多は女のサラ金などへの借金80万を貸してやって、店をやめさせ、彼女と旅行に行く段取りとなるのだが、借金に加えさらに10万も渡したら、女は約束の時間に現れない。

 

携帯も通じない。結局は金は持ち逃げされ騙されてしまったのだ。

 

その後例の、七尾にある藤澤清造の菩提寺に法要で訪れる。

 

地元の篤志家の皆さんとの打ち上げでしたたか酒をきこしめして、貫多は堪えきれなくなり浜辺に出てへどをつく。

 

このシーンはこうなっている。

 

「今は他になすすべもない私は、むせる程の夏草の精液のそれを思わせる濡れ湿った匂いの中に汗まみれとなり、ただ死体のよう蹲って、最後の逆流がくるのをじっと待っていた。」

 

ややこしい異臭のはずなのに、「むせる程の夏草」てな、ちょっとは嗅いでみたいような青臭い表現になっている。

 

これは亡き藤澤清造の御霊を慰めたいという、弟子としての真心からの法要であり、その打ち上げで飲んだ「けがれなき酒」であるからなんだよなあ。

 

 ソープ女に渡す金を作るために、貫多は神田の古本屋に渡して積み立てていた師匠の全集作成資金に手をつけてしまっていた。

 

そういう、汚れ切った己の諸行も「けがれなき酒」で清められるという救済の話だ。

 


2022-06-02 18:42:00

呉座勇一が角川新書から「戦国武将、虚像と実像」を出した。

 

呉座勇一は中公新書から出した「応仁の乱」がかなり売れたが、ネット上で同僚への攻撃めいた言動を繰り返したかどで、国際日本文化研究センターの職を失った。

 

それはさておき今回の本は徳川時代から明治、戦争中そして戦後と、評価や視点の変化した戦国武将を取り上げた好著で、呉座の目配りのよさや、資料の博捜ぶりがようわかる。

 

 

秀吉の朝鮮出兵は大東亜戦争の時代には素晴らしいものだと評価されていた。

 

時代は欧米列強に日本も含めて帝国主義の時代で、海外に植民地や領土を拡大するのは正しいとされていたからだという。

なるほど確かにそうだよな。

 

この朝鮮出兵を侵略だとして批判する向きもあるのだが、歴史を知らないバカの戯言だ。

 

昔々あるところにの婆さんが川で洗濯板で着物を洗っていたのをとらえて「洗濯機でやったらええやん❗️」てな発言とおんなじなのだ。

 

それはさておき、やはり興味深かったのは最新の研究成果の話で足利義昭が信長に刃向かったのは三方ヶ原の敗戦以降だというやつだ。

 

これまでは浅井朝倉や叡山に加えて義昭に背かれて四面楚歌となっていたとされていたのだ。

 

呉座勇一によれば信長が三方ヶ原で敗れて義昭はその庇護を受けられなくなると危惧して乗り換えたのだというのだ。

 

また信長も義昭を推戴する気持ちはちゃんとあって、そのため、みずから将軍となることはなかったというのだ。

 


2022-06-01 21:19:00

西村賢太は大正時代の私小説作家の藤澤清造の弟子と称して、その全集を刊行すると予告していた。

 

神田の近代文学専門の古本屋である「朝日書林」から出すことに決まっていて、「見本」もオールカラー20ページあまりの立派なものができていた。

 

さらに「小銭をかぞえる」には、この朝日書林に印刷代の一部として納めなければいけない金の段取りが出来ず、同居する女に拝み倒してその親から金を借りる顛末が描いてある。

 

ここまで公然と刊行を予告しているのだから、後には引けないと思うよなあ。

男としてもう引き下がれない。

 

また資金的には芥川賞受賞で、年収は跳ね上がっていた。

 

角川文庫の「一私小説書きの日乗」によれば受賞の前年の年収は480万だったが、受賞した2011年のそれは

「新潮社からだけでも三千八百万円を得ていたことに一驚する。次いで飛び抜けているのは文藝春秋、そして角川書店の順。没交渉となっている講談社は、それでも文庫と単行本の印税、『小説現代』誌の対談で、計百八十万程度は得ていた。

一昨年の自分の年収は四百八十万だったが、今回住民税のみでもその3分の2以上の額を別途納める計算に、つい自分でも訳の判らぬバカ笑いを発してしまう」

テレビにもかなり出ていたわけで、十分な収入だよなあ。

全7巻程度の全集なんかあっというまに出来るのにね。