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古本屋日誌
大阪のビバリーヒルズ、箕面にある古本屋「ひなたブック」に出向いた。
ここは阪急箕面駅から滝道を5分くらい登ったところにある二階建ての古本屋だ。
俺の予想では客はリタイアした、60過ぎ、70過ぎの紳士、淑女だ。
のんびりと好きな本を片手に、箕面ビールなども嗜んで、この渓流の古本屋でひと時を過ごしているという感じだ。
さてこの店の営業は土日だけ。
一階は、店頭にシーボルトの植物誌を額装したものがたくさん並んでいて一枚千円だ。
また絵本や絵葉書も人目を引くように並べてある。
入っていくとすぐ目の前には文庫本の棚。
さらに進むとちくま文庫、講談社文芸文庫、河出文庫、福武文庫などの文芸書コーナーがある。
また料理のレシピ本やグルメ本が並んでいる。さらに奥に進むとレジを超えて、張り出しが作ってある。
床は簀子が敷いてあって、ちょうど物干し台みたいな形状だ。
そして、すぐ下は箕面の滝から流れ出した渓流が爽やかな音を立てて流れている。
部屋の真ん中にはスペースがとってあって、三方に本棚がしつらえてある。
山岳関係の本、猫の本、バードの中国や朝鮮の旅行記などが適度なスペースを保って並んでいる。
急な階段を上がると、2階にはたくさんの絵本が並んでいる。
ここも一階は同様、渓流に張り出した作りになっていた、広く空いている窓からは清流を眺められる。
この部屋も中央は広いスペースが確保してあって、たくさん椅子が並んでいる。
本は壁際に並んでいて、真ん中の椅子から手を伸ばせば届くところにあって、ゆったり座って楽しむことができる。
窓際に置いてある扇風機からは渓流の涼風が届けられて心地よい。
大正時代に鈴木三重吉が発行していた『赤い鳥』の復刻版の冊子が窓際に置いてある木箱の中にたくさん詰まっている。
長新太、武井武雄、谷内六郎、藤城清治などの絵本もある。
お客さんを見ていると、リタイアした老紳士や淑女がのんびりと、一階の文芸書を、ビール片手に楽しむという風ではなかった。
客の多くは家族連れで、親子3人で、2階に上がって、しばらく本を物色しては何冊か絵本を買い求める。
ほかに男同士、女同士やカップルもいる。
この本屋は予想に反して、小さい我が子の教育を自然豊かなところで行いたいと願う、自然嗜好派の、比較的若い夫婦がターゲットなのだとわかった。
うーん、老後を落ち着いて過ごせる本屋はまだないということか。
古本屋は仕入れが大事だ。
お客さんから本を読む売ってもらう、せどりをするなどの手段でたくさんの本を仕入れる。
本に限らず、自分の好きなものは過剰にこうてきまうことがある。
靴でも、ジャケットでも、鞄でも店頭で買う時は楽しいのだが、家に帰って冷静になってみたら、どう考えても似合わないものや、不要なものを買い込んでいることがしばしばある。
本も、家の本棚を見てみたら、全く読んでいないもの、こうたことすら記憶にないものがたくさんある。
古本屋になる前は
「あーまたいらん本こうてもたわ。金もないのに、しょうむない無駄遣い❗️どないしょうもないわ」と自己嫌悪に陥っていた。
しかしいざ商売で始めてみたら、自分は読む気も全くないけど、「間違いなく売れるし、利益も出る」という観点でいくらでも本を買い込めることになった。
無駄遣いをして後悔するのではなく、逆に買わなかったことを後悔することになる。
ものを買う楽しさや、金を使う楽しさを味わうことができるのだ。
果物屋や八百屋なんかでもおんなじだろう。
自分の好きな、何よりも早く食べたいリンゴやスイカを、思いっきり全力でいくらでも買うことができるのだ。
よく子供のとき「このスイカを兄弟3人で分け合って食べるんやのうて、自分一人でぜーんぶ食べられたらなあ」と思ったことは誰しもある。
果物屋になれば、容易くその夢は叶えられる。
もっとも商売だから、売れもしないものを買い込むのはバカなんだけれど、ちゃんと売れていく。
またいくらスイカを愛しているといっても、毎日毎日スイカを見て興奮できるわけでもないだろう。
でも果物屋になろうというくらいの連中は、普通の人より遥かにスイカに感動し続けられる人物なんだ。
そういったものを買いまくる楽しさを追求しているのは、京都の川端丸太町東入ルにある「マキムラ書店」だ。
