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古本屋日誌

2020-03-18 12:28:00

ちくま文庫から向田邦子のベストエッセイが刊行、妹の向田和子らが編さんしている。

1980年に事故死して早40年をけみしようとしている。天才作家であり、いまなおテレビドラマにもなり、新しい全集も刊行されている。

向田邦子の文章はよくたくまれていて、読者に不安感を抱かせない。奇抜な題材が取り上げられるわけでもなく、日常の様々な事象が彼女の心の中で織り上げられてつながりを持っていく。脱線してあらぬ向きに筆が飛ぶことはあっても、支線は回収されて太い河に合わさっていく。

ネタの使い方が実に贅沢。脱線した話だけで十分に興味深いものでそれ一つでゆうに何十ページもの作品が書ける。しかし向田邦子は惜しげも無くほんのエピソードで使ってしまう。

「ごはん」は初めは歩行者天国の話でなんか車道を歩くのは具合が悪い、しっくりこないという話。やがて3月10日の東京大空襲の話になり、焼夷弾が家の中に降って来て畳が燃えだしたので急いで消さないとならなくなり土足で畳の上を走り回ることになる。なんか居心地の悪さを感じるわけだ。

翌日焼け残ったわが家で「次はやられるから、最後に美味しいものでも食べよう」となって、とっておきのご馳走を食べた。といってもサツマイモの精進揚なんだが、家の隣の外科医院には負傷した人や亡くなった人がいる中で舌つづみを打つ、確かに居心地がよろしくはない。

さらに話は向田邦子が軽い結核になり養生のため苦しい家計の中から奮発して鰻を食べさせてもらうネタになっていってこれまた居心地はよろしくはないが、それでも美味しいものは美味しいという。

結局向田は思い出に残る残るごはんの話をしていたことがわかってきて、それは空襲の翌日に食べた精進揚と気兼ねして食べた鰻なんだそうだ。

真似のできない芸当ですな〜〜

向田邦子の文章を読むと才能は厳然と存在することがよくわかる。でもまあ世間に流通してる大半の書籍は、これは需要があるから生産してるだけで、それはそれで商売としては現実的ではあるけど、バカバカしいことも確かだな。