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古本屋日誌

2020-03-21 01:22:00

昨日は河原町の丸善に用があって京阪電車で祇園四条まで出向いた。

天気も良く気温も高いとあって人手も期待されるところだがお昼のプレミアムカーはまだ空席があってちょっとびっくりした。

さて肝心の人手は春の陽気にしては物足りないものの四条大橋から河原町に流れる人の群れはそれなりのもので、三条河原町のタピオカ屋や木屋町のうどん屋には行列までできていた。

京都は観光都市として成功しているから、まあ大してうまいものを出さなくてもかなり高額でも客は旅の開放感につられて払ってくれる。そのため値段につりあった味を提供しない店も数知れずある。

ただまあいくら観光客相手とはいえ身内でもそんな値段はを取るのはおかしいだろうし、そもそも数知れないほどの貧乏人も住んでいるわけで、美味しくもないのにえらい高い店には行けないだろう。

 

だからわれわれ、外から来る人間がよく知らないちゃんとした店もあるだろうなあ。

京都大学の総合科学部の東側には「丸二食堂」とか「丸三食堂」という極めて安価な定食屋がいくつもあった。特に「丸二」は間口が一間くらいで石段を上がって磨りガラスの板戸を開けるとコンクリートの土間なんだが、油が染み込んで黒光りしていて年期が感じられる作りで、テーブル席の他に奥に擦り切れた畳にちゃぶ台を置いた席もあった。籐の本棚には手垢がびっしりついてページも張り付いているマンガ雑誌が積み上げてある。ベニヤの壁にはカレンダーの裏紙とおぼしきものに「ハンバーグ定食 350円」「唐揚げ定食 290円」「焼肉定食 350円」「刺し身定食 500円」とかが黒いマジックで手書きされていて驚かされる。年末には「感謝セール」と称して500円でどの定食でもいくらでも食べ放題というのをやっていた。

近所に黒谷があってたくさんの無縁墓の墓じまいを山岳部の連中に依頼してやらせていたが、いつもそのメンバーは決まって1人で黙々と墓石を持ち上げて、骨壷などを回収してという孤独な作業を続けていて、その後「丸二」に来て散々食い散らかしていた。

こういう店は不思議だよなあ、だってすぐ横に大学の生協の食堂がいくつもあってかなり安い値段であれこれ提供しているわけだから、それに対抗しようと思ったらさらなるダンピングで応えざるを得ず、そんなことをしていたら経営が成り立たないだろう。

わしが思うにはこれらの店はよほど学生が好きなのか、まあ確かに京大生の大半はバカだから面白いことは間違いなかろう。

あるいは社会奉仕みたいな使命感や宗教的な情熱なのではなかろうか。新興宗教の中には現生利益をあまりに追い求めることを戒める教えもある。ごくまともな人間なら、自分が成功したことはたまたまであり、いろんな人やモノから有形無形の恩恵を受けて初めてなったことぐらいはわかるだろうから、「恩返しをしないと夢見が悪い」と考えても少しも不思議でない。

 


2020-03-20 12:03:00

先日から耐震強化工事が実施されていた京阪電車の萱島駅だが、ようやく工事も終わり、狭かった通路も旧に復し、合わせて新しいタイルが出現した。

1980年に高架線となっておそらくその当時に貼られた深い緑色のタイルは既に入手できなくなっているせいなのだろう、西口正面の高架柱には少し浅めのグリーンで従来より横広のタイルが採用されている。

この駅は構内に楠の大樹を取り込んでいるわけで、その伝で緑のタイルとなっていると考えられる。外側は緑のタイル、駅の内側は白いタイルとなっていてなかやかコントラストも鮮やかで、今回また新たなライトグリーンのものが加わり喧嘩するのか、時とともに調和の度を増すのか今はよくわからない。

大阪大学の鉄道研究会が。2018年に出した鉄道雑誌「パンタグラフ」の京阪電車特集号を入手しました。京阪電車の全駅を紹介するとともに後半は車両の細部にわたる言及があります。ぜひお求めください。IMG_1034.JPG


2020-03-19 08:52:00

ピアからはるき悦巳の「じゃりん子チエ」のアニメのDVDが全6巻で刊行中だ。

1巻に10話程度収録で現在3巻まで出ていて改めて大笑いしながら見ているとテツのひつこさが今さらながら感じられる。

40がらみの健康な大の大人が仕事もせずにぶらぶらしていて、相撲大会には張り切って参加して大怪我を負ってしまい、入院する。見舞いに来たチエはヤクザのおっさん達と病室にいるテツを楽しませようと花火を打ち上げるのだが、誤って花火が病室に飛び込んでテツはひたいを火傷してしまう。

テツは「べんきょうノート」なる帳面を作り、鉛筆ナメナメ何事かをあれこれ書き込んでいるのだが、これは退院後誰を何発どつくかという細かい算段なのだ。

入院中ヤクザの若い衆にはしもの世話になったのだが「こいつらが花火に火ぃつけたんわかってるから3発ずつどつく」「世話になったことはありがとうゆうけど、これはこれ、それはそれや」てなことをいう。