間口は2間くらいあるが、店内は4列に本棚が並んでいて、本がぎっしり詰まっているのみならず、本棚と本棚の間の通路も床面から天井に届くくらいまで本が積み上がっていて、まさに立錐の余地もない。
客は身体を横にしないと通ることもできないし、本に圧倒される。
今はもうないが、上六に「一色文庫」という古本屋があった。
ここは老後の長い時間をどうつぶしていくかの試みをしているように思えた店だ。
客は年齢を重ねて足腰に不調が出て、本屋で立ったまま本を選ぶのがえらくなってくる。
そこで、この古本屋は、本は三方の壁際に集めて、店の真ん中にはたくさんのソファーを配置していた。
ゆっくり腰掛けて本を選んでくださいという配慮だ。
ブックオフほどではないが店内は整理整頓されていて、床に本が山積みになっていて、通るのもやっとなどということはない。
また置いてある本も最近のやつではなくて30年、40年、と年月の試練を経た、客には若い頃の思い出を呼び覚ましてくれる懐かしいものがそろえてある。
キネマ旬報が毎月出していた『蒸気機関車』、文藝春秋がだいぶ前に出した3巻本の『向田邦子全集』。
かなりたくさんの本に、カバーの上から透明なシートをわざわざ掛けてくれていた。もともときれいな本だが、さらに美しさが際立っていた。これも客への細やかな配慮だ。
もちろん客から最近出た本も譲り受けるのだが、それはAmazonで販売して、店には置いていなかった。
店の真ん中にはテーブルが置いてあって、普段は上に単行本が並んでいる。
しかし、時折それを囲んで、読書会をやっていた。
コーヒーやら紅茶、お菓子を食べながら「じゃりン子チエ」や「嵐が丘」について、関心のある数人の年寄り連中がああでもない、こうでもないと楽しいひとときを過ごすのだ。
店にはたくさんの客がいつもいて、繁盛しているように見えた。
しかし去年の年末、何の予告もなく閉店。
未だに未練が残る。
古本屋も通販に売上を頼るようになって久しい。
店舗での対面販売なら、お客さんが本のコンディションを確認して買うわけだから、こっちは包装してお渡しするだけだ。
しかし通販では、こっちが「これはいい状態だ」と判断してお送りしても、お客さんの感じ方では「コンディションがよくない」と取られてしまうこともある。
また逆に「読めればいい状態」と考えて安く値付けした本をお客さんは「こんなきれいな本をどうもありがとうございます」と感謝してくださることもある。
他にもページが欠けていたとか、コンディションに記載のない線引きがあったとか、いろんなクレームをお受けすることがある。
もちろん本のコンディションの確認はしているはものの、見落としもあるし、感じ方の違いもある。
だから通販では一部を除いて、そのままお客さんの申し出をお受けすることが多い。
通販という販売形態はそういうリスクがあるということなのだ。
だからそれを前提にして値付けを考えればいいだけだ。
箕面は大阪随一の高額所得者が住む街だ。
大阪大学もあるし、本への需要はかなりある。したがって興味深い古本屋もあるのだが、今回は老後を見据えた本屋の話だ。
それなりに活字に親しんだ人間がリタイアした後、急にアウトドアに目覚めるなんてことはない。
やはりのんびりと好きな本を読んで思索を楽しみたいと思うものだ。
また若い頃親しんだ、いろんなレコードを聞き返したいとも思うものだ。
しかし目は老眼で、近くのものを見つめるのは骨が折れるし、そもそも根気が続かない。
車の運転も反射神経が鈍っているし、何よりめんどくさいし、税金やガソリン代、パーキングの費用を考えると意味のないものになる。
だから車で行く必要なく駅近で、本の朗読などのイベントがあって、またレコードやCDが豊富、その上店内にプレーヤーも備えてあって気に入った音盤は試聴できるみたいな古本屋が求められよう。
箕面地区にはそのような引退したインテリの需要に応えようとする本屋があるのではなかろうか。
まず注目すべきは阪急箕面駅から滝道を10分程度歩いたところにある『ひなたブック』だ。
ここはまず駅から10分程度自然道を歩かなければならず、金持ちの自然環境志向満たすロケーションなのだ。
店内には地ビールが飲めるようになっているし、扱っている本は文学書と探偵小説やSFだ。
なかなかいい趣味ではないか。
昼ひなかから清流のねきでビール片手に、慣れ親しんだ本を読む、しかも10分程度だが少し汗ばむくらいの運動もこなしていて、自分への言い訳も問題ないのだ。