チエが小学校のマラソン大会でぶっちぎりの先頭を走っている時もテツは「あかーーんあかーーん、そないに早走ったらバテてまうがな、おさえぇー」と絶叫しながらいつまでもいつまでもチエの後をおわえてくる。

面白いことは間違いないけど、実際問題やられた側にたったら鬱陶しいでしようなあ。人間関係が濃密な社会の嫌なところですよね。

評論家の呉智英はこの作品は実は大阪の部落の現実をリアルに描いた作品ではないかという。確かに差別されているがゆえにテツは仕事にありつけない、テツは警察をポリと呼んで蛇蝎のごとく嫌っている。まあそうなのかもしれない。しかし世間がもてはやす昭和へのノスタルジーなるものの実態はこれなんだよなあ。

やたらに干渉してくるおかしな大人、近所の連中、プライバシーのプの字もない日常、ヤクザとの濃密なもたれ合い、清潔などとはお世辞にもいえない環境ともう少し思い浮かべただけで嫌になってくる。


2020-03-18 12:28:00

ちくま文庫から向田邦子のベストエッセイが刊行、妹の向田和子らが編さんしている。

1980年に事故死して早40年をけみしようとしている。天才作家であり、いまなおテレビドラマにもなり、新しい全集も刊行されている。

向田邦子の文章はよくたくまれていて、読者に不安感を抱かせない。奇抜な題材が取り上げられるわけでもなく、日常の様々な事象が彼女の心の中で織り上げられてつながりを持っていく。脱線してあらぬ向きに筆が飛ぶことはあっても、支線は回収されて太い河に合わさっていく。

ネタの使い方が実に贅沢。脱線した話だけで十分に興味深いものでそれ一つでゆうに何十ページもの作品が書ける。しかし向田邦子は惜しげも無くほんのエピソードで使ってしまう。

「ごはん」は初めは歩行者天国の話でなんか車道を歩くのは具合が悪い、しっくりこないという話。やがて3月10日の東京大空襲の話になり、焼夷弾が家の中に降って来て畳が燃えだしたので急いで消さないとならなくなり土足で畳の上を走り回ることになる。なんか居心地の悪さを感じるわけだ。

翌日焼け残ったわが家で「次はやられるから、最後に美味しいものでも食べよう」となって、とっておきのご馳走を食べた。といってもサツマイモの精進揚なんだが、家の隣の外科医院には負傷した人や亡くなった人がいる中で舌つづみを打つ、確かに居心地がよろしくはない。

さらに話は向田邦子が軽い結核になり養生のため苦しい家計の中から奮発して鰻を食べさせてもらうネタになっていってこれまた居心地はよろしくはないが、それでも美味しいものは美味しいという。

結局向田は思い出に残る残るごはんの話をしていたことがわかってきて、それは空襲の翌日に食べた精進揚と気兼ねして食べた鰻なんだそうだ。

真似のできない芸当ですな〜〜

向田邦子の文章を読むと才能は厳然と存在することがよくわかる。でもまあ世間に流通してる大半の書籍は、これは需要があるから生産してるだけで、それはそれで商売としては現実的ではあるけど、バカバカしいことも確かだな。


2020-03-17 13:07:00

文壇の大御所杉山平一がやっていた「文学雑誌」57号(1980年)に磯田敏夫は「新派大悲劇」を書いてキャバレー衰亡の原因を探っている。

道頓堀には巨大キャバレー「メトロ」「富士」「美人座」をはじめとして「ユニバース」「ミス大阪」など様々なキャバレーがあるが、今日あの「メトロ」でさえダンスホールになってしまったのでと嘆く。

これは客が来なくなったことが第一の問題で、それは団塊の世代に子どもがポコポコ生まれて、教育費や何やら今まで考えられなかった規模で金をかけるようになって、その煽りで旦那の遊興費が大きく減ってしまったことによる。

おまけにキャバレーのシステムを悪用するホステスの問題もあるという。なんでも新人ホステスは2ヶ月の間は指名がつかなくても最低保証日給で7000円もらえるという。そのため2ヶ月経ったらさっさと辞めてまた別のキャバーレに勤めることを繰り返す輩がいる、それもかなり年配の女までやっている。

こづかいの減ったお父さん方はキャバレーの横にできた居酒屋に流れて、ここで集団見合いみたいなことを楽しんでいてもうキャバレーには流れては来ない。

磯田の小説は盛り上がらないキャバレーの日常を活写して、いくらでも発生する深刻な危機を流れるような文体で書く。

慰安旅行にせっかく来たのに店長の母親が亡くなってしまい宴会も盛り上がらない、裸踊りを披露してくれるホステスも雰囲気を察しておとなしい。磯田はその時火事で焼け死んだホステスの両親に詫びに行った時の針のむしろのさまを思い出す。いつまでもいつまでも面罵され続ける。


